第12話 壱の試練

side アルマ


翼竜を撃ち落とし、美味しく頂いた後俺はこれからのことを考える。


(状況を整理しよう…シエル、ステータス。)


『ステータスを表示します。』


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名前:アルマ


種族:甲虫帝王/特異種/成蟲/前期

成長度:82%


固有技能

・甲帝

・シエル

・王雷

技能

・金剛殼

・同化

・掘削

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(おお、脱皮したことで成長度がかなり伸びてるな。身体能力(?)が上がった気がしたのもこのおかげか…)


『今なら前回敗北した熊型モンスターにも勝てるかもしれませんね。』


(そりゃあ良いッ…!!)


熊との死闘を思い出し熱くなる。


『しかし、現在例の熊型モンスターの所在地は不明です。』


(…たしかに、前戦った時に魔力は覚えたのに今は感じないな。)


俺の闘争心はシエルの言葉を聞いて一気に鎮火する。


『感知範囲外か、既に絶命している可能性があります。』


(それはない。)


シエルの推測に俺は即答した。


(範囲外はまだしもアイツがもう死んでるなんて絶対に有り得ん。)


『何故でしょうか?』


(俺を負かして死ぬなんぞ許さん。)


『…理由になっていません。』


シエルは呆れたように言うが、俺はあの熊が生きていると確信していた。


(アイツと再戦する前にもう1回くらい進化したいところだな。)


『脱皮による成長度の増加は膨大でしたが、先程のワイバーンから得られた存在力は多くはありませんでした。』


(モンスターを狩って存在力を集めるのは現実的じゃないってことか?)


『いいえ、強力な魔力反応を持つ生命体の位置を共有します。』


そう言ってシエルの持つ情報が流れ込んでくる。

大きな魔力の反応は3つ、綺麗に大・中・小となっている。


(けど…一番小さい反応でも今の俺と同じくらいないかコレ…)


『…これは賭けです。』


(!?)


俺はおおよそシエルが言わないような発言をしたことに驚く。


『今のマスターは熊型モンスターに辛くも敗北した時より遥かに強くなりました。ですが、かのモンスターが生きていた場合成長しているのはマスターだけではありません。』


俺はそれを聞いてハッとする。


(…そうだな、俺は少し甘く見ていたかもな。)


『気を引き締めていただけて結構です。』


シエルのやれやれと言った感じが伝わってくる…コイツホントに人間味が出てきたなぁ。


俺は羽を広げ一番小さな魔力の反応に飛んで行く。


(…にしても、井の中の蛙とはこのことだな。あの時の俺はおろか、あの熊もこの森の中じゃ弱い方だったのか。)


『厳密にはこの死界に於いてといった評価になります。』


(なるほど…底辺というわけではないって感じか。)


『その通りです、ちなみにマスターは幼体の頃は上の中、現在は中の下あたりです。』


(なんで余計なこと言うかな。)


『失礼しました。』


(っと…見えたぞアイツだ。)


俺たちが他愛ない話をしながら飛んで行くと第一の刺客(?)を見つけた。


その姿は見るからに──


(オーク…か?)


『オーク…と思われます。』


俺たちが自分たちの認識に自信を持てなかったのは、あまりにも記憶の中にあるオークと姿が違っていたからだ。


厳密には豚頭の人体と記憶のままなのだが、その肉体はあまりにも筋肉質だった。

そして、その手には何やら禍々しい斧を携えている。


(…予想通り、手強そうだな。)


『やめますか?』


(冗談だろ。)


『冗談です、ご武運を。』


シエルが言い終わるや否や俺はツノに全魔力を集中させる。


(【獄雷ヴァナ・ボルト】ッ!!!!)


最大火力を遠距離からぶちかまして一撃必殺を狙ったが、雷は俺の予想外に作用した。


ツノから放たれた雷は予想外に大きく、そして予想外に遅く、俺はのだ。


(ッ…たくない…?)


俺が事態を把握する前に黒雷を纏った俺はオークに着弾した。


(なっ!?)


ここでさらなる予想外、なんとオークは俺の獄雷を纏った突進を斧で受け止めていたのだ。


「ブォオオオオオオッ!!!!!」


オークの腕がメキメキと筋肉を隆起させて俺を弾き返そうとしてくる。


(アイツ以外に負けて、溜まるかァァアッ!!!!)


バチバチと雷の強さが増していく。

だが、ピシピシと次第に俺の甲殻が小さくヒビ割れ始める。


『いけませんマスター、【獄雷】を纏ってあまつさえ長時間の使用は危険です。』


(ここで退けば、俺が一生後悔する!!)


すると、オークの足がズズズと後ろへ後退し始めた。


(ダメ押しだ!喰らえェェェエ!!!!)


俺はドリルのように身体を回転させる。


俺のツノとオークの斧が火花を散らす。


(【轟雷穿貫グローム・ペネトレイト】ッッ!!!!)


「ブオオアアアアアアッッ!!!!!」


バキンという斧が砕けたと思しき音が聞こえた。

だが、なんとオークは俺の動きを掴んで止めようとしてくる。


(なんて胆力と執念だ…!!だがッ!!!!)


俺は回転の速度をさらに上げると、オークの手はズタズタに引き裂かれ弾かれた。


俺はその瞬間を見逃さなかった。


(終わりだああああああ!!!!!)


オークの土手っ腹に黒雷の螺旋が突き刺さる。

そして、そのまま木々を巻き込みながらオークを地面に引き摺り倒した。


しばらくして俺の突進の勢いがようやく止まる。


「ブォフッ…ブヒュー…ヒュー」


なんとオークはまだ生きていた。


(コイツまだ…!!)


俺はオークから距離を取るが、既に満身創痍な上に獄雷の反動で王雷は使えなくなっている。


「ヒュー…ヒュー………」


『…当該オークが絶命したようです。』


(……オークコイツ、全然俺より強かったな。)


勝ちはしたものの俺の全身はヒビ割れ焼け焦げていた。


『魔力反応はマスターと同等でしたが、身体的能力は上回っていたようですね。』


(よく勝てたな…)


『初手による一撃必殺が功を奏しましたね。作戦勝ち、おめでとうございます。』


(……真正面からぶつかって勝ちたかったよ。)


『そんな傷心中のマスターにご報告します。大量の存在力を獲得できましたので、お待ちかねの進化です。』


(マズイ、今は…もう動け…な……)


そこで俺の意識は闇に飲まれてしまった。

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