第3話 最初の進化

side アルマ


『告。近辺にマスターと同種の魔力反応が見られます、捕食を推奨します。』


強力な種族に転生して、強力なスキルも手に入れて、これからどうするかというタイミングでシエルが声をかけてきた。


(近くに同種のってことは…)


思い当たる節しかない方向に目を向ける。

多分、シエルが言っているのは俺が卵から生まれた瞬間に力尽きたあのカブトムシのことだろう。


俺は少し逡巡すると、ノソノソと死骸に近づく。


(…きっと俺の親なんだろうな。)


『同意。マスターの推測を支持します。』


(シエル、周りに俺の他に生きてる奴がいるか分かるか?)


『周辺の生体反応を検索…完了。結果。周辺にマスター以外の生体反応はありません。』


(…こんなにボロボロになってまで守り切れたのは俺だけってことか。)


生まれてすぐに死んでしまった親に対して愛情も何もない。


それでも──


(…アンタが守ってくれたことは忘れない。ありがとう…お袋。)


俺は心の中で別れと礼を済ませると死骸にかぶりついた。


『告。大量の存在力を獲得しました、摂取した存在力が膨大なため計算に時間がかかっています……完了。存在力が規定値に到達しました、進化します。』


食べ終わるとシエルが俺にそう告げる。

それと同時にとてつもない睡魔に襲われる。


『推奨。進化のために長期の休眠が可能な場所へ移動してください。』


(移動…もう……間に合わん…)


俺は意識を失う前にスキルの中にあった鋼糸スリングワイヤーを使って簡易的な繭を作り出すとそのまま意識を失った。

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意識が浮上すると、俺は生まれた時のようにまたも暗闇の中にいた。


(そうか、意識が落ちる直前に繭を作ったんだったな……俺はどのくらい眠っていた。)


『解。マスターは約1ヶ月の休眠をしていました。』


俺は予想以上に眠っていたようだ。

繭を解除して外に出ると、森が眠る前とは随分様変わりしていた。


腐敗した獣や虫の死骸があろうことか歩き回り、徘徊していた。


(…シエル、これは?)


『解。マスターの生みの親である甲虫帝王インペリアル・ビートルが死を迎えたことで保有していた魔力の一部が空気中に滞留し、瘴気となって近辺一帯に蔓延したようです。』


(モンスターを狩る度にこんなことになるのか…)


『否定。一般的には死骸を放置していればその死骸がアンデッドと化す程度の瘴気しか生まれません。甲虫帝王は極めて強力な種族個体であるため今回、異例の現象に至ったようです。』


俺がげんなりしているとシエルの補足が入る。

それを聞いて多少気が楽になった。


(…まぁ今はそれより、俺のステータスを見ることはできるか?)


『肯定。マスターアルマのステータスを表示します。』


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名前:アルマ


種族:甲虫帝王/特異種/幼体/中期

成長度:34%


固有技能

・甲帝

・支援システム(シエル)

技能

雷電サンダーボルト

鎧皮アーマースキン

鋼糸スリングワイヤー

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(ん?思ったより少ないな、この間大量にスキルを獲得した気がしたが。)


『解。当システムのオート機能により統合されています。』


(なるほど、この一つ一つに複数のスキルが含まれてるってことか。)


『肯定。』


(ひとまずこの身体での戦闘訓練も兼ねてここいらを掃除するぞ。)


『了承。』


いざ戦うと意気込んではみたものの、この体はあまりにも不便過ぎた。


まず、幼虫故に手足が短過ぎる。

ホントに芋虫のような状態だ、だから早々に近接戦は捨てた。


シエルからの情報によれば甲虫帝王は魔法が使えんと言っていた。

だが、俺には特異個体故に発現しただろう【雷電】がある。


(ひとまず──)


体の内に感じる力を額に流すように集中すると、額から生えたツノがバチバチと帯電し始める。


(なるほど、こりゃいい。)


俺はそのまま偶然視界に入ったアンデッドと化した狼のようなモンスターに向けて雷を放った…つもりだった。


雷が放たれた瞬間、視界が真っ白になり音が消えた。


光が収まり視界に色が戻ると、俺の眼前にはその空間だけまるで直線上にくり抜かれたかのように消失している森があった。


『告。前方に存在していた多数生体反応の消失を確認しました。同時に大量の存在力の接種を確認しました。』


視界の色は戻ったが、俺の頭は真っ白のままだった。


転生特典にしてもさすがにやりすぎだろ…コレ…

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