第11話 滲み出す闇

side ???


冒険者の男は苛立っていた。


半年前、男は個人的な伝手を使って面白い情報を仕入れこのノービスにやって来た。


その話とは有望株のBランクパーティが新種のモンスターを発見し、1人を除いて全滅したという噂だった。


生き残った魔法使いに話を聞いて、男は死界を探索した。


それらしい痕跡はかなり残っていた、だが件の新種のモンスターは影も形もなかった。


「一体どうなってる!この僕が徹底的に調べ上げてもまるで見つからないなんて…!!」


嘘を吹き込まれた可能性が脳裏をよぎるが、男は話をしている時の魔法使いの目を思い出してそれはないとすぐに考えを切り捨てる。


(みな信じていなかったが、あの男の全てを諦めた目…仲間を失った者はああいう目になる。)


「ハァ…少し落ち着こう。」


男は自身に言い聞かせて収納魔法がかけられたアイテムポーチから地図を取り出す。


「やっぱり、この魔力災害があった場所に逃げ込んだと考えるのが妥当か…」


2年前に起きた森の一部が消し飛んだ魔力災害、その調査員として向かったBランクパーティの失踪、その二つの事件からして示される答えは一つだった。


「(間違いなく災害を起こしたのは件の新種のモンスターだろうね。)」


男が顎に手を当てて思案していると、後ろから気配を感じる。


「ギャァ!ギャギィ!!」


数匹のゴブリンが現れる。


「あぁ、ちょうど良かった…強いヤツと戦えると思うって来たのに逆に随分我慢させられちゃってるからね…」


言うやいなや僕は腰のレイピアを抜いてゴブリンに襲いかかった。


「ちょっとは発散しないとねェ!!!!」


男は瞬きの間にゴブリンたちの後ろへ駆け抜け、ヨロヨロと数歩歩いて血走った目でレイピアを見る。


ゴブリンは僕が後ろにいることに気付くと再度襲いかかろうとするが、ゴブリンたちは全員力なく倒れ伏せる。

全てのゴブリンの額に鋭いもので貫いたような穴が開いていた。


「……ダメだ…弱過ぎる…こんなんじゃ治まんないよォ…」


男は絶命したゴブリンを見下ろす。


「クソ、ちょっと発散のつもりだったのに…余計に昂ってきちゃったよォ……仕方ない、今日は久しぶりにもうひとつの趣味をしよう。」


──深夜──


時間を置いて昂った感情はそのままに冷静になった男は街の真ん中に聳える時計塔の頂点から夜の街を見下ろしていた。


「……見つけた。」


時計塔から落下するように飛び降りると、建物の屋根の上を駆ける。


男が立ち止まると、視線の先には深夜の夜道を少々派手だが年若い女がフラフラと歩いていた。


「うぅ…飲みすぎたかも…」


街頭に手をついて顔が少し青くなる女の背後に音もなく忍び寄る。


「あの、大丈夫ですか?」


「え…あ、だ、だいじょうウッ」


大丈夫と言い切る前に口を押さえる女に男は優しく寄り添って背中を擦る。


「無理しないで、ほら座ってこの水を飲んで。」


「うぅ…ごめんなさい…」


申し訳なさそうに水を受け取って飲む女を見て男は人好きする笑顔で微笑みかける。


「…?…あぇ…?」


女はそのままグッタリ意識を失った。

それを見て男の口角は怪しく上がる。


「フフ、不用心だなぁ…こんな深夜に知らない男から渡されたモノを口にしちゃダメだよ。」


男は女を姫抱きにして歩き出す。


「残念だけど、この半年間鬱憤が溜まってるからね…優しくはできないけど許してね。」


そう言って男は女とともに夜の闇に消えた。


──翌朝──


「あれ、アールハイドさん今日は随分ご機嫌ですね!」


「え?そうかい?フフ、レネさんが声を掛けてくれたからかもしれないね。」


「もー!そんなこと言って!」


顔馴染み同士の軽いジョーク、互いに顔も良いため周りにいる他の冒険者たちからすると美男美女の華のある和やかな会話。


だが誰も気付かない。


目の前にいる優しい笑みを浮かべる男の闇に──


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