第4話 邂逅

sideアルマ


(落ち着け、攻撃が強いのは喜ばしいこと…のはず。)


『肯定。ですが、威力の調節を可能にしておくことは急務かと。』


(それはたしかに…毎回こんなに地形変えていたらこの世界が滅ぶ。)


俺は自分の力の強大さに戦慄したが、同時に高揚していた。


(もしかしなくとも、俺は予想以上に強いらしい。)


己の力に恐怖する以上にこれからに期待してしまうこの気持ちを誰が責められようか。


この日、俺は本格的な狩りを始めることにした。


──2年後──


俺は自分のステータス画面を眺めていた。


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名前:アルマ


種族:甲虫帝王/特異種/幼体/後期

成長度:47%


固有技能

・甲帝

・支援システム(シエル)

技能

・雷電

・鎧皮

・鋼糸

・擬態

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この2年で一度進化を挟み後期になれたものの伸びが悪く思う…


(獲得したスキルも擬態のみ…)


そして俺は擬態を獲得した時のことを思い出す。


(今思い出しても身震いするほどの威圧感、はきっとこの森を統べる存在だ。)


俺の脳裏に浮かぶ巨大な白銀の狼、俺の記憶にあるファンタジー生物の特徴に照らし合わせたらだいたい推測できる。


(アレは間違いなくフェンリルだ。)


『同意。当システムもマスターの推測を支持します。』


フェンリルと不意に遭遇した時、俺はその存在感と威圧感に恐怖し動けなくなった。


(……)


悔しい。


勝てないのは分かっている。


(死にたいわけじゃない…だがそれでも、擬態なんてスキルが発現し、身を隠し、息を殺して生き長らえるなんて…)


この擬態というスキルは戒めだ。

甲虫系最強の種に生まれながら戦うことから逃げた自分への訓戒だ。


(…俺はもう逃げない。)


フェンリルから逃げ延びた時に誓ったことを再度誓う。


もうひとつ、俺には変化があった。

進化を一度挟んだことで姿が代わり幼体ながら甲殻のようなものが身を包むように変化したのだ。


(甲虫系は人型に進化したりできないもんかね…)


『不明。甲虫帝王は極めて稀な種のため情報が不足しています。』


(だろうな、言ってみただけだ。)


俺はシエルにそう返しながら、現状を振り返る。


成長度の伸びが圧倒的に悪くなっている現在だが、フェンリルに遭遇する前に一度だけ成長度が跳ね上がったことがあった。


それは──


人間の冒険者を殺したときだ。


──1年前──


(最近は成長度がめっきり伸びなくなったな。)


『同意。強力な個体は進化に必要な存在力も膨大になります。』


(ま、そうだろうな。)


俺はこれからどう効率良く存在力を集めるか思案していると、ガサリと植物を踏み鳴らす音がした。


(シエル。)


『人間と思われる生体反応が4つ、ゆっくりとこちらに接近してきます。』


(人間…?今更ここになんの用だ?)


『解。ここ最近で空気中に滞留する瘴気が無害なレベルまで安定しました。』


(そして原因の調査に乗り出したってとこか…)


正直負ける気はしないが、今世で人型を殺したことはないから多少抵抗はある。


「ッ!?」


考え事をしていると、息を飲む雰囲気が伝わってきた。

どうやら斥候役に見つかったようだ。


(ま、偵察だけして手出ししてこないならそれで良し。)


俺は冒険者たちを放置することにした。

散らばっていた気配が集まってきた。


「(レノ、あのワーム系モンスターはなんだ!?)」


「(わ、分からない!あんなモンスターは俺も知らない…!)」


盗賊シーフらしい冒険者と魔法使いぽい冒険者が小声で言い合っている。


(そうだろうな、超レアな種族の上に特異個体だしな。)


そう思いながら俺は手頃な木に齧り付いて樹液を啜る。


(この体になって感謝したのは木や葉っぱが美味く感じるようになったことだな。)


樹液の甘みにご機嫌になる。


「(見た感じ草食性かしら?…どうする?)」


「(ライノ、退こう。今はギルドに情報を持ち帰ろう。)」


弓使いアーチャーの女の言葉を受けて魔法使いの男が大剣を担いだ男に言う。


「(……アレは見たこともないモンスターだ、ユニークかもしれん。)」


どうやらリーダーらしき大剣使いは俺と戦うことを選んだらしい。


冒険者たちは俺の周囲を取り囲むように移動する。


「かかれッッ!!!!」


盗賊と弓使い、大剣使いの攻撃は俺の甲殻に弾かれるが、盗賊と大剣使いが俺から距離を取る。


「【炎槍フレイムスピア】ッ!!!」


魔法の準備を終えた魔法使いが炎の槍を放つと、俺に着弾した瞬間爆炎を起こし火柱が立ち上った。


「やったか…?」


誰が呟いたか分からないその一言は──


「嘘…だろ…」


すぐさま絶望に変わった。


(残念だよ、本当に。)


額のツノがバチバチと放電し始める、次の瞬間真っ白な光が周辺を焼いた。


(……人間を手にかけることにもう少し抵抗を感じると思ったが……まぁ余計に苦しむ必要がなかったと思うことにしよう。)


俺は周囲を見回すと焼け焦げた死体が2つあることに気づく。


(シエル、冒険者は4人いなかったか?)


『肯定。4つの生体反応のうち3つが消失、1つは近くにありますが段々と弱まっています。』


(…ここに死体が残ってないあと1人は?)


『解。放電を行う直前に魔力の反応を感知しました。恐らく何らかの魔道具を使用した可能性があります。』


(そういうことか…まぁそれは後で考えよう。)


俺は弱々しい気配の方へ近づくと、大剣使いの男が息も絶え絶えで倒れていた。

男の左肩から先は吹き飛び、全身に酷い火傷を負っていた。


「…バ…ケモ…ノ…ガ…」


男はそう言い捨てると息絶えた。


(その化け物に手を出してしまった己を恨め。)


俺は冒険者の死体3つを平らげた。

その後にステータスを確認すると、成長度が大幅に増加していた。


初めて食った人間の肉があまり美味くなかったことに何故か少しだけホッとした。

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