第8話 逃げろ
息を切らしながら古いビルの前に
辿り着いた隼人は
なく、ビルの中に入って行った。
勢いよく応接室のドアを開けた隼人、
そこには、オーナーと手にペンを握った
ヒカルの姿。
隼人は、ヒカルの手を取りソファーから
立たせると、
「行こう……」
と言って部屋から出て行こうとした。
「隼人君、どういうことかね?
約束が違うだろ?」
優しい口調で声をかけるオーナー。
オーナーの声と同時に、部屋の中に数人の
男達が入って来て隼人とヒカルを取り囲んだ。
その光景に驚き、声を出せないヒカルは
隼人の手を強く握り返した。
彼女の柔らかい手の感触を感じた隼人は、
ヒカルの顔を見ると、
「オーナー、この話、なかったことに
してください。金は返します……」
と言うとポケットから札束を取り出し、
オーナーの前に置いた。
「お金……?」
不思議そうな顔で隼人の顔を見つめるヒカル。
オーナーはヒカルと隼人の前にゆっくりと
歩み寄ると、
「お嬢さん、この男はこの札束であなたを
売ったんですよ。こんなことをする男のことを
信じてこの場所から立ち去るのですか?
ここにいれば、何も心配することはありません。
沢山の男たちがあなたに大金を支払ってくれる
でしょう。この街では、金と権力がある者が
のし上がれる。彼を育てた養父のように……」
「私は、この人に売られたんですか……?」
「はい、見てのとおりこのような大金でね」
「ひどい……」
ガタガタと震えだすヒカル……。
「あらあら、彼女がショックを受けてしまいましたよ。
隼人君、どうしますか? 彼女に逃げられては
こちらもこれからの商売に支障がでる……
このまま大人しく彼女を置いていってくれるか?」
隼人の前に立つオーナーが再度優しく微笑んだ。
「こい! 逃げるぞ!」
隼人の声とともに、手を引かれ応接室から
勢いよく飛び出すヒカルと隼人。
「追え! 逃がすな!」
微笑みから一転、鋭い目つきと鋭い表情に
変わったオーナーが叫んだ。
部屋の中にいた数人の男たちが一斉に
隼人とヒカルを追いかけた。
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