第15話 この街の掟
「オラ、こっちだ……」
ドカッ……ボスッ……。
「うう……」
古い倉庫内に響き渡る鈍い音とうめき声。
ドサっ……。
汚れたアスファルトの床に倒れ込む隼人。
「もうそのへんでいい。やめておけ」
静かな声が聞こえると、隼人に群がる数人の
男達が一斉に彼から離れた。
倒れ込んだ隼人、額からは流れる鮮血、
そして腫れあがった瞼……。
隼人のもとに、例の店のオーナーが
ゆっくりと歩み寄りしゃがみ込むと、
倒れ込んだまま、顔を上げる隼人にむかって、
「話をつけるために、戻ってくるなんて
隼人、おまえは相変わらず肝がすわってるな……
こうなることもわかった上で、わざわざ
殴られに来るなんて……」
オーナーが微笑んだ。
「ゴホッ、これがこの街の『掟』だろ?」
隼人が呟いた。
「そうだな……。確かに、この街の掟だな。
人のものを奪ったら、罰を受ける……」
オーナーが、微笑みながら隼人に言った。
煙草に火をつけ、ふぅ~っと煙を吐くオーナー、
倉庫の天井から、チカチカと自分たちを
照らす蛍光灯の下、隼人に視線を向けると、
「隼人、これでこの件はチャラだ。
今回は見逃してやる……。
しかし、次はないからな。
我々も大事な上玉の商品をみすみす失くして
しまったんだからな……」
と言い残すと、数人の男を従えて倉庫から
出て行った。
一人残され、床に大の字に倒れたままの隼人。
暫くすると、ガラガラガラ……という倉庫の
扉が開く音とともにレイとコト、そしてヒカルが
走り込んで来た。
「兄貴! 兄貴しっかりしろ! 大丈夫か?」
隼人を抱きかかえ大声で叫ぶレイ。
「レイ、うるさい!
イテテテ……俺は大丈夫だよ」
と呟いた。
「隼人、血だらけじゃない。レイ、早く隼人を
診療所に運ばないと……」
心配するコトの声を聞いた隼人……。
「コト、大丈夫だから。こんなのすぐに治るよ」
「兄貴~、いくら兄貴でもこんな
無茶するなんて」
「そうだよ。掟を破った代償を
自ら受けにいくなんて」
「掟? 代償?」
ヒカルが呟いた。
彼女の声を聞いたレイ……
ヒカルの顔を申し訳なさそうに見ると、
「兄貴がヒカルちゃんをオーナーのもとから
連れ戻しちゃったでしょ?
一度、女の子をお店に紹介して
お金を貰うと、どういう理由があっても
連れ戻すことはできないんだ。
でも、兄貴はその掟を破った……。
だから、罰を受けたんだよ」
「レイ、もうそれ以上は言うな……ゴホゴホ」
「レイ、しゃべっっちゃダメだよ」
心配するコトがレイの顔を覗き込む。
「私……、私のせいで隼人さんがこんな目に……
私……私、ごめんなさい」
目に大粒の涙を浮かべたヒカルは、
レイに抱きかかえられている隼人の前に
膝まづいた。
「大丈夫だから、もう泣くなよ……ヒカル」
隼人は、血だらけの掌でヒカルの頭を優しく撫でた。
倉庫を出たオーナーがスマホを耳に当てると、
「もしもし、私です。はい、少し痛い目に
併せましたが、他の者の手前、ご子息に手荒い
真似を致しました。
数日後には動けるようになるかと……
はい、はい、わかりました。では……」
そう言うと短い会話を終えた。
同じころ、隼人の養父、神谷武蔵も
通話を終えると、事務所内にいた客人に向かって、
「失礼致しました。
うちのバカ息子がしでかしまして、で?
ご用件は、人を探せばいいのですね……
わかりました。この街の隅々まで探させていただきます」
そう言うと、客人から差し出された一枚の写真を
上着の内ポケットに入れた。
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