第16話


 時刻は8時を過ぎていた。この時間になると、路面電車は運休を停止していて、私は徒歩で帰る他無かった。

空には霧が蔓延しており、更に、空が暗いのでこの状況下で電車を動かすのは相当危険だろう。

私は徒歩で秘密の抜け道までを目指した。


この時間帯になると街は、人の気配を闇が覆い隠し、いっそう恐怖を煽る。


ガスの街灯はチカチカと瞬き、その辺りを蛾が徘徊する姿が、不安感を加速させる。


秘密の抜け道までは大体、4キロメートル程あるのでなるべく駆け足で歩いた。


大通りを抜け、小道に差し掛かった所で、人の気配が感じられた。こちらを注意深く観察し、私を疑いたるのはその凝視。


逃げる様に、路地裏に引き返した。

だが、ここら辺の地理は完全に把握しきれていなく、

私は、我武者羅に逃避する。


大通りに出たとこで、ついに前後に二人ずつの白いフードの秘密警察に挟み撃ちされた。


「ビクトリアさんですね。ジョウンさんの件でお伺いしたい事があります。ご同行願います」



私は恐怖しながら歯向かう。

「いやです。それに貴方たちは何が目的なのですか」


白いフードは何も答えなかった。そうだろう。体が魔法でできているのだから。


「答えられないのなら、押し通ります……!」


私は万年筆を構えた。


『Basic Flame!!!!《基礎 炎》


「えっ?」

だが、試験の時に膨大な魔力を使ったせいか、魔力切れで火の粉程度の炎しか出せなかった。


「さぁ。ご同行を願います」

「近寄らないで下さい!!!」

白いフードがゆっくりと確実に私の懐に入って捕まえようとして来た。


その時だった——。


「しいこい男は嫌われるわよ」

背の高い女性が私を庇った。


直角に切り揃えられた黒髪のボブカット。黒いミニドレスとハイヒール。そして、幾何学模様のマスカレード。


女性は私の手を優しく握ってきた。


「お掃除の時間よ」


女性は金色の煙管(きせる)で一服しながら言った。

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