6. 姉の言葉

 竹香が家の門をくぐると、さっき林道にいた女子達が家の中から出てきた。

 横目で竹香を見ながら、ひそひそ言い合っている。その姿を見て、今夜はただではすまないだろうという予感はあった。


 家の中にはいると、貴星が仁王立ちで迎えた。


 やっぱり。


「チーチー、女子達が言っていたけど、あんた、また色気を出したそうじゃないの」

 

 貴星はバッターがバットを構える間も与えずに直球を投げる、そんなタイプ、待つことをしない人なのだ。


「色気を出したなんて、ひどい。そんなこと、するわけないじゃないですか」


「キャプテンに、生足を見せたっていうじゃないの」

「足の傷を治してもらったんです」

「ふーん。ケンケンも来たみたいだけど、あんた、もしかして、申し込まれた?」

「またそれですか。傷を治してもらったって、言いましたよね。それだけです」


「言うじゃないの。キャプテンの相手はまだ決まっていないみたいだし、ケンケンの相手も、決まっていないみたい」

「じゃ、キャプテンはひとりで行くんですか」


「まだ招かれていない女子がそれとなく立候補してみたんだけど、誰も選んでくれなかったんだって。それで、キャプテンは女子が好きじゃないんじゃないかって、みんな言っている」

「それって、どういうことですか」

「女の子に、関心がないってこと」

「それはないです」


「いつもあのふたりは一緒だし、特別な仲なんじゃないかって」

「特別な仲って?」

「あれよ、あれ」

 貴星がシナを作った。


「キャプテンとケンケンさんは親友です」

「別に男子が男子を好きだって、問題はないわよ。仙師の世界じゃ、そういう人、たくさんいるもの」

「それはそうですけど、キャプテンはそうじゃないと言っているんです」


「何を向きになっているの。強情な子ね。だから、みんなから嫌われるんだわ」

「みんなって、誰ですか」

「あ、あの女子達よ。ここに来ていたの、見たでしょ」

「わたし、そういうこと、気にしませんから」


「知っている? みんながあんたのこと、どう言っているのか」

「なんですか」

「二重人格」

「なぜですか」

「男子の前だと弱いふりをして、なよなよしてさ。甘い声なんか出しちゃって。そんな女子って、いるのよね」

「わたし、そんなこと、していませんから」

「ふーん。本人は気がついていないのかもしれないけど。仕方ないわ。あんたは仙師じゃなくて人間の子だからね。人間は恩知らずの裏切り者なんだから」


「他の女子がそんなことを言っても、かばってくれるのがお姉さんなんじゃないですか」

 竹香が拳を握り、足を踏んだ。


「あんたは時々、急に強くなるからね。やっぱり二重人格だわ」

「わたし、二重人格じゃないです」

 竹香が拳を上げた。


「おお、こわ。でも、覚えておくことね。私、仙女子なんだから、半ニンゲンになんか負けないってことを。本気になれば、あんたなんかぼこぼこにできるんだから。やるっ?」

 と貴星がわめくと、竹香が涙を浮かべて睨んでいる。


「まあ、私だって、飛ぶのは下手だし。あっ、私、こんなことをしている場合じゃなかった」

 貴星が肩をすくめた。

「チーチー、そんなきりきりしていないで、早くお風呂を沸かして。今日は髪を洗わなくてはならないんだから」



 竹香は外に行って風呂を沸かしながら、懐から黄色い布を取り出した。それはケンケンがくれたリボンなのだ。


 永剣が帰る時に、訊いた。

「チーチーは、パレードは見にくるよね」

 はい。

「その時はこれを頭につけて」

 彼は袖の奥から黄色いリボンを出して、わたしてくれたのだ。


「黄色は目立つから、空からでも、チーチーのいるところがわかるから。おれにも、冬氷にも」


「おれにも、冬氷にも」

 とケンケンは言ったけれど、あれはどういう意味なのだろうと竹香は考えてみる。


 頭に黄色いリボンをつけて、そばにあった斧の歯の部分に姿を映してみた。はっきりとは見えないが、ぼんやりと黄色が浮かび上がった。

 ちょっと似合うような気がする。

 リボンに合わせて、緑色の上着かスカートがほしいけれど、持っていない。貴星がもっているのを知っているけれど、貸してと頼むと、また色気を出すとかなんとか言うだろうから、いやだ。

 持っている服の中から、何か選んで着て行こう。

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