第9話:紐を引いてる場合ではない。

ひと夏の営業を終えた大磯ロングビーチの切り替えはすごい。

最終営業日の翌日には、あっという間にプールの水が抜かれる。

昨日までたくさんのひとで溢れていたプールサイドを大きなトラックが走り、更衣室のロッカーや自動販売機が乗せられ、次々と撤去されていく。

もう誰も楽しそうな様子はない。みな黙々と片付け作業をしている。

この夏の楽しかった思い出が付いていけない。


昔から切り替えが下手だったと思う。

先週の今頃は…とか、去年の今頃は…なんて考えては、思い出の紐を引っ張る。


先日、断捨離上手な美容師さんに

「買っても使わない物が家にあるのは、お節介なおばさんと暮らしているのと同じ」

「買って忘れている物が家にあるのは、見知らぬおじさんと暮らしているのと同じ」

と教えられた。断捨離の極意本に書いてあったらしい。


家に帰ったら「お節介なおばさん」と「見知らぬおじさん」が溢れるほど、いた。

怖い、怖すぎる。

寧ろおじさんとおばさんしかいないのではないかとさえ思う。

夏の思い出にいつまでも浸っている場合ではない。


そろそろ諸々、切り替えなければ。

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