第2話 てんしょく
と、まぁ、ここまで妄想してから、ようやく店内での俺の発作は徐々に治まってきた。
「はぁはぁはぁ…ふろぉねたぁん…」
オレの心はまだ引き裂かれたままだが、どうにか深呼吸して落ち着こうとする。
これしきの失恋で人殺しや暴行に走れるような度胸があったなら、現実世界でもこの世界でも、もう少しまともな恋愛や人生を勝ち取れていただろうな。
そう考えると、情けないことに少しだけ冷静になった。
だが、それでもやっぱり、どう考えてもあのイケメンエルフに勝てる要素なんて、どこにも見当たらない。
オレにはスキル値変更があるけれど、基本的な技術しか変更できないし、戦闘においてはどうしようもないんだよ。
オレのスキル変更でどうにかなる部分は、あくまで「基本技術」の部分だけ。
戦闘に必要な「能力値」や、戦闘スタイルに付随する「必殺技」なんかは、どうやってもスキル変更じゃ得られないんだ。
だからこそ、オレには本気で戦う術なんてない。
むしろ、戦おうなんて妄想自体がバカバカしかったのかもしれない。
ちなみに、今のオレの「能力値」はこうだ。
筋力(攻撃力) 45
体力(HP&持久力) 30
耐久(物理防御) 18
器用(成功率) 380
敏捷(身軽さ) 28
知識(魔法防御) 40
魔力(MP) 3
ざっと見てわかる通り、一般人のアベレージが30くらいだから、オレの筋力や敏捷なんて大したことない。
むしろ鍛冶の仕事でついた筋力があるだけマシだが、それも冒険者レベルには程遠い。
器用さだけが突出しているのは、商人としての生成作業や修理の仕事を続けてきたからこそだ。
つまり、戦闘のスキルなんてゼロだ。
必殺技なんか一つも持ってない。
この伸びしろの無さ、笑うしかない。
もし本当にあのイケメン野郎を倒そうなんて思って突撃したところで、きっと返り討ちに遭ってたに違いない。
はぁ…それにしても、フローネたんともう会えないなんて、何もかも一気にモチベーションが下がるなぁ。
結局、現実世界でも異世界でも、オレはダメなヤツのままだ。
せっかく異世界に転移して、エルフ族という美しさでは人間を凌駕する種族と知り合えたのに、あんな可憐なエルフの女の子に振り向かせることができないなんて…オレのヘタレっぷりには自分でも辟易する。
イケメン野郎にも腹は立つけど、それ以上に自分自身に対して情けなくて悔しい。
あああああああ!!!
この気分、わかるよな?!
爆発しそうだ。
前々から、ずっと心のどこかで思っていたけど、もう限界だ。
もうこの世界で生きていくのに、ストッパーなんか必要ないんじゃないか。
もういいだろ、好き勝手やっても。
このまま大人しくしていても、どうせ死ぬときはひとりぼっちルートだ。
オレがこの世界に来てまず驚いたのは、犯罪率の高さだ。
無法地帯と言ってもいい。
各々がギルドや自警団に属しているから、基本的に街の中は安全だが、それでも盗難や変死の噂は絶えない。
軽犯罪なんか、もう捕まえられるのは現行犯だけだ。
現行犯であっても、証拠が不十分だったり、その地域での信頼を得ていなければ、逆に吊し上げられてしまうことだってある。
だからさ、さっきみたいな妄想通りの暴漢まがいの行動をしたら、間違いなくこの街にはもう住めなくなるだろう。
最悪、人里離れた場所に逃げるしかない。
そんなぼっちルートを避けるために、俺は考えた。
逆転ルートがある。
今のオレは、戦闘スキルがまったくないが、それでもこの世界で、オレの能力値に見合った職業が一つだけあるんだ。それが…。
「もう、いいよな。一発逆転だよな。なんか、ちょっと勇者な気分だわ。なぜだか」
少し高揚してきたオレは、「スキル値変更」タブを開き、次のように振り分けた。
<アイテムボックス観覧 50><鍵開け 50><窃盗 100><潜伏 58><隠密 50>
10年間の生産職で鍛え上げた<器用 380>が火を吹くぜ!
これならいける!
…と言いつつも、頭の片隅から「犯罪して捕まったら…」という考えが離れない。
もし捕まったら、どうするんだ。
万が一、ということがある。
何かしらの保険が必要だな。
オレは店の奥へと進み、そこにある暗号を唱えた。
すると、特殊な魔法がかかった真っ黒な宝箱が開き、その中からオレの秘蔵アイテムを取り出す。
・エルフ族変装セット 防御力 2
エルフ族に変装できるセット。
尖った耳と長い金色の髪でエルフらしさを追求して作られた。
防御力は低いが、見た目は完璧だ。
「おれ、実はエルフだったんだよね」というセリフでフローネたんにアプローチしようと、妄想して作ったが、結局使われることはなかった。
・イケメンフルフェイス(イケメンボイス変換機能付き) 防御力 3
説明不要のアイテム。
これも防御力度外視で、エルフセットと同時期に作った。
しかし、これとエルフセットを同時に使うと完全に別人になってしまうため、結局使わずじまいだった。
正直、この二つはただの趣味の産物だが、今夜、ついに陽の目を見ることになる。
変装セット、装着完了。
「いざゆかん。我が戦場へと!」
店のドアを開けると、夕日が照らす美しい街並みが広がっていた。
オレはその街へ、決意を胸に踏み出していくのだった。
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