第21話 かくれんぼの始まり
コンコンコン……。
隼人の部屋のドアをノックする音がした。
彼がドアを開けるとそこにはヒカルがひとり
立っていた。
「コトは?」
彼がそう尋ねると、
「コト……武蔵さんに呼ばれて……だから、
先に隼人さんの部屋に行っててって……」
「そうか……じゃあ、入れよ」
「うん……」
そう言うと隼人はヒカルを部屋に
招き入れた。
パタン……
隼人の部屋のドアが閉まった。
「レイは?」
ヒカルが尋ねると、
「レイは、買い出しだよ。時期に戻ってくるよ」
「そう……」
「まぁ、座れよ」
「うん……」
そう言うとヒカルはソファーに座った。
「昼間は大丈夫だったか?」
「うん、レイが連絡くれたから、
間一髪切り抜けられた……」
「そうか……」
隼人が微笑んだ。
ドンドンドン……
ドアを叩く音ともにレイの声が聞こえてきた。
「兄貴~、俺、レイだよ。開けて」
隼人がドアを開けると、レイと一緒に
コトが入って来た。
「ちょっとぉ~、隼人、ヒカルどういうこと?
ヒカル、あなたが尋ね人って……こっちは、
訳がわからないまま辻褄合わせるの
大変だったんだから!」
「まぁ、まぁコト落ち着けよ……」
隼人がコトの肩を包み込み自分の胸元へ
引き寄せた。
「あ……うん」
大人しくなるコト。
「じゃあ、全員そろったところで、
少し情報を整理しようか……」
隼人が三人の顔を見ながら言った。
「ある日突然、ヒカルがこの街に現れた。
ヒカルは、自分のことがわからない、
ある種の記憶喪失状態で、俺が発見した時には
衣類が少し汚れていた。
病院? 診察室に入ると過呼吸になり、
時々、頭痛にみまわれる。
頭痛と記憶にはなにか関係がある。
ヒカルは、懸賞金付きの尋ね人、
そして、親父が中心となって
数ヶ月前から水面下でヒカルを探して
いたことがわかった……。
依頼人と親父が持っていたヒカルの
写真は、今のヒカルとは似てもにつかない
清楚で、美しく着飾った女性」
「あの……似てもにつかないって……どんな……」
「まぁ、まぁ、ヒカルその辺は気にするなよ」
レイが優しく微笑んだ。
「レイは優しいね。隼人と違って……
でも、確か、最初にヒカルを見た時は
あの写真のような感じだったよね……
お嬢様風で……今は薄汚れて髪の毛も
薄い茶色に変色しちゃったけどさ……」
コトがヒカルの髪の毛を撫でながら
隼人の方を見た。
「でも、今日、その懸賞金を出した
依頼人がこの街に乗り込んできた……。
ヒカルを探しに……。
そして、最大の謎は、何故ヒカルを
探しているのか……ってことだ」
「ヒカル……おまえは一体何者なんだ?
そして、何処からこの街にやって来たんだ?
あの、男達は誰なんだ?」
隼人が呟いた。
「わかんない……思い出そうとすると、
激しい頭痛に襲われる……私、自分のこと
思い出したくないのかな?」
「そ~んなことないよ! ね!」
レイが隼人とコトの顔を見なが言うと、
「でも……最近、ヒカルの頭痛の回数も
増えてるし、夜も時々うなされてるんだよね」
コトがヒカルの顔見るとそう呟いた。
「とにかく、今日はなんとかバレずに
すんだけど……ヒカル、気をつけないとね」
「うん……レイ、ありがとう」
「う……ん、しかし、ヒカルが店にいるのが
バレるのも時間の問題だな」
隼人が呟いた。
「兄貴は、どうしてそう思うんだ?」
「目だよ……目」
「目? 目がなんだよ兄貴」
「あの依頼人の男の目とあの男の
落ち着きぶりが妙に気になる……」
「『K』のこと?」
コトが口を開いた。
「『K』って誰だよ」
レイが聞いた。
「うん、私も彼がどういう人物かは
知らないんだけど、隼人が言うように
妙に落ち着いてて、裏社会の人間には
思えないんだ。会話の内容も紳士的だし。
でも……」
「でも、なんだよ、コト……」
「微笑みが冷たいんだよね。冷酷というか。
笑ってたかと思うと、急に冷酷な表情で
部下に淡々と話をしたり……
おそらく、あの『K』って男が親玉だよ。
そして、厨房にヒカルを見に行った
もう一人の村山って男が、ナンバー2だと
思う……」
「そうか……コト、おまえは危なくならない
程度でいいからあの男のこと探ってほしい。
それでもしも、危険を感じたら
すぐに俺等を切れ……わかったな?」
「切るって?」
ヒカルが隼人に尋ねた。
「身の危険を感じたら、俺等とは関係ないって
言い張るってこと。
つまり、切り捨てるってことかな」
「そんな……仲間を切り捨てるなんて」
驚くヒカルにレイが言った。
「ヒカル……驚かなくていいよ。
これはコトを守るってことなんだよ。
コトが俺等と関係あるってわかったら、
何されるかわかんないでしょ?
それに、彼女には害が及ばない
唯一の方法だからね……」
「まぁ、私は隼人とレイを切り捨てたり、
売ったりしないけどね」
「ほら、コト! 今、俺等が言ったこと
ちゃんと守れ!」
「は~い。わかりました。もう、隼人強引」
口を尖らせ、ぷいっと横を向くコト。
「とにかくさ、これでヒカルのことが
わかると思うから……ヒカル、心配すんなよ」
隼人がヒカルの顔を見て笑顔を見せた。
「ヒカル、おまえ、明日から暫く
この部屋に寝泊まりしろ……」
隼人から突然の提案に、驚いた三人、
「兄貴……ヒカルをこの部屋に住まわせるの?」
「あぁ、そうだけど。なんか問題あるか?」
「い、いやぁ~、その、兄貴は男だし……
ヒカルも女だし……それにほら、コトの顔が」
「コトがなんだよ?」
隼人がコトの顔を見ると、顔を真っ赤に染め、
ほっぺたをぷぅ~っと膨らませたコトが、
隼人に詰め寄ると、
「え~、なんで? なんでそうなるの?」
と隼人の胸ぐらを掴んだ。
「何でって、それは、暴漢対策だよ。
尋ね人になったヒカルを強引に連れて行こう
とする輩が出てくると思う。そういう時の
ボディーガードも兼ねてるんだよ」
「でも……ひとつ屋根の下で男女が
暮らすってことは……その、成り行きで
ヤッちゃうってことあるでしょ?
じゃあ、私も明日からこの部屋で暮らす!」
コトの言葉に反応した隼人が、
「はぁ~? この狭い部屋に三人も
いたら狭苦しいだろ? それに、コトよく聞け!
俺は、ヒカルには手を出さない!
そして、コト、おまえにもだ!
わかったら今夜はさっさと帰れ!
レイ、二人を送っていけよ!」
隼人がレイの顔をキッと睨むと
そう捨て台詞を履いた。
隼人とコトの口喧嘩に呆れ顔のレイ……
三人の会話を聞いていたヒカルは、
「あの……ごめんなさい、私のせいで」
と頭を下げた。
「ヒカルは悪くないんだよ」
コトが微笑む。
「そうだよ。ヒカル、今夜は帰ろう」
レイに連れられ、コトとヒカルは
コトの部屋に帰って行った。
コトが勤める店を出る、K と村山、
そして、黒服の男達……
神谷武蔵が彼等を見送る……。
「K、彼女はやっぱりこの街にはいない」
村山がKに話かけた。
眉間にしわを寄せ、
考え込むような表情を見せたKが
一言……
「いや……俺は、彼女はまだこの街に
いるんじゃないか……と思う。
少し、気になる人物が数人いる。
今後、そいつらをマークしてほしい」
Kがそう呟いた。
「わかった。じゃあ、少人数で動く」
「ああ、そうしてくれ」
と言うと、Kは不敵な笑みを浮かべ、
「さぁ、かくれんぼの始まりです。
私は……鬼ですね……」
と言った。
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