第3話
「返事…しないとな…」
告白されたとき真っ先に思ったのは、「どうしよう」でも「嬉しい」でもなく、「どうして私が?」だった。真田くんの目には、私はどう映っているのだろう。もしかすると、真面目な優等生だと思っているのかもしれない。本当の私はそうじゃない。真田くんは何もわかっていない。
翌日、返事をしようと思っていた矢先、真田くんのから呼ばれた。夏の終わりの空き教室は、西日がジリジリと照りつけていて、少し暑かった。
「昨日は…急にあんなこと言ってごめん。」
「ううん。言ってくれて嬉しかったよ。」
「改めて、少しだけ、聞いてもらいたいことがあるんだけど、いいかな。」
夕日のせいか、真田くんの頬がほんのりと赤くなったように見えた。私も慌てて目を逸らしてしまった。
「うん…」
「僕は、やっぱり小宮さんのこと、好きなんです。そんなに話したことないのになんでって思うかもしれないけど…自分を持ってて、けどみんなに気遣いもできて…なんていうか、かっこいいなって。」
私が?
かっこいい?
「ありがとう…でも私そんな完璧人間じゃないよ?」
「知ってるよ。」
「え?…いやそれは流石に失礼すぎない!?」
思わず大声を出してしまった。普段の優等生キャラが崩壊しかけたことに恥ずかしくなり、下を向いた。
「はは…やっと元気になった。」
「え?」
不意に言われて驚いた。
「なんか、最近元気なさそうに見えたからさ。違った?」
確かに最近は、ぼーっとすることが増えて、色々無気力だったかもしれない。自分の居場所がないような、そんな感覚。
「違…わない。…ありがとう。」
真田くん《この人》の前だと変な気持ちになる。いつもそうだ。初めて出会った時から、なぜか他の人とは違うものを感じていた。それが何かはわからなかったけれど。
「さっきの…完璧じゃないってのは、別に小宮さんのことだけを言ってるんじゃないよ。完璧な人なんていないってこと。」
「そういうこと…」
「けど、あんな大声出るんだね。ちょっとびっくりした。」
真田くんがクスッと笑う。その笑顔があまりにも眩しくて、危うく目の前の感情を忘れるところだった。
「もう…バカにしてるでしょ。真田くんがそんな人だとは思わなかった!」
「してないしてない。」
「……。」
「ごめん、冗談だよ。少なくとも僕にとっては小宮さんはかっこいいし可愛い。」
真田くんは、急に真面目な顔で言った。可愛いなんて言われたのはいつぶりだろう。
「よくそんなこと…
「そんなことないよ。今だって、本当はすごく緊張してる。だけど、待つよ。どんな答えでも受け止める覚悟はできてる。」
本当に真剣な目だった。その目には、嘘や偽善の色はなかった。心の中のもう一人の自分が言った。君に決めた。と。……というわけではないけれど、決意は固まった。
「待たなくていい。返事、決めたよ。」
「え…ごめんやっぱり心の準備が…」
真田くんの言葉を待たずして言った。
「よろしくお願いします。」
「っ……なんで…てっきり振られるかと…」
驚いた顔をしている。
「真田くんのこと、もっと知りたいと思ったの。正直恋愛とか…あんまりわからないけど…それじゃ、だめかな?」
「…だめじゃない。むしろ嬉しいよ。だから、僕からも、よろしくお願いします。」
その笑顔を見て、やっぱりこの人に嘘はつけないと思った。
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