第11話 問答

さっき、ラグ達と別れてから、何かずっと気になっていた。


例の洞窟、戦場跡に何か金目の物が落ちてたりしないかな?


まぁ、まさかとは思うんだけど、こういうのが気になって眠れないタイプなんだよ、オレは。


「確認しとかなきゃな…」


オレは小さく呟いた。

何かあっても、危険を感じたらその場でトンズラすればいい話だ。

用心深くないと、この世界じゃ生き残れない。


定番のスキル<潜伏>と<隠密>を使い、再び洞窟の奥に向かう。

モンスターは見逃し、ゆっくりと進む。

例の出口は…ふさがってない。

まだ誰もここに気づいていないらしい。

ラッキーだ。


――そして、再びその声が聞こえた。


「人間ながら良くやった。だが、もうお終いだ…」


ちょ、まだやってんのかよ!?


あれから何時間経ってるんだよ。

オレは思わず目を見張る。

チラッと出口から様子を伺ってみると、そこでは未だに激戦が繰り広げられていた。


ドラゴンも、メルロ一派も、どちらもズタボロだ。

しかし、まだ決着がついていないらしい。

どっちも消耗しきってる。

あれだけ最強の存在とされているドラゴンが、人間相手にここまで苦戦するとは…あの紫色の巨体が、かつての威圧感を失い、疲労でゆっくりと動いている。

いや、これは産後だからか?

産後って、たぶん人間でいう床上げ前みたいなもんだろうし、無理しちゃいけない時期だろ。


オレは呆れながらも、頭の片隅で「もっと冒険者のアイテムを盗んでおくべきだったかな…」とぼんやり考えていた。


――一方のメルロ側、まともに動けているのは、すでに10人しかいない。

前衛3人、メルロ、弓兵3人、そして回復補助の3人だ。

これで戦うとか無茶だろ?

もう撤退しろよ。

被害がデカすぎるだろ。

冷静に考えれば、ここから先は完全に引き際だって誰でもわかるはずなんだが…。


「ここまで被害を出したからには、何が何でも成果を上げるよ!」


メルロの声が響いた。

おいおい、どんだけ欲深いんだよ。

まったく、美人が台無しだぜ。


双方ともに消耗しきっている今、この戦いはただの消耗戦になり果てていた。

もうオレが何か口を出すところじゃないな…と思っていたが、ふと、オレの脳裏にある考えが浮かんだ。

ドラゴンと話せないか?

今、このタイミングなら、もしかして…。


ドラゴンに話しかけるという馬鹿げた考えが、今の状況では妙に現実味を帯びてくる。

あの巨体が動けなくなるほど消耗している今、オレの「魔族交流」がどれほどの力を発揮するか、試してみる価値はあるかもしれない。

ドラゴン相手にこれを使う機会なんて、二度とないだろう。

通常なら、話しかける間もなく、バーベキューにされるところだろうからな。


そう思い、オレは再び<潜伏>と<隠密>を使い、岩陰に身を潜めつつドラゴンに近づく。

心臓がバクバクしている。

距離が10メートルほどになると、脳内の「魔族交流」タブが選択可能になった。

どうやら、ドラゴンは「エンシェントドラゴン」っていう種類らしい。

やっぱり普通のドラゴンじゃないんだな…。


「偉大なる太古の龍よ…」


意を決して話しかけてみた。


「誰だ、私に話しかけるのは?」


低く響く声が返ってきた。

ドラゴンの視線がこちらに向けられる。

オレは一瞬、背筋が凍った。

やべぇ、目が合った…。

<潜伏>と<隠密>が効いてないのか?

だが、このまま行くしかない。


「今、お前に新たな脅威が迫っている。それを教えに来たんだ」

「なに?新手か?」


ドラゴンが驚く様子もなく応じてくる。

その冷静さに、オレは少し動揺しながらも言葉を続けた。


「そうだ、あと1時間もすれば、100人もの屈強な冒険者が増援として来るだろう」

「その言葉を信じろというのか?」


疑念の色を帯びたドラゴンの声。

しかし、オレも負けてはいられない。


「信じるか信じないかは、お前次第だ。ただ、知らせに来た。それだけだ」


そう言うと、ドラゴンは一瞬黙り込んだ。

弓部隊がまた攻撃を仕掛けてきたが、ドラゴンはその尻尾で軽々と弓矢を払いのけた。


「かわいい子を残して逝く気か?」


メルロ側の弓攻撃が飛んできた瞬間、オレは一瞬身をかがめた。

目の前をかすめる矢、その直後に感じた強烈な衝撃。

ドラゴンが尻尾でなぎ払って、オレの前の岩を粉々にした。

岩が砕け散る音が耳をつんざき、細かな破片が周囲に飛び散る。

正直、死ぬかと思った。

あれに巻き込まれていたら、オレの命も風前の灯火だっただろう。


「それでも、守れるならば死を選ぶ」


ドラゴンの低い声が、オレの心臓を重く叩いた。


「助けてやらん事もない」


オレは息を整え、冷静を装いながら答える。

もう後には引けない状況だ。

ここでどれだけ説得できるかが、全てを左右する。


「お前に助ける力があるのか?」


ドラゴンの視線は鋭く、疑念がこもっている。

言葉に込められた圧力に一瞬ひるむも、オレは言葉を続ける。


「一人の力では無理だ」


正直なところ、オレにはこの状況をひっくり返すだけの力はない。

だが、共闘すれば話は別だ。


「助けられないのか?」


ドラゴンの声に、かすかな失望の色が感じられた。


「協力してくれるなら、助けることが出来るかもしれん。そして二度と人間達が来ないようにも出来るかもしれん」


オレは自信を込めて答えた。

嘘ではない。

この状況を打開するためには、ドラゴンの力が必要不可欠だ。


「どうすれば良いのだ?」


ついに、ドラゴンが少し折れた。

オレの言葉に耳を傾ける意思を示したのだ。


「まず、人間への攻撃をやめろ」


オレは即座に提案した。


「バカな!」


ドラゴンの咆哮が洞窟内に響き渡る。

強い反発を感じたが、オレは怯まない。

ここが正念場だ。


「それが助かる道だ。15分でいい。防御に徹すればしのげる時間だろう」


オレは冷静に言葉を重ねる。

これが唯一の道だと。


「お前の事が信じられん」


ドラゴンは渋々答える。

信頼の無さがそのまま声に出ている。


「信じる者は救われるのだよ」


オレは軽く笑みを浮かべながら答えた。

自分を納得させるためでもあった。

信じる以外に道はない、そう思い込むしかない。


次の瞬間、前衛の兵士たちが補助魔法を受けながら、無謀にも突っ込んできた。

ドラゴンの前脚がすさまじい勢いで振り下ろされ、3人が宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられた。

無茶苦茶痛そうだ。ピクピクと痙攣している彼らのもとに回復魔法が飛んでくるが、それでもなお、彼らはもがき続けていた。

人間の限界を超えた力の前に、無力さを感じずにはいられない。


「さすがにこの状況で100人の新手はお前でもキツイだろう」


オレは状況を見据えながら、静かに言った。


「死を賭して戦うのみだ」


ドラゴンの声には覚悟が宿っていた。

だが、このままでは全滅だろう。


「これから15分の間に、敵が次々に動かなくなる。最終的に引き上げる。黙って見てられるか?100人の新手も、基本的にはボスが無事助かれば引き上げるはずだ」


オレは確信を込めて言った。


「分かった。騙されるのは承知でお前の話にのってみよう。たかが15分だ。黙って見ていてやる、やってみろ」


ドラゴンはついに頷いた。


「一人だけ新手が来るが、そいつはお前に攻撃しない。そいつが、敵を撤退させるだろう」


オレはドラゴンに最後の言葉を投げかける。


「御託はいい。やってみろ。私は15分待つのみだ」


ドラゴンの言葉には、再びその巨大な威圧感が漂っていた。

信じているわけではないが、待ってみる、ということか。


「今のあなたの状態では、人間たちも、もう少しで討ち取れると思って、簡単には諦めないでしょう。後ろ足の影に、人間の使う体力回復剤とスタミナ回復剤、魔力回復剤を置いておきます。あなたにとっては、微々たる回復にしかならないかもしれませんが、新手の一人が合図をしたら、一度丸まって、後ろ足の回復剤を食べて下さい。その後の合図で、全力の魔法をお願いします」


「言われるとおりにしよう」


ドラゴンの声は少しだけ緩んでいたが、それでも油断は禁物だ。


これでオレの作戦がうまくいくかどうかは、まさにこの瞬間にかかっている。準備は整った。あとは、15分の勝負だ。


ドラゴンと話せた。

古代龍との会話だぞ?

もうこのままトンズラしても、十分な思い出になるだろう。

後で酒場で語れるネタには困らないし、「古代龍と話した男」なんて肩書きは、どこのギルドでも羨望の的だ。


「よっしゃ、これで帰っても――」


ふと、脳裏に現実がよぎった。

そうだ、15分しかないんだった。オレ、仕事中だ。


「くそっ、遊んでる場合じゃない!」


心の中で叫びながら、オレは一気に思考を切り替える。


時間が限られている。

あのメルロたちをこの場から退かせるには、この15分で状況をひっくり返さなきゃならない。

ドラゴンを無事に守り切るためには、手際よくやるしかない。


さっき渡した体力回復剤とスタミナ回復剤は、ドラゴンの足元にちゃんと置かれている。

タイミングを見計らって、奴がそれを使ってくれることを祈るばかりだ。


「さて、仕事仕事っと」


まず、前衛の3人に狙いを定め、慎重に動き出す。


ナイトサーベルパンサーレイピアを握りしめると、その感触が手に馴染み、まるで自分の身体の一部のように軽やかに感じる。

攻撃力+26という数値が頭の中で響く。

見た目は軽く、優雅なレイピアだが、この武器はただの飾りではない。

瞬間的な突き刺しで、どんなにタフな敵でも確実にダメージを与えることができる。

それに加え、麻痺効果+6の付与能力が、戦闘を有利に進めるための大きな武器だ。

まさに、戦術的に考え抜かれた完璧な暗器と言える。


「さて、まずは前衛からだな」


と心の中で呟く。

前衛3人は、猛攻で疲れ切っている。

それでも彼らの鋭い目は、敵を逃すまいと必死に睨んでいる。

そんな時、オレは彼らの背後に潜り込む。<潜伏>と<隠密>のスキルを使い、静かに忍び寄る。

そして、ナイトサーベルパンサーレイピアを握りしめ、一気に突き刺す。


赤い●「当」が現れた瞬間、そこを狙ってチクチクと刺していく。次に黄色い●「麻」のマークが視界に浮かび上がる。

これは麻痺効果を付与できる場所だ。

オレは手際よくそこをチクっと刺す。

途端に、前衛の戦士が動きを止め、その場で膝をついてしまった。


「なんだ?何が起きている?」


と、メルロが背後から驚きの声をあげる。

焦った表情が浮かんでいる。

彼女の周囲で仲間たちが次々と動かなくなっていくのだから、当然のことだろう。

オレはニヤリと笑いながら、次の標的へと移る。


弓隊の連中がドラゴンを狙っているが、彼らの目の前に接近する。

黄色い●麻マークが再び現れた。

麻痺効果が見込める場所だ。

オレはためらいなくレイピアを突き刺す。

「チクっとな」軽やかに囁きながら、次々と弓隊の兵士たちを麻痺させていく。

彼らは短い悲鳴を上げ、続けざまに床に崩れ落ちた。


「これは凄いスキルだな。敵の動きを止めるだけでなく、完全に無力化できる」と、改めてナイトサーベルパンサーレイピアの力に驚嘆する。


この武器の真価は、その素早さと麻痺効果にある。

特に接近戦では、その力が存分に発揮される。

だが、この武器の恐ろしさは、それだけではない。

夜間適応の特性がついているため、周囲が暗くなるほどオレの攻撃精度が増していくのだ。

洞窟の薄暗い光の中では、この武器はまさに無敵だ。


次は回復隊だ。

彼らは既に疲弊している戦士たちを必死で回復させようとしている。

そんなところに、オレはスッと入り込み、回復魔法を使おうとする手元を狙ってチクチクと攻撃する。

彼らの動きが鈍くなり、手元から魔法の光が消えていくのを見て、オレは満足げにうなずく。


「メルロちゃん、お前もチクっとな」


と、ついにメルロ本人にもナイトサーベルパンサーレイピアを向ける。

彼女の目が驚愕で見開かれた瞬間、赤い●当と黄色い●麻が浮かび上がり、そのままレイピアを突き刺す。

彼女の身体が硬直し、動きを止める。

その瞬間、全てが静まり返った。


オレは一旦戦場から離れ、慎重に装備を変更する。


ローブと杖を取り出し、魔法使いっぽい姿に変装する。

ナイトサーベルパンサーレイピアの冷たい輝きから、今度は魔法の杖へと持ち替える。


「大丈夫ですか?!」


と声をかけると、ドラゴンがオレを見て一瞬ビクッとした。

しかし、すぐに彼の表情は沈静化し、じっとオレの方を見据えている。


「何者だ!?もう少しで倒せるのだ!邪魔をするな!」


メルロの叫び声が洞窟に響き渡る。

彼女の顔は憤怒に染まり、目には狂気が宿っている。

周囲には戦いの疲弊が漂っていたが、それでも彼女の気迫は衰えることなく、こちらを睨みつけている。


「ですが、もうあなた方は、戦える状態ではないのでは?今が引き際かと!?」


オレは冷静さを保ちながら言った。

あのドラゴンの底力を知っている以上、このまま戦い続けるのは明らかに自殺行為だ。

しかし、メルロはすでに理性を失っている。


「もう少しで地位も名声も全て手に入るのだ!」


彼女の言葉には欲望と焦りが詰まっていた。

ドラゴンを倒せば、一攫千金、名声は彼女の手中に収まるはずだった。

だが、現実は違う。

オレにはわかる。

彼女の計画はすでに崩壊寸前だ。


「私にはそうは見えません。あれは古代龍です。あそこからが、古代龍の恐ろしいところです、冷静になって見て下さい。もうすぐ復活しますよ」


オレは淡々と、そして確信を込めて言った。

古代龍の力を甘く見てはいけない。

ほんの一瞬の油断が命取りになる。

メルロに悟らせるためにも、ドラゴンを指し示し、警告の合図を送る。


それに応じて、ドラゴンが静かに後ろ足に首を丸め込んだ。

あの動作は単なる疲労の現れではなく、戦いの再開を待つ準備だ。

俺の渡した回復薬が役に立つだろう。


「何を言うか、もう完全に虫の息だわ。見ろぐったりとしておる」


メルロは必死に反論し、目の前のドラゴンを見て嘲笑を浮かべる。

しかし、その笑みはすぐに不安と混乱に変わっていく。


「はぁ。あれは、復活の前兆ですよ。もうすぐ完全に復活します。良く見て下さい、傷が癒えてきているのが見えますか?ほら、ドラゴンの傷が塞がっていく。」


オレはさらにドラゴンの状態を指摘した。

目の前の真実に気づいたメルロは、その場で固まった。


「な、なんと、まだそんな力が残っていたのか・・・・」


彼女の声は驚きと恐怖が入り混じっていた。

やっと気づいたようだ。

ドラゴンの力がどれほど恐ろしいかを。


「とにかく、フィールド全体に今、治癒魔法をかけます。全員は助けられないかもしれませんが、即時撤退を」


オレは緊急事態に対応すべく提案をした。

ここで全滅する前に、少しでも多くの命を救う必要がある。

もう手遅れになる前に。


「むむむ。仕切り直しか。口惜しや」


メルロは苦悶の表情を浮かべながらも、オレの言葉を飲み込んだ。

やむを得ない撤退だと悟ったのだ。


「また、チャンスはありますよ。いいですが、私が治癒を発動と同時に、撤退の号令をお願いします」


オレは静かに言った。

今がそのタイミングだ。


「解った。礼を言う」


彼女はしぶしぶながらも承諾し、オレに感謝の言葉をかけた。

感情が交錯しているのだろうが、それでも彼女はリーダーとしての決断を下す。


オレは昨日窃盗したスクロールの中から「フィールドヒール」のスクロールをこっそり取り出し、ローブの中で静かにそれを展開した。

周囲に神秘的な光が広がる。


瞬間、フィールド全体に眩い光が降り注ぎ、あらゆる傷が癒されていく。

その神聖な光景に、疲弊した兵士たちの表情が安堵に変わっていく。


「全軍!即時撤退!」


メルロの号令が響き渡る。

彼女の声に従い、命の助かった30人程の兵士たちが洞窟の外へと走り込んでいく。死んだと思われていた者たちも、回復が追いつかなかっただけで、まだ命をつなぎ止めていたようだ。

しかし、それでも動かない者もいる。

かなりの被害だ。


最後に、オレはドラゴンに合図を送ると、凄まじい轟音が響き渡った。

ドラゴンの全力の魔法が炸裂し、洞窟の出口は瞬く間に落石で防がれた。

これで、もう誰も戻れないだろう。


洞窟の外は、まるで戦場の後の静寂のようだった。

30人程の冒険者たちは、まるで魂が抜けたかのように、呆けた顔で座り込んでいた。

彼らの目には、さっきまでの死闘がまだ鮮明に焼き付いているようで、誰も言葉を発しない。

その中で、ただ一人、毅然として歩いてくるメルロの姿は異彩を放っていた。


重々しい足音を響かせながら、彼女はオレの方に近づいてくる。

疲労感を漂わせながらも、その瞳には揺るぎない決意が見て取れる。

この状況下で、これだけ堂々とした態度を見せられるのは、やはりリーダーとしての器量だろう。


「さっきの一撃、食らっていたら全滅だったろう。それがこれだけの人数が助かった。ありがとう。私は隣町に住むメルロ・クロッキーナというものだ」


彼女の声はしっかりとしていて、感謝の気持ちがにじみ出ている。

傷だらけの体でそれでも毅然と礼を述べる姿には、何とも言えない重みがあった。


「助けられて良かったです。私はしがない冒険者、ルーク・トラビックと申します」


オレもそれなりに丁寧に答えたが、心の中ではこの状況に驚きを隠せなかった。

オレなんかが、彼女の命運を左右する場面に立ち会ったなんて、自分でもまだ信じられない。


メルロは少しだけ微笑み、オレを見据える。

その目には、ただの礼を超えた、何か深い意味があるように感じた。

彼女がこれまで経験してきた数々の戦いと、そしてこの一戦が持つ重みが、その表情からひしひしと伝わってくる。


「まずはきちんと礼をしたい。手数だが一緒に隣町までご足労願いたいのだが良いだろうか?」


メルロの言葉は冷静でありながらも、その裏には大きな信頼が隠れている。

オレに対して、何かしらの期待を抱いているのだろうか。


「分かりました」


当然、断る理由などない。

むしろ、ここで恩を売る機会を逃すなんて、馬鹿げている。

彼女に恩を売ったというのは、想像以上に大きな成果だ。

50人を率いるリーダーにここまで感謝されるとは、予想外の展開だったが、この状況なら断る奴なんていないだろう。


オレの心は高揚していた。

美女でありながら、これほどのカリスマを持つメルロに恩を売ったという事実は、オレにとって何物にも代え難い勝利感を与えていた。

これがどれほどの利益に繋がるかはわからないが、この馬鹿でかい恩は今後のオレの冒険者生活にとって、確実にプラスになる。


「行こうではないか!隣町だろうがどこだろうとも!」


心の中でそう叫びつつ、オレはメルロの後に続く。

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