第9話 パーティー戦
森の中で慎重に歩を進めながら、<鑑定>で目を凝らしてキノコを探していた。
湿り気のある空気の中、木々の間に見え隠れする独特な形状のキノコが見えた。
「…これだな、麻痺キノコ。色が濃くて柄が太い、間違いない。」
オレはしゃがみこみ、慎重にそのキノコを摘み取った。
手袋をつけているとはいえ、直接触るのは危険だからだ。
ポケットに入れた小さな袋に入れると、次の目的を目指して再び進む。
「次は…毒キノコか。あれが無いと毒矢は作れないしな。」
目をさらに凝らしながら、森の奥に進む。
しばらく歩くと、薄暗い湿地帯に特徴的な黒い帽子を持つキノコを見つけた。
「やっぱりここか。こいつも特徴はバッチリだな、毒キノコだ。」
オレは毒キノコを摘み取る。
見た目は何度も見慣れているが、毎回その毒々しい姿には少し緊張する。
それでも、これが今後の冒険で大いに役立つと思えば、手が止まることはなかった。
「これで準備は整ったな…」
洞窟の入り口に戻ると、オレは腰を下ろして早速作業に取り掛かった。
まずは<薬品調合>のスキルを発動させ、キノコの成分を調合する。
「まずは麻痺矢だ。麻痺キノコの成分を抽出して、これを毒矢に塗る。…よし、粘度もいい感じだな。」
オレは麻痺キノコの成分を矢の先端に慎重に塗りつける。
塗り終わった矢を確認しながら、次の工程に移る。
「次は毒矢。毒キノコを使って、しっかりとした毒成分を抽出する必要がある。」
オレは手際よく毒キノコを細かく砕き、液体にして矢に塗りつけていった。
その鮮やかな色がいかにも致命的な毒であることを感じさせる。
「これで毒矢も完成だ…っと、少し待てよ。」
仕上げに矢を鍛冶スキルで強化する。
そうすることで、毒や麻痺の効果が長持ちし、矢自体の強度も高まる。
「最後にもう一手間。<鍛冶>スキルで矢をしっかり強化しよう。これで一撃必殺だ。」
オレは矢を焼き入れし、毒や麻痺の効果をさらに強力にした。
見た目も鋭く光り、より一層の威力が感じられる仕上がりになった。
「よし、これで完璧だな…毒矢も麻痺矢も、万全だ。森で苦労した甲斐があった。」
完成した矢を手に取って確認し、オレは満足気に頷いた。
これで洞窟内のモンスターにも対処できるだろう。
戦いに備えて、オレは再び洞窟の中へと足を踏み入れた。
森を抜け、さらに洞窟の中にも入ってみることにした。
スキルは万全だ。
<暗器戦闘100>、<潜伏100>、<隠密50>、<回避技術31>、そして<暗視50>を駆使して、洞窟の深部へと進む。
暗視のおかげで、洞窟内の景色は薄暗く見えるが、視界は問題ない。
自分の限界を知るためにも、こうして試すことが重要だ。
洞窟に入った途端、周囲の空気が重く、緊張感が増していくのを感じた。
そして、オレはすぐにシャドウバットに遭遇した。
群れで素早く飛び回り、姿を消すように暗闇に紛れる彼らの動きに一瞬驚いたが、すぐに冷静になった。
すると、シャドウバットの単純な思考が流れ込んでくる。
「食べる…食べる…」
「うまそう…近い…左だ」
その声は知能が低く、ただ本能に従って襲いかかろうとしているのが分かった。
だが、動きそのものも手に取るように理解できるようになった。
まるでシャドウバットがどう動くかが予知できるかのようだ。
「左だな…」
瞬時に矢を構え、矢を放つ。
狙いは完璧だった。
飛び回るシャドウバットに一撃で命中し、床に叩きつけられる。
「次は右からか…」
また別のシャドウバットが近づいてくるのを感じた。
動きが読み取れるため、迷いなく矢を放つ。
次々とシャドウバットが絶命していった。
魔族交流のスキルのおかげで、敵の動きは完全に掌握している。
一撃で倒していくこの感覚は、自分の成長を強く実感させてくれた。
「これで全部か…」
シャドウバットを全て倒したところで、さらに奥から新たな敵が姿を現した。
グローゴブリンだ。
岩のように硬い体を持ち、洞窟内での戦闘に長けた厄介な存在だ。
しかも、こいつはシャドウバットと違い、やや思考能力がある。
「お前は簡単にいかないかもな…」
攻撃をすると様々な声が聞こえてくる。
「痛い…痛い…母さんあああ殺す…殺す…」
「守らなきゃ…兄貴助けて…」
「仲間は…どこ…旦那は?」
その思考は単純ながらも、仲間同士の兄弟や夫婦の存在を感じさせるような声も混ざっていた。
防御力もあり、グローゴブリンの岩のような体は矢を簡単に弾いてしまう。
しかも、その思考に惑わされそうになり、オレの動きが一瞬鈍る。
「くそっ…惑わされるな!」
仲間を思う声や、助けを求めるような思考に一瞬心が揺らぐが、オレは冷静さを取り戻し、矢を放った。
最初の一撃はやはり弾かれる。
しかし、オレはすぐに立て直し、次々に矢を放ち続ける。
「痛い…痛い…!殺す…助けて…」
その声がさらに強まるが、五発目の矢を放つ前に、グローゴブリンの体が崩れ落ちた。
「なんとか倒したか…」
オレは一息つき、倒れたグローゴブリンの体から鉄矢を慎重に回収する。
洞窟内での戦闘は思った以上に厄介だが、九宮袖箭の5発目まで使うことなく倒せたことが、再び自分の成長を実感させる。
「さて、次へ進むか。」
オレは洞窟の奥へと再び足を進め、次の戦いに備える。
洞窟の中は、どうやら緩やかな登り坂になっているようだ。
歩き進めるほどに感じるこの違和感は、奥に何かが待っている予感を与えてくる。
これまで他の冒険者には一人も会わなかったし、そもそも自分が初めて街の外に出た身だから、この洞窟がどれほど危険なのかも分からない。
ただ一つ分かるのは、自分の冒険が今、確実に進んでいるということだ。
奥へ奥へと進み、そろそろ引き返そうかと思ったその時だった。
洞窟の奥深くから、轟音のような咆哮が響き渡った。
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
耳が痛くなるほどの咆哮に、思わず足を止めた。
心臓が跳ね上がり、体中が緊張で固まる。
しかし、その一方で、恐怖と共に沸き上がる好奇心が自分を動かす。
絶対に向かってはいけないと分かっているのに、<潜伏>と<隠密>への信頼が、自分の足を奥へと運んでいた。
洞窟の奥に差し込む夕焼けの光が見えた。
出口だ。
そして、その出口の向こうから再び聞こえてくる声。
「小癪な人間ごときが、生かしては還さん!」
ゴオォォォォ!
ザシュッ! バシュッ!
どうやら、誰かが大きな魔物と戦っているようだ。
魔物の声から察するに、かなり巨大な生き物に違いない。
慎重に出口まで近づき、外の様子を伺うと、そこは断崖絶壁の踊り場のような場所だった。
広さは50メートルのプールほどだが、その半分を占めるほど巨大な紫色のドラゴンが、50人ほどの冒険者パーティーと戦闘していた。
「うわー…映画のワンシーンみたいだな…」
思わず息を呑んだ。
ドラゴンは洞窟の出口から見て一番奥に陣取り、その近くでは後方支援の魔法使いや弓隊が、前線の部隊に向かって治癒魔法や援護射撃を放っている。
そして、その中央には、杖を掲げて50人の部隊を指揮している人物が見えた。
「こんな田舎にドラゴンなんて、何かあるに違いないよ!何が何でも倒してしまいな!明日からあたし達も大金持ちだよ!」
「うおっぉぉぉ!人間どもよ、業火に焼かれて無謀を悔いなさい!」
ドラゴンが口から猛烈な炎を吐き出し、前方の部隊が一瞬で黒焦げになる。
治癒魔法が後方から飛んでいくが、復帰できるのはわずか数名だ。
どうやら、ドラゴンの声は彼らには聞こえていないらしい。
こんな規模の戦闘では、モンスターの声が聞こえるのも役に立ちそうだな、と自分に言い聞かせた。
指揮官と思われる黒髪ショートの女性は、右肩から手首まで豪快なタトゥーを入れ、肌が青白く、背中からは黒い羽が生えている。
彼女はダークピクシー族だろう。
指揮官の女性は、その冷静さと的確な指示で50人ものパーティーを統率していた。
彼女は汗を流しながらも、戦況に目を配り続け、声を張り上げる。
「やっと、ここまでの道を切り開いてきたんだ!爆薬だって無駄になっちまう。明日になったら、またこの出口は塞がれちまうよ!出し惜しみはするな、全力投球だよ!」
その言葉に、パーティーの士気が一気に高まる。
彼女の指示で、弓隊が前に出てきた。
だが、ドラゴンはまだ余裕の表情を見せている。
「我が家を荒らす不届き者たちに、我が子への愛の力を見せつけん!味わえ、熱風地獄を!」
ドラゴンが今まで座っていた巨大な体を持ち上げ、その翼を大きく羽ばたかせながら口から再び業火を吐き出した。
猛火の風圧は、矢を全て吹き飛ばし、前線の屈強な兵士たちさえも、足元を奪われそうになる。
そこに容赦なく襲いかかる灼熱の炎。
前線が壊滅的な打撃を受け、後方の治癒部隊は必死に魔法を飛ばすが、焼け焦げた兵士たちはすでに戦闘不能状態だった。
「こんな攻撃もあったのかい!治癒部隊、全力で前線を助けな!」
「お頭!治癒魔法が、暴風で前方に届きません!」
「なにっ!?もうじき戦闘開始から3時間だ、前線の回復薬も切れかけてきてる。あと何発かあの攻撃を食らったら、前線が崩壊しちまうよ!」
彼女の言葉から推測すると、このパーティーはこのドラゴンと何度も戦っているようだ。
そして、その度に洞窟の出口を落石で塞がれ、爆薬で道を開いてここまでたどり着いているらしい。
今回は大規模な準備をしてきたようだが、それでもドラゴンの強さは圧倒的だ。
そんな時、ふとドラゴンが立ち上がった際に、その背後の岩陰にちらっと巨大な卵のようなものが見えた。
ドラゴンが「我が子への愛」と言っていたことが頭に引っかかる。
きっと、この場所はドラゴンが巣を作り、子育てをするために選んだ安全な場所だったのだろう。
それを強欲な人間たちが爆薬で無理やり侵入してきたのだから、ドラゴンが怒り狂っているのも無理はない。
「なるほどな…」
オレは小さく呟いた。
事情が分かった今、オレは自分の正義を貫くしかない。
戦闘を挑むのは、もちろん無謀だ。
このドラゴンに立ち向かうことなど到底できるはずもないし、正直言って、こんなモンスターに喧嘩を売る冒険者たちにも同情する気はない。
しかし、彼らがドラゴンに挑むほどの装備やアイテムを揃えてきているのは間違いないだろう。
そして、オレには「母を守るドラゴンを助ける」という大義名分ができた。
これならば、良心の呵責もなく、やるべきことができる。
<アイテムボックス観覧50>、<鍵開け81>、<窃盗100>、<潜伏50>、<隠密50>。
スキルを慎重に切り替えながら、まずはダークピクシー族の女性、メルロ・クロッキーナのアイテムボックスを覗いた。
中は驚くほど綺麗に整理されていて、一目で彼女の几帳面さが分かる。
「前線、下がるな!弓隊、一歩前へ!」
彼女が的確に指示を飛ばす中、オレはゆっくりと彼女のアイテムボックスを物色していく。
この状況下で、まさか窃盗に遭っているとは夢にも思っていないだろう。
ステータスを確認する。
**メルロ・クロッキーナ**
筋力:186
体力:225
耐久:180
器用:123
敏捷:219
知識:255
魔力:276
過去最高の能力値だ。
さすが50人パーティーを切り盛りするだけはある。
文武両道のバランスが取れているというのも頷ける。
メルロ・クロッキーナのアイテムボックスを覗いた瞬間、その中身がいかに豪華かを目の当たりにした。
アイテムボックスは4列にきちんと整理されていて、一目見ただけで彼女の几帳面さが伺える。
まず1列目には高純度の回復剤が綺麗に並べられている。
おそらく戦闘中、素早く取り出して使うことを想定しているのだろう。
2列目には魔法のスクロールがずらりと並んでいる。
これは間違いなく自作だ。
詠唱短縮やMP切れの補助として、彼女は攻撃力の高い魔法を自分で書き込んでいるのだろう。
見るからに強力だ。
3列目には予備の武器や防具が整然と並んでいた。
これらはおそらく戦闘が長引き、装備が劣化した時に使用するものだろう。
彼女の計画性と戦闘への準備は万全だ。
そして4列目には宝箱が3つ並んでいる。
おそらく最も貴重なアイテムが収められているに違いない。
オレの少ないながらの窃盗経験から、<アイテムボックス観覧>や<鍵開け>までは、相手に気づかれることはほとんどない。
だが、<窃盗>の瞬間だけは注意が必要だ。
これまで何度か相手がぼんやりしている時にすら、ハッとした顔をされることがあった。
つまり、<窃盗>の瞬間だけは迅速かつ正確に行う必要があるのだ。
<鍵開け>を発動させ、まずは右端の宝箱を開ける。
中には美しいアクセサリーがずらりと並んでいた。
次に2番目の宝箱を開けると、中には武器や防具が。
これらは間違いなく貴重品で、どれも手入れが行き届いている。
最後の宝箱を開けると、そこには色とりどりの硬貨がびっしりと詰まっていた。見たこともない金額だ。
「しぶとい人間たちだ。二度と私に挑むことはできないよう、今ここで息の根を止めてやる…!HASU@ 40W@[URWEGH:DISPOHNV」
突然、ドラゴンの咆哮が戦場に響き渡る。
敵の攻撃を受けつつ、尻尾で威嚇しながら、ドラゴンは何かを呟いていた。
だが、「魔族交流」を通しても、その言葉は理解できない。あまりにも異質で、魔族ですらない存在なのだろうか。
その時、メルロの顔が青ざめた。
「前線一時引け!嫌な予感がする!全員防御体制!ハイセットアースウォール!」
彼女が叫び、前線が一斉に後退すると、巨大な土の壁が目の前にそびえ立った。
ダムのようなその壁は20メートルほどの高さを誇り、まるで全てを遮るかのように立ちはだかる。
この緊迫した状況がオレにとって最大のチャンスだった。
メルロのアイテムボックスから、できるだけ多くのものを盗む。
硬貨は約1000万ドランほど手に入れた。
他のアイテムは気づかれないかもしれないが、これだけの金額が消えれば、いずれバレるだろう。
もし犯人としてバレたら、オレの命は間違いなく終わりだ。
窃盗が完了した瞬間、壁の向こうから雷鳴のような轟音が響いた。
電撃か何かが放たれたのだろうか。
しばらくすると、音が鳴り止み、土の壁が消え始めた。
「前衛突っ込め!治癒部隊、補助魔法を飛ばせ!弓部隊は援護射撃を開始!」
メルロの指示が的確に飛び交う。戦場は再び激しく動き出した。
オレは他の後衛部隊のアイテムも盗もうかと考えていたが、想像以上の戦闘と、思いもよらぬ大金を手にしたことで、正直メチャクチャビビっていた。
戦闘が激化するこの場所で、万が一<隠蔽>が解ければ命はない。
そこで一刻も早くこの場から抜け出すことにした。
ひっそりと洞窟の入り口へ戻り、静かに奥へと逃げ込む。
そして、一人家路を急いだ。
今日の修行が、こんな結果になるとは思ってもみなかった。
得たものがあまりにも大きすぎる。
「あの戦いを目の当たりにした後だ。明日からのラグ一家との冒険なんて、まるで軽い運動みたいに感じられるかもな…」
淡い期待と、少しの恐怖を抱きながら、オレは再び歩き始めた。
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