第2話 俺が生まれた街

 数時間前、隼人はいつものように

ぶっそうな街の中にある飲食店の

用心棒の仕事を済ませると、店主から日銭を貰い

店を後にした。


 「へぇ~、あのオヤジ、今日は奮発したな」

隼人は日銭が入った茶袋の中を覗き込むと呟いた。


 ここは、世間から離れた街、

浮浪者が住み着き、強盗、盗難、殺人が

多発する危険な街。そして、男性が好んで

通う店が至る所に点在する街。


 隼人は、この街で生まれ育った。

彼が、十歳の時、母親は彼を置いて

男とこの街を後にした。

 一人残された隼人は、この土地の有力者の

家に住み込みで働くことを条件に引き取られた。


 彼を引き取った養父、神谷武蔵は、

この街で手広く商売をしており、

隼人の母親が働いていた

風俗店も経営していた。


 隼人は、成長するに従って才能が

徐々に開花し始める……といっても、

『喧嘩が強く』そして『頭がキレる』程度だ。


 彼が、十八歳になる頃に事件が起きた。

武蔵の妻が隼人に手を出したのだ。

激怒した武蔵は、妻を風俗に売り飛ばした。


 隼人を彼を引き取って以来、

彼にこの街でのし上がるすべを

叩き込んでいた武蔵は、ある時隼人を

家から追い出した。


 一人になった彼は、次第にこの街で

頭角を現し始める……。

 

 そして、数年後。


 「兄貴~。今帰り?」

 アパートの階段を上る隼人に

レイが陽気に声をかけた。

 レイは、この街で生まれ育った

隼人の弟分だ。

 「あぁ、おまえこそ仕事終わったのか?」

 「終わったよ。兄貴~、そう言えばコトが

お店に来てくれないってぼやいてたよ。

 たまには、店に顔だしてやんなよ」

 

 「わかったよ。でも、アイツ俺が店に

行ったら、俺から離れないだろ? 店長が

困り果ててさ……だから来るなって!

言われてんだ」


 「ふぅ~ん。まぁ、仕方ないね。

店ナンバーワンの『コト』が

兄貴にぞっこんなんだから」


 「なんだ、それ。俺、久しぶりに親父に

呼ばれたから、出掛けてくるよ。じゃあな」


 隼人はそう言うと階段を上がり、

部屋に入って行った。

 

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