エンタメは文学作品として低俗なのか

 以前、興味深い自主企画を拝見しまして。その内容とは、書き下ろした作品の文学的性質が いずれに偏っているのかを、読み手が判断するというものでした。


 私も参加こそしなかったのですが、批評系のデータを集めている者として、参加作とコメント欄を拝読させていただいたのですが――。


 結構な頻度で「エンタメにならないように気をつけた」、「頑張ったけど結局エンタメになってしまった」といったやりとりを目にしてしまったんですよね。


 なかには、まるで「ドボン」してしまったかのような、無念さや悲しみすらも感じ取れる、そんなやりとりも散見されました。


 個人的には、これがなかなかにショックでして。なにせ私が執筆している作品は、紛れもないエンタメ作品です。それに私自身、レビュー等で作品を称える際にも「エンタメ」という表現は頻繁に使用しております。


 もしかして「エンタメ」とは称える言葉とは真逆の、低俗な意味を持つ言葉として認識されているのか、使わない方がよい言葉だったのか――と。


 ええ、またしても「やらかした」のかと思ってしまった次第です。



 これまでの私の経験においても、レビューにまつわるトラブルは後を絶ちません。究極、レビューは二度と書かない方がよいのかもしれませんが、そうした消極的な行動はでんしやすいものですし、コンテンツの早期衰退を招きます。


 なので、いくら難しくとも続ける必要があります。それに私自身、レビューが無いと「受け入れられていないのかな」と不安になってしまいますし、頂戴すると嬉しいですからね。いただいたレビューが、その方の退会やBANなどで消滅してしまった際には、精神に埋まらぬ穴を穿うがたれた気分でした。


             *


 そもそも、純文学の定義があいまいであるのと同様に、エンタメの定義も曖昧です。私の基準においてエンタメとは「私自身が読んで、面白かった作品」を指します。面白いの基準も細分化するとキリがないのですが、単純に「笑えるもの」に限らず「強く心を動かされたもの」や「新たな見識が広がったもの」なども含みます。


 私が普段から拝読させていただいている作品の中にも「ギャグ」に振り切った作品があるのですが、こうした作品は疲弊した精神状態の時であっても、楽しく読み進めることができました。そうした意味で「エンタメ」とは決して低俗なものではなく、とても愛と優しさに溢れたコンテンツであるともいえますよね。



 おそらく、自作が「エンタメ」になることを避けたがっていた方は、エンタメの定義が「安易に消費可能な大衆的な作品」といった感じだったのではないかなと。


 「安易に消費可能な大衆的な作品」とは読み終えたあと、その作品を即座に投げ捨ててしまうイメージですね。私の言葉で表すと、「ペーパー型」の作品です。


 台詞で例えると「うわぁー! 面白ーい! それでそれで!? 他には他には!?」と、いった感じです。読んだ瞬間に一過性の快楽を与えるだけで、読み手の心には残らない。読み終わった時点で読者の興味が〝次〟へと移ってしまうわけですね。



 そうしたエンタメ扱いを嫌がる方には、作品を通じて絶対に伝えたい信念のような、高いプライドが垣間見えるのです。「適当に書いてます」などと表面上でいくらけんそんしたとしても、何気ない言葉の端々にとげのように鋭いプライドが表れます。


 べつに、これは悪いこととは思いません。私自身も、誇りを持って作品を執筆しておりますし、明らかな「営業」などで中身のないコメントを頂戴すると、少なくないてきがいしんを抱いてしまいますからね。「ああした営業コメントで私の作品をけがさないでほしい」と、常日頃から思います。


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 さて、大幅に話が逸れはじめましたので、そろそろ締めに入ります。


 今回の「エンタメ」を巡るやりとりを見て、「言葉」というのは本当に難しいものであるなと、改めて感じた次第です。


 たとえば私が「良い意味」で使った言葉が、受け手にとっては「べつ」と受け取られてしまった場合――悲しさを感じてしまうと同時に、それも「仕方のない」部分もあるかなと。


 言葉が誰にとっても不変的な意味となってしまっては、それこそ「小説の正しい書き方」のようなものが固定化されてしまいますからね。「書き手それぞれが、それぞれの想い描く世界を文字で出力したもの」こそが「小説」です。


 どれを読んでも同じものになってしまえば、それこそAIが書いた小説になってしまいますからね。たとえAIが小説を書いたとしても、私の『ミストリアンクエスト』の世界は、私にしか描けません。だからこそ、人間である自分自身が言葉に向き合い、執筆を続ける必要があるのです。



 そういったわけでして。「私からの『エンタメ作品です』という文言は、今後とも称賛の言葉として使わせていただきます」と、ここで明言させていただきます。

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