第1話 陽の当らない街

 「ほら、食えよ。腹減ってるんだろ?」

 彼は、袋に入ったパンを彼女に手渡した。


 「これって……あなたが今、あの店から

 盗んできた物でしょ? 泥棒したものなんて、

 食べられない……」


 「盗んできた物? 泥棒? 食べられない?

 あんた、この街では『盗み』は当たり前

なんだよ。でなきゃ、生きていけない。

 この街はそういう場所なんだよ……」


 「そういう場所……?」

 「そう、ここは、陽の当たらない街

  『片陰の街』世間からはそう呼ばれている」



 「片陰の街?」

 「ああ、そうだ。俺は、いつか……

この陽の当らない場所から、抜け出して

どんなことをしても、のし上がっていく……」


 あの時見た彼の横顔を……

 私は忘れない……。

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