第二四章 初めての炎上とプチバズ
『我々、ドルーア地区ダンマス連合はデス子ちゃん&ゾンビくんチャンネルの非道を決して許しません。彼らは勇者撃滅という我らダンジョンマスターの使命を放棄し、自らの欲望のままにダンジョンマスターの力を利用する外道です。また、勇者と共謀して我々魔族に対して裏切り行為を行っているとの噂もあります。彼の者を生かしておいては危険です。我々の手で鉄槌をくださねばなりません。我らが思想に賛同し、力を貸していただけるという方は当連合の連絡窓口までご連絡ください。ドルーア地区の皆さんで協力して、かの悪逆非道な死神とその使徒、そして人族の勇者を葬り去りましょう』
あれから、いろいろと問題が発生してしまった。
今回ばかりは俺が悪かった。
さまざまなことに対して配慮が足りなかった。
反省しなければいけない。
何から説明すればいいだろうか。
まずは『ダンマス連合』と実質的な抗争状態に入ったことから話そうか。
あのとき、俺たちはダロスという『ダンマス連合』の使者を亡き者にしてしまった。
それ自体は、そもそも向こうが先に手を出してきたことだから問題はない。
いや、問題はあったのかもしれないが、少なくとも俺たちが一方的に非難されるべきことではないはずだ。
まあ、最初から配信をしていたわけではないので、見る人からすれば俺たちが『ダンマス連合』側に対していきなり攻撃をしかけたように見えなくもないかもしれないが――。
いや、それについてはまだ言い訳もできることだ。大きな問題ではない。
そのあとの俺の行いがいけなかった。
俺はヘカトンケイルとの一戦のあと、ユーストネットで牛頭の種属――ミノタウロス属が食用可能かどうかを調べてみた。
幸いにも可能ということで、そういった魔物食に造詣のある好事家の評では、クセはあるものの味も美味いということだった。
俺は喜んで拠点に持ち帰り、デス子やセレニアにドン引きされる中、気にせず解体作業にとりかかった。
ただ、ヘカトンケイルが投げまくっていた岩塊のせいで体の部位によっては潰れてしまっているところもあったので、そういった部位については廃棄せざるをえなかった。
しかし、どうせ捨てるなら有効活用したいと思うのが人の性というものだろう。
俺は解体の過程で出た不要な骨や内臓、潰れてしまって食用に適さなくなった部位などについては、例の糞尿を撒いた畑に遺棄することにした。
これはもちろんダロスの死を辱めるためではなく、硝石の生成をより促進してくれることを期待して行ったことだ。
廃棄された部位に残った肉や骨にはタンパク質が含まれていて、それが微生物によって分解される過程でアンモニアを発生させるのだ。
この畑を硝石丘とするために、アンモニアの産生は欠かせない。
ただ、やっぱり一部とは言え、ダロスの遺体を糞尿まみれな畑に遺棄するのは倫理的にかなり問題があったらしい。
これまでにも残虐な行為を配信するチャンネルはあったし、少なくとも解体作業を配信している段階ではそこまで騒ぎにはならなかった。
だから、これくらいなら問題ないと思ってしまっていた。
しかし、世間の目は意外にも厳しかった。
食用にする部分以外はお墓にでも埋めて供養するべきだったのかもしれない。
この件はユス局公式のネットニュースにも取り上げられ、ちょっと炎上してしまった。
もちろん、このことは逃げおおせたヴォルグをはじめとした『ダンマス連合』の幹部の目にも入ることとなる。
そして、そのことがきっかけとなり、『ダンマス連合』は自分たちの配信動画で先ほどのような俺たちへの宣戦布告動画を配信するに至ったというわけである。
また、これによって俺がセレニアの糞尿を硝石丘の材料として勝手に利用していることも本人にバレてしまった。
俺は二重の意味でコッテリ絞られることになってしまった。
まさか今度は俺が磔にされることになろうとは……。
デス子も俺に対する『お仕置き』についてはめちゃくちゃ乗り気で、もう本当にスケルトンになるのではないかと言うほど二人の悪魔によって俺は絞り尽くされてしまった。
ちなみに炎上後、一度だけ『ダンマス連合』の刺客がこのダンジョンに侵入してきたことがある。
ただ、そのときはちょうど悪魔たちによる『お仕置き』の最中だったこともあり、俺は拘束具で磔にされていたので撃退には出向けなかった。
あくまでも侵入を知り、その結果どうなったかを事後に聞かされただけだ。
悪魔たちは楽しい余興を邪魔されたことに、たいそうご立腹なようだった。
服さえ着ることもなく、獲物だけ担いで部屋を飛び出していき、ほどなくして返り血まみれになった姿で戻ってきた。そのまま『お仕置き』は継続された。
それ以来、悪評でも広まったのか『ダンマス連合』からの刺客はこなくなった。
『かわいそうなゾンビ』
『まあでもわりと身から出た錆やからな』
『まさかの炎上ワロタ』
『ウンコ畑に捨てるのはやりすぎだったな』
『ゾンビはあくまで真面目でした』
『サイコゾンビ』
『てか、ゾンビになってもちゃんとやつれるんだな』
『そろそろスケルトン化も見えてきたな』
『騎士くんでもタたなくなるんだね』
『セレ姫に無理やりタたせられてるときは正直最高に興奮した』
『カロリースティック口移しがまた見れたのもよかった』
まあ、今回は俺が移されるほうだったがな……。
『セレちゃんの強制スタンドアップもまた見たいな』
『つーてゾンビ基本的に弾数多いからな』
『もうひとりくらい女の子増やすしかねえな』
『あーね』
『ダンマス連合から掻っ攫ってこようぜ』
マジでこれ以上は消滅の危機だからやめてくれ……。
いろいろあったが、いつもコメントをしてくれる常連の視聴者たちの適応力はかなりのもので、今回の件についてもとくに動じた様子はなかった。
チャンネル登録者数も炎上直後こそ少し減少したが、最終的には微増くらいで収まったのだろうか。
あいにくと俺は目にすることができなかったが、素っ裸で侵入者を撃退する二人の姿がかなり衝撃的だったらしく、ちょっとしたプチバズになっていたらしい。
「騎士さまは本当にイケナイおかた……これからはわたしがしっかりと手綱を握っておかないといけないわね……」
しばらくしてから俺は拘束具から開放されたが、それでもなおセレニアはなかなか満足してくれなかった。
本来であれば睡眠を必要としないデス子でさえ一時休戦と仮眠をとっていたのに、よほど琴線に触れるものでもあったのか、セレニアの『お仕置き』は冗談抜き三日三晩続いた。
このお姫さん、ひょっとして人間じゃないのかな……?
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