第16話 診療所と彼女の異変

 「痛ててて、痛て~よ、ドクター」

 

 「これ、隼人! 動くでない。

まったくおまえという男は……どうして、

こんなに怪我ばかりするのじゃ? 

 ほれ、終わりじゃ」


 街の一角にある診療所に運ばれた隼人、

顔なじみの白髪の医者、通称、ドクターから

治療をうける。

 「ドクター、ありがとうございます。

 治療費はこれで……」

 レイがドクターに金とウイスキーの瓶を

差し出した。

 金とウイスキーの瓶を受け取ったドクターは、

 「レイ、おまえも大変じゃな。で、今度は

何をしたんだ? この男は……え?」

 

 「あぁ~、それは……ちょっと」

 言葉を濁すレイ……

 「ふん! どうせ、ろくなことじゃ

ないんじゃろ?」

 口を尖らすドクター。

 「ちげぇ~よ。あてててて」

 「だから、まだ動くでない……と言っとるでは

ないか」

 隼人をこずくドクター。

 

 「まったく、おまえは、コトやレイに心配ばかり

かけおって……大体な……ん? 

 誰じゃ? あの娘は」

 ドクターが処置室の入り口に立ち部屋の中を

覗いているヒカルを見つけるとレイに聞いた。

 「あの子は……」

 レイが説明をしようとした時、ドクターが

ニヤっと笑うと、

 「ははぁ~ん、この傷、さては

あの娘が原因じゃな。

 まったく、隼人よ、コトという美女が、

近くにおるのに、どうして、こうおまえの前には

いい女が現れるのか……不思議じゃ。

 わしもあと少し若かったら、あの娘にアタックできたのに」

 ドクターは真顔で、ヒカルの前に歩み寄ると、

ヒカルの両手を握りしめ、

 「お嬢さん、どう? わし……」

 と言った。


 「えっと……私……」

 ドクターに手を握られたヒカルの様子が

おかしいことに気づいたドクター……


 「お嬢さん? 気分でも悪いのか?」

 ドクターが彼女に声をかけた瞬間、

ヒカルはドクターにもたれかかり

床に座り込んだ。


 「ヒカルちゃん? 大丈夫?」

 コトが、驚きヒカルに声をかける。

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 突然呼吸が乱れはじめたヒカル……。


 その様子を処置台の上に横になっていた

隼人も驚き起き上がった。


 「ヒカル! 大丈夫か? ドクター、

ヒカルどこか悪いのかよ? どうしたんだよ!」

 「あ~、もう、心配いらんよ。

 だだの過呼吸じゃ」

 「過呼吸? ただの?」

 「お嬢さん、大丈夫じゃよ。

ほれ、この袋を口にあてて、

ゆっくり息を吸って~、はい、吐いて~。

 そうじゃ。大丈夫じゃよ」

 ドクターの優しい声かけとともに、ヒカルの

呼吸も整い始めた。

 「あ……すみません。私、私……」

 「ん? 診療所は嫌いかね? 

 お嬢さん、苦しくないかね?

 他にどこか痛いところはないかね?」 

 「えっと、処置室に入ったら、急に頭痛がして、

息が苦しくなって……」

 ヒカルの言葉を聞いたドクターは、

 「そうか、さては、おまえさんは注射がきらい

なのじゃな? そして、病院が嫌いなのじゃ。

 まあ、またこのようなことがあったら、

いつでもわしの所に来なさい。無償で診察して

やるからな。念のため、頭痛薬をだしておくよ」

 ドクターは優しく微笑んだ。


 処置台の上の隼人、そしてレイとコトは

ヒカルの様子を見て、彼女の『失くした記憶』と

何らかの関係があるのではないかと感じたの

だった。

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