第10話 脱皮
side アルマ
目が覚めると既に日は落ち、すっかり暗くなっていた。
動こうとすると、身体が軋み、パラパラと甲殻が崩れ落ちる。
(生きてるってことは勝ったのか?…シエル、戦いはどうなったんだ?)
『マスターと熊型モンスターは同時に倒れました。ですが熊型モンスターは先に目を覚まし、しばらくマスターのことを見つめると去って行きました。』
(トドメを刺さなかったのか…?)
『何か思うところがあったのかもしれませんね。』
(……そうか…)
トドメを刺さなかった、それは裏を返せばトドメを刺すことができたということだ。
(…俺は、負けたんだな。)
言葉にすることで実感が湧き、悔しさが込み上げるも頭は冷静でこれからのことを考えていた。
(今の俺は弱過ぎる、一対一でこの有り様なら最強なんて夢のまた夢だ。)
『ですが、敗北から得たものは多かったかもしれません。』
(どういうことだ?)
シエルの言葉に反応するとステータスが表示された。
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名前:アルマ
種族:甲虫帝王/特異種/成蟲/前期
成長度:57%
※成蟲状態で成長度が50%を越えたため、脱皮が可能になります。
固有技能
・甲帝
・シエル
・王雷
技能
・金剛殼
・同化
・掘削
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(脱皮…そういや、幼体の頃は無かったな。)
『幼体の頃は成長速度著しかったため、脱皮する機会がありませんでした。』
(そういうことか…巣穴に戻ろう。)
安全に脱皮をするために巣穴へ引き返す。
動く度に甲殻の破片が零れ落ちる。
(クソ、動きづらいな…)
『脱皮を行うことで、より身体の最適化と損傷部位の再生もされます。』
(そりゃいい、さっさと戻るとしよう。)
羽を広げ飛ぼうとするが上手く羽が動かない。
『先程の戦闘の際、羽を大きく損傷してしまったようです。』
(あー…仕方ない、歩くか。)
ヨロヨロフラフラと歩きながら巣穴への帰路を辿る、その間あの熊が俺を見逃したことについて考えていた。
(あの熊が何故俺を生かしたのかは分からんが…アイツと戦っている時、確かに思ったんだ…楽しいって。)
『楽しい…ですか?』
(ああ、死にかけたのに変な話だよな。)
『理解し難いです。』
(ハハッ手厳しいな。でも、
『…そうかもしれませんね。』
シエルとそんな話をしながらやっとのことで巣穴に戻り、穴の底まで降りる。
(よし、早速始めよう。)
『脱皮を開始します。』
シエルの機械的な音声と共に身体がヒビ割れ、甲殻が剥がれ落ちていく。
羽、脚、頭、そしてツノ、全ての甲殻が崩れ落ちる。
俺は自分の脚を見ると白く、ぷにぷにした柔らかな姿になっていることに気づく。
今の俺はさぞ頼りない姿なのだろう、ツノは丸く羽もふやけている。
しかし、すぐに変化が現れる。
『続けて成長強化を開始します。』
身体全体がメキメキと大きくなっていく。
ツノはより太く強靭に、脚もより鋭い鉤爪に。
『成長完了しました、全ステータスの向上及び火属性への耐性を獲得しました。』
(火属性の耐性!?)
『はい。先日戦った熊型モンスターによる強力な火属性の攻撃を耐え抜き生き延びたことで、マスターの体は最適化されました。』
(つまり今の俺は──)
『──全属性に対する耐性を獲得しています。』
シエルの言葉に気分が昂り、脱皮のおかげか力が漲ってくる。
俺が羽を広げると突風が吹き荒れる。
(今すぐ体を動かしたい気分だ…!!)
飛び上がると以前よりさらに速い速度で天井が迫るが俺は敢えて加速した。
次の瞬間、洞窟の天井を破壊して外に飛び出す。
太陽の元に曝された俺の姿は赤みがかった黒色の甲殻になっていた。
(良い色じゃないか。)
『接近してくる魔力の反応を感知、翼竜系モンスターと推測します。』
(空中戦はまだ未経験だったな、脱皮してからの初戦闘…張り切って行ってみようか!!)
俺は感知した魔力反応に向けて最高速で飛んでいく。
すぐに翼竜の姿が見えてくる、俺は速度を落とさずそのまま翼竜の腹目掛けて加速する。
(さぁ!お前はどれほど強いんだ!?)
俺は翼竜が以前にも増して速い俺の突進をどうやって捌くのかワクワクしながら突っ込んだ。
ボッという音とともに俺は翼竜の土手っ腹を通過した。
(……は?)
俺はすぐに旋回して見やると、腹のど真ん中に風穴が開いた翼竜は力なく落下していくのだった。
(……マジか。)
『……』
俺のポツリと吐いた言葉にシエルは気まずそうに沈黙するのだった。
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