第12話 乱入者

 夜が明けた……。

 

 朝靄が立ち込める中、

片陰の街も朝を迎える……。


 カチャ、カチャ、カチャ……

食器が擦れる音が聞こえ、

ヒカルが目を覚ました。

 

 彼女は、ベットから起き上がると、

小さなシンク台の前に立つ隼人の背後に

歩み寄った。


 「おはよう……。よく眠れたか?」

 優しく声をかける隼人。

 「うん……。隼人さん、ありがとう」

 「そうか……、朝飯、丁度出来たとこ、

食おうぜ」

 目玉焼きとパンを乗せたお皿を二枚持つと

隼人がテーブルに視線を移した。


 「珈琲に砂糖は入れるの?」

 「ブラックで大丈夫」

 椅子に座った二人は、両手を合わせ、

 「いただきます」

 と言い朝食を食べ始めた。


 ヒカルの食べる姿をじっと見つめる隼人。

 そんな彼の様子に気づいたヒカルは、

 「どうしたの?」

 と聞いた。


 隼人は、照れくさそうに、

「俺、ここ数年こんな風に誰かと

一緒に朝飯食うことなかったからさ……。

 なんか、いいな……って思って」


 「そうなんだ……。確かに、誰かと一緒に

食べる食事は、美味しいもんね」

 「ああ、そうだな」

 隼人は、パンを一口かじると、湯気が立つ

珈琲を飲む。


 部屋の奥の大きな窓からは、朝陽が

細い線となって部屋の中に差し込んでいた。


 「この街にも、陽が当たる瞬間があるんだぜ」

 「陽が当たる瞬間?」

 「そう、一日が始まる瞬間……」

 「朝……?」

 「そうだ。朝だけは、この街にも陽が当たるんだ。

 短い間だけどね。でも、その瞬間だけは、

俺等も、すべてが平等……って気がするんだ」

 隼人はカップに注がれた珈琲を飲み干した。


 隼人のことが少しわかった気がした

ヒカルからも自然と笑みがこぼれた。


 ドン、ドン、ドン……。

 ドアを叩く大きな音が聞こえてきた。


 テーブルに座る二人が、ドアの方向を見ると、

バーン……という音とともに一人の綺麗な女性が

飛び込んで来た……。


 髪を振り乱し、息を切らして、

肩を上下に動かす女性は、

つかつかと部屋の中へ入り込むと、

隼人とヒカルの前に仁王立ちになった。


 そして、女性の後ろから彼女を追いかけて来た

レイが部屋の中に走り込んで来た。

 「はぁ、はぁ、はぁ……。コト、落ち着けよ」

 息を切らしたレイが彼女に声をかける。

 レイの言葉を聞いた女性は、ヒカルの顔を

じっと見つめた後、隼人の顔に視線を移すと……

 

 「隼人……、これはどういうこと? 誰?

 この女……」

 と明らかに怒っているような口調で隼人を

問い詰めた。


 「……」

 無言で、何も話さない隼人を見たヒカルは、

 「あのぉ~、隼人さん、この方は?」

 恐る恐る聞いた。

 

 すると、女性は、髪をかきあげながら、

 「私はコト。隼人の一番近くにいる女。

あんたこそ、誰なのよ。

 隼人の部屋にいるなんて……。

 私だって、滅多に部屋に

入れてくれないのに……」

 

 興奮した口調で話す彼女が、

ヒカルに掴みかかろうとした。

 

 驚くヒカル……

慌てるレイ……

そして冷静な隼人……。


 ガタッ!

 椅子から立ち上がった隼人は、

興奮する彼女の両手首を掴むと、

 「コト……そう怒るなよ。

ちゃんと説明するから」


 と言うと彼女を椅子に座らせた。

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