第21話

路面電車に揺られること、小一時間。景色に海が見えて来た。


 「次は、終点、港地区でございます」

学校前駅から徐々に客が降りて行き、ついに私だけになってしまった。


 電車に降りた瞬間、鼻に潮が抜ける。駅は高台に位置しており、この街の全貌が見渡せた。街全体の建物が海風に洗われて、潮騒に溶ける。

私は、地図に示された雑貨屋を目指した。


この港町は急な勾配によって構築されており、入り組んだ地形になっていた。


「ここら辺のはずなのだけど……」

私はさらに急な階段を降りる。


「やっと見つけた」

店は急な階段を降りたその先に佇んでいた。


灰色の建物で青と白の日除がついている、小さな雑貨屋だった。扉を開けるとウィンドチャイムの音が鳴った。


 店の奥にはカウンターがあり、メガネをかけたおじいさんが、新聞を読みながらこちらを睨む。


「冷やかしなら、帰れ」


「あの……私、インクを買いに来たんです」

「ほう……。アリス!客だ!」


誰かの、階段を降りる音が聞こえる。


「何!?おじいちゃん!私、これから制服の採寸に行くところなんだけど!」


赤みがかった髪を三つ編みにした少女が降りて来た。

年は私と変わらないだろう。


「インクが欲しいそうだ。案内してやれ」

アリスは、私を下から上へとジロジロと睨む。


「はぁ……案内してあげる。こっちに来なさい」

ため息混じりに、面倒臭そうに言った。


「あなた、名前は?」

「ビクトリアです」

「インクはここよ」

多分、話は聞いていないだろう。食い気味にアリスは言った。


「勉強用?」

「そうです」

「それならこのインクが一番人気よ、これにしなさい?」


私はアリスが差し出したインクより、それより、棚の奥にあるインクが気になり、手に取った。

ブルーのインク。中に入っているきらきらが、まるで星屑の様だった。

「こんなインクあったかしら?まぁいいわ。それでいいわね?」

「あと、魔導書が欲しいです」

「魔導書?もしかして魔法使い?アンタが?」

アリスは私を嘲笑った。

「いいわ!案内してあげる」

アリスは笑いながら言った。


「あなたには初級で十分よ。ハイ」

「あの……学校で指定されてるのがあって、それが欲しいんです」


私は学校で指定されている魔導書を指差した。


「アンタがこれ?もう!笑わせないで!」

アリスはまたもや笑いながら言った。


「私は本気です。王立魔法学校の魔導書が欲しいんです」

アリスは少し驚いた様な表情を見せたが、すぐに翻し、嘲笑の表情をみせる。


「いいわ。私も魔法学校に入学するの。そこで提案なんだけど、自己紹介の意味も込めてりましょう!私に勝ったら魔導書を売ってあげるわ!」


「面倒な事になったな。アリスはあぁなったら誰にも止められない」


「分かりました。争いごとは嫌いですが、受けて立ちます!」

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