片陰の街

由南りさ

プロローグ

 「このままだと、彼女の命が危ない……。

 奴は手段を選ばない。

 必要がないと判断すれば彼女を始末するに

違いない。

彼女を逃がす……」

 「逃がすって……何処に?」

 「片陰の街だ……」

 「片陰の……街に?」

 「そう。あの街に彼女を逃がす……。

 あの街に紛れ込めば身を隠せる。

 今から夜の闇に紛れ彼女を連れ出す。

 フォローを頼む」


 夜の闇に響く靴音……。

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 彼女を抱きかかえた男は

路地裏の人気がない場所で彼女を下ろすと、

 「よく聞いてください。

 この街なら、あなたをきっとうまく隠して、

守ってくれるはずです。

 私が、今できることはこれしかありません。

私は、今からあの場所に戻ります。

 どうかご無事で……」

 そう伝えると地図が書かれた紙を彼女に渡した。

 「わかりました。……さん、ありがとう」

 彼女が微笑んだ。

 「ここは……片陰の街……」

 意識が朦朧としながら彼女は立ち上がると、

ふらふらと路地を歩き出した。

 

 「くまなく探しましたが何処にも

見当たりません。

 しかし、代わりにこれが……落ちていました」

 差し出された一枚の紙きれ。

 「何……彼女が……見当たらない?」

 その夜、彼女は忽然と姿を消した。

     

     


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