第14話 ドリーム・タウン
隼人とレイと約束して、ヒカルを
彼女の部屋で生活させることを了承した
コト……。
隼人の部屋を後にした彼女は、ヒカルを
連れて路地裏の道をしばらく歩くと、
少し開けた場所に立つ数階建てのビルに
到着した。
そのビルは、古く低い雑居ビルが
建ち並ぶ、ネオン街からは少し離れた場所に
位置し、ビルの周りには少しの木々が
植えてあり、緑色の葉がゆらゆらと
風になびいていた。
その光景を見たヒカルは、レイが言った
この街で一番いい場所……という意味が
ようやく理解出来た。
EVで最上階に上がった二人、
「どうぞ、入って……」
コトが、ドアを開けてヒカルを中に
案内した。
小綺麗にされた部屋には、
家具はもちろんのこと、電化製品が置かれ、
さっきまでいた隼人の部屋とは
雲泥の差だった。
部屋の中央に立ったヒカルは、ぐるりと
部屋全体を見渡した。
「どうぞ、これでも飲んで……」
コトが、綺麗なカップに入った
紅茶を運んできた。
ヒカルの戸惑う顔を見たコトが言った。
「驚いた? この街にこんな場所があるって」
「は……い。昨日からこの街を見てきました
けど、ここだけ雰囲気が違うっていうか……
別空間のような…」
彼女の言葉を聞いたコトは、静かに微笑むと、
「こっちに来て……」
とヒカルをバルコニーに通じるドアの前に
来るように言った。
コトが、バルコニーに出るドアを開けると、
眼下に広がる古い低めの雑居ビル群、
錆びたトタン屋根の倉庫街、
そしてバラック屋根の家々が見えた。
街から立ち上る白い水蒸気が街の至る所から
立ちのぼり街の建物を隠しているのがわかった。
「ここからだと、片陰の街全体が見渡せるの」
さっきまで、興奮して隼人につっかかっていた
彼女とは裏腹に静かな口調になったコト……。
彼女の容姿は、軽装ではあるものの、
世の男性が憧れ、手に入れたくなるような、
全身から色気と妖艶さが醸し出された
身体つき……
そして、何よりとても美しかった。
そんな、彼女にドキッとさせられたヒカル……。
バルコニーから見える片陰の街の
遥か遠くに見えるある景色に気づく……。
「コトさん……。あれは?」
ヒカルはある方向を指差し、コトに聞いた。
ヒカルが指をさした方向を見たコト、
ゆっくり口を開くと……
「あれは、ドリーム・タウンよ……」
「ドリーム・タウン?」
「そう、あそこはお金と名誉と地位を持つ
人が住んでる街。私達とちがって、裕福な人だけが
住むことが出来る……陽の当たる街。
片陰の街に住む者はいつかこの街を出て、
あの陽の当たる街、ドリーム・タウンで、
すべてを手に入れたいと願っている……」
「そうか……。隼人さんも確かそう言って
たな……」
ヒカルがそう呟くと、コトが微笑みながら、
「隼人が? そんなこと言ったんだ……
でも、実際は、夢物語で生涯を終える者が
多いのよ……。この街で生まれ育った者は
この街のことしか知らないの……。盗み、
殺人、犯罪の多発するこの街しか……
街の外には、自由と夢と希望があることを
知らずに一生を終える……。私も、その一人。
この街でしか生きていけない……」
と悲しそうにコトが言った。
「この街は、そんな街なんですね……」
ヒカルも小声になった。
「まぁ、でもね、この街も慣れば
いい所だよ……。それより、ヒカルちゃんの
その格好は、この街では不釣り合いだよな~。
よし! 先ずはその服をどうにかしよう!」
「え? 服? 着替えるの?」
「そう! 郷に入れば郷に従えって言葉が
あるでしょ? そんな清楚なワンピースは
この街には似合わない!」
そう言うと、コトはクローゼットを開け、
ヒカルに似合う自分の洋服を手に取った。
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