第17話

謎の女性は金色の煙管を構えた。かなり尺が長く、精密なアンティーク品であった。


「よりどりみどり」

謎の女性は煙管に火をつける。


『東夷幻術、起動』


『秘術、煙管避行(キセルヒコウ)』


煙管から淡色の煙が出る。それを女性は吸い込み、味わいながら、吐き出す。


瞬く間に煙幕が辺りを覆い隠す。その一体を妖しい花々が舞う。煙は白いフードの体を蝕む。それが溶解する。


私はあまりにもの幻想景色に見惚れてしまった。


「いつまでそこで鑑賞しているつもりかしら」


「あの……助けてくれてありがとうございm」

「逃げるわよ」


私たちは煙の中を媒介として、秘密の抜け道を目指した。


「あの……助けてくれて、ありがとうございます。お名前は……」

「仮面をつけているのに名前を聞くのね」

「あの……悪い意味じゃないんです」

「いいのよ。そのうち教えてあげるわ」


煙は全てを覆い隠す。彼女が秘密主義なように。


「あら、お友達が来たようね」

「お友達?」

私は後ろを振り返った。白いフードの追手が来た。

「急ぐわよ」


しかし、抜け道まではまだかなりの距離があった。


「私がお友達の気を引くわ。その間に子猫ちゃんは先に逃げなさい」

「……あなたは、」

「ほら、パパのところに帰りなさい」


謎の女性はまた一服し、煙の濃さが増す。


「しつこいわね。そろそろ退場しなさい」

彼女は白いフードを挑発する。

私を安全に逃すかの様に、煙は彼女の姿をくらました。礼をいうことさえできなかった。


 秘密の抜け道に着くと、ジョウンが待機していた。

「こっちだ!早く!」


ジョウンが杖を振ると、レンガがひとりでに動き出し、白いフードの追跡から逃れた。


「黒髪の女性が私を助けてくれました」

「そうか。アイツが助けてくれたんだな」

「あと人が誰だか知っているんですか?」

「俺も詳しくは分からないんだ。すまんな」


「おっ、そろそろ着くぜ」

ジョウンがレンガに近づくと、レンガが開閉し、店にやっと着いた。


私は、疲れがどっと押し寄せ、その場に座り込んでしまった。


「おいおい、ここでギブか?」

ジョウンは手を差し出す。

「もう少しだ。頑張れ」

私はジョウンの手をとった。


「あとでリビングに来い。とっておきがある」

「とっておき?」

私は恐る恐るリビングの扉を開ける。


そこには純白のクリームのいちごのホールケーキが鎮座していた。


「我が家へおかえり。ビクトリア」

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