第13話 火山
意識が少しずつ戻ってくる。
頭がぼんやりとしているが、徐々に状況がはっきりしてきた。
あれだ、これは間違いなく睡眠薬の類だったんだろう。
どうしてこんなことになってるのか、まさかあのタイミングで睡眠薬を使うなんて思いもしなかった。
「ありえないだろ…メルロさん、危険すぎるよ…」
オレは頭の中でそう呟く。
おそらくご褒美をもらえると思って、ヒョイヒョイとついてきた自分が愚かだったのかもしれない。
そんな自嘲と同時に、全身が大の字に固定されていることに気づく。
手足はガッチリと拘束され、微動だにできない。
これは完全に拘束されている――「拷問」「身元バレ」「窃盗バレ」「死」。
脳裏には最悪のシナリオが次々と浮かんでくる。
窃盗バレだけは避けたい…いや、今日出てくる前に、昨日の戦利品はほとんど店に置いてきたから、ひょっとしたら大丈夫かもしれない。
でも、ここで何が待っているか分からない。
心の準備はしておこう。
手と足を動かしてみるが、無理だ。
オレの力ではこの拘束を解くことは不可能だと、すぐに悟る。
逃げられる隙なんて微塵もない。
「ん?気がついたの?」
足元からメルロの声が聞こえてくる。
冷や汗が背筋を伝う。
やっぱり彼女がオレを縛り上げたらしい。
拷問が始まるのか?
なぜあの場にいたのか?
なぜオレが助けたのか?
彼女はどこでその情報を手に入れたのか?
「くそっ…痛みを与えられたら…すぐにゲロっちまいそうだ…」
頭の中でパニックが渦巻く。
オレの想像を超える拷問が待っているかもしれない。
この世界では回復魔法があるから、限界まで痛めつけられて、回復して、また痛めつけられて――拷問は続くんだろう。
爪の間に針を刺すとか、傷を付けてはヒールをかけるとか、そんな地獄を想像していると、オレの背筋が寒くなる。
「今日も戦闘で生き残れた。還ってこれた。この高揚感、あなたに分かるかしら?」
メルロの声が足元から近づいてくる。
その言葉には、どこか狂気じみた熱が感じられた。
オレは恐怖に身を竦めながら、その言葉に耳を傾ける。
メルロが何を考えているのか、全く予想がつかない。
「激しい戦闘の後に、眠れない夜を数夜繰り返す。興奮が収まらない。ねぇ、分かる?」
彼女の言葉はまるで戦場でのスリルを楽しむかのようだった。
興奮が冷めやらぬその声には、少しばかりの狂気すら感じる。
それが彼女の戦い方なのか?
それとも、オレに向けて何かを伝えようとしているのか。
「…なんとなく分かるけど…これはどういう展開なんだ…?」
オレの心は恐怖と混乱の狭間で揺れていた。
頭が完全に真っ白になった。
首を上げ、足元に目線を動かした瞬間、そこには何も纏わないメルロが立っていた。思考は一瞬で停止し、その後、脳内は祝福の声で満たされた。
「神イベントキター。」
苦節37年、そんな長い時を経て、ついにこの時がやってきたのか?
今まで妖精になりつつあったオレの人生が、この瞬間で終わるのか?
さようなら、マイゴッドハンド。
めくるめく新しい世界よ、こんにちは。
一瞬で頭の中に描かれたイメージに、オレの体は完全に反応してしまった。
想像の暴走と共に、オレの下半身は見事なまでに覚醒してしまう。
メルロの身体は戦いで引き締まっていて、それがまた圧倒的な美しさを放っていた。
「あらあら、元気ね。エルフは若くても淡白なイメージがあったけど、あなたは違うみたいね。」
彼女の言葉が挑発的に響き、同時にオレの下半身は露わにされていく。
この状況に、オレの中の欲望は爆発寸前だ。
ありがとう、神様。
やっとオレの休火山が活火山へと変わる時が来た。
メルロはゆっくりとオレの胸にまたがり、その挑発的な目線をオレに向けてくる。
すべてが丸見えだ、無修正だ。
ああ、これは夢じゃない。現実だ。
オレの意識は混濁し、そして…
噴火。
それはまるで、長年抑え込まれていたものが一気に解放された瞬間だった。
心の中で
「ちょ。え?もう?」
と呟いた。
ああああ…。イベント終了だ。
37年分の蓄積されたエナジーは、堪え切れずに噴火してしまった。
オレの脳内で何度も繰り返された理想のシーンが、一瞬で崩れ去った。
けれど、イイモノは見れた。
大満足だ。
「しょうがないわねぇ」
と、メルロが柔らかく言った。
うん、もうなるようになろう。
オレの体はまだ噴火し足りないらしい。
拘束を解かれた後も、オレは全力を尽くさせていただいた。
37年間の妄想で膨らんだエネルギーを、彼女が全て受け止めてくれたことに感謝している。
序盤は彼女もノリノリだったけれど、最後の方では少しぐったりしていた。
だが、オレの休火山が活火山に変わってしまったのだから、しょうがない。
なんだろう、この満足感。
まるで世界が変わって見える。
これまで、経験がないことでバカにされるかもしれないとビクビクしていたり、実際に経験する時に緊張で使い物にならなかったらどうしようと不安に思ったりしていたけれど、終わってみれば、そんな心配はただの思い過ごしだった。
外が明るくなり、夜が明けてきたようだ。
隣でぐったりと寝ているメルロたん。
寝顔が可愛すぎて言葉が出ない。
この小さな体に、あの苛烈な力が宿っていたとは信じがたい。
青白い肌が興奮するとほんのり赤く染まる姿が、本当に愛おしい。
もうメルロたん以外の存在は見えない。
オレは心の中で
「メルロたん大好きだよぉぉ」
と叫びながら、彼女の寝顔に軽くキスをする。
これが多幸感ってやつか、と浸っていると――
「ドドドドドドッ」
突然、誰かが走ってくる音が響いた。
そして、バンッと勢いよく扉が開かれる。
「失礼します! 親方さま、大変です!」
ドアの向こうには、メルロの部下が焦った様子で立っていた。
彼の表情は硬く、何か尋常ではない事態が起こったことを伝えていた。
オレは一瞬の高揚感から現実に引き戻された。
「大変ですって? 何があったの?」
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