第十八章 パーティ結成

「ダンマス連合ねェ……」


 田植え作業も一段落したところで、俺たちは一度拠点に戻って作戦会議を行っていた。


 俺たちの拠点としているこの部屋も随分と生活感が出てきている。

 例えばダブルベッドの他にもテーブルが備わったし、三人分の椅子も用意した。

 デス子がソファでのプレイをしてみたいというので少し大きめのソファも設えたし、今後のことを考えて炊事場や釜戸なども設置した。


 こういったものがDPショップに並んでいることから考えるに、少なくともこの戦争は長期にわたって継続することが最初から見越されているようだ。

 魔族だって俺たちのような特殊な種属でないかぎり食事や睡眠なはずである。

 それに、よほどこだわりのない者でもないかぎり何日もカロリースティックだけで過ごすのはストレスが大きいのではないかと思う。

 ゾンビとなって三大欲求がかなり薄れている俺ですら、これから野菜や合鴨肉が食べれるという未来を想像するだけで心が踊るくらいなのだ。


 つまり、この戦争が決着するまでの間、ダンジョンマスターはこの閉鎖されたダンジョン内で自らの肉体や精神衛生の管理も行わなければならないのである。

 DPリストに生活用品が無数に存在するのも、恐らくそのためだろう。


「わたしたちのような勇者はパーティを組むことも珍しくないみたいだけれど、ダンジョンマスター同士でチームを組むようなこともあるの?」


 椅子に座って表示したナビボードを眺めながら、セレニアが訊いてくる。

 ちなみにデス子はソファの上でグデっとなっている。


「うーん……もともとダンマス同士のカップルチャンネルみたいなのはあったから、それの大規模版って考えればいいのかなァ。個人的には、ダンマス同士が手を組むことにメリットは感じないけどねェ」


 デス子もナビボードを開き、ユス局公式サイトのトップページでカップルチャンネルについて検索をかけているようだ。

 横から覗き見てみると、確かにそれなりの数が存在するようではある――あ、コラ、顔を近づけただけでキスをしてくるんじゃない。


「ちょっと、ディスターニア! わたしは真面目な話をしているのよ!」

「うるっさいなァ。ダーリンが顔を近づけてくるんだから仕方ないじゃん」

「騎士さまも迂闊に死神さんに近づかないでください!」


 俺まで怒られてしまった……。


 ――というか、ふと思ったのだが、今の俺たちの状態はいったいどういったものに該当するのだろうか。

 戦闘状態を示すアラートは解除されているが、話を聞くかぎりセレニアはデス子の眷属になったわけではないのだよな……?


「いちおう、わたしの立場からすると、ディスターニアとわたしはパーティメンバー同士という扱いになっていますね」


 ほう……そう言えば、先ほどセレニアは勇者同士でパーティを組むことがあるとかなんとか言っていたな。

 ただ、俺はつい今しがたまでパーティという概念を知らなかったレベルだ。

 となると、俺たちが知らないうちにデス子とセレニアのほうでパーティを結成するための手続きみたいなものが交わされたということだろうか。


「それが、わたしもこれまでにパーティを組んだことがないので詳しくはなくて、どうしてわたしたちがパーティを組んでいるのか分からないのです。パーティ結成に関してはシステマチックなものではなく、双方の意思による合意が重要ということだけはなんとなく理解しているのですが」


 ふむ。よく分からん。


「要するに『協力しましょう』『そうしましょう』というお互いの意思が重要ということですね。ダンジョン攻略中……とくに戦闘中のような緊急時でも有機的にパーティ結成を行えるためにそうなっていると講習では聞きましたが……」


 なるほど。確かに、戦闘中のようなのっぴきならない状況でいちいちナビメニューを開いて申請を送って同意をもらってやっとパーティ結成では手間がかかりすぎてしまうな。

 しかし、ということは、パーティを組むということに何か緊急事態を脱することができるほどの大きなメリットがあるということだろうか。


「最も大きなメリットはストレージの共有ですね。騎士さまは勇者ではないので伝わりづらいかもしれませんが、こちらがストレージに入れている装備品や傷薬のようなアイテムを共有することができるようになるらしいのです」


 おお、それはだいぶ大きなメリットとなり得るな。


「逆にパーティを組まないと、所有権というものの関係で仮にストレージから出したアイテムでも受け渡しをすることができないようなのです」


 ふむ、となると、例えばダンジョンで餓死しそうな勇者を見かけたとしても、パーティを組まなければ食料の受け渡しすらできなかったりするということか。


「そうですね。ダンジョンマスターと勇者の場合はどうなるのか分かりませんが……」


 でも、俺はセレニアにカロリースティックを食べさせていたよな?


「口移しでねェ!」


 デス子がこちらを見ながらニヤリと口の端を歪めている。

 ――まさか、デス子はその仕様を知っていて、敢えて口移しをさせていたのか?


「まあ、お姫ちゃんの開発目的のほうがメインだけどねェ。いちおう、わたしたちがDPメニューで獲得したものにも所有権はあるんだよ。まあ、この場合は別のダンジョンに設置することができないっていう意味での所有権になるんだけど」


 なるほど。いろいろと仕様が異なるんだな。


 ――ということは、ダンジョンマスター同士でパーティを組めば、お互いのDPの都合に合わせて設置する罠であったり召喚する魔物であったりを融通することもできるのか。

 とくにダンジョンマスターは生活拠点を作る必要もあるから、最初から生活拠点を担当する者と勇者撃退用の罠や魔物を担当する者で役割分担をすることだってできるわけだ。

 ダンジョンマスターであれ勇者であれ、互いに利害が一致するのであれば、パーティを組むことには一定のメリットが見込めるのかもしれないな。


「でも、けっきょくどうしてわたしとディスターニアはパーティを組んでいるんでしょうね?」


 セレニアが首を傾げている。

 おお、そうだった。そもそもその問題が解決されていなかったな。


「そんなの、わたしがお姫ちゃんとパーティを組みたいと思って、お姫ちゃんがそれに同意したからに決まってるだろォ?」


 デス子がソファの背もたれに顎を乗せてニヤニヤとしながら告げる。

 なんと。つまり、デス子主導でパーティが結成されていたと言うことか。


「わたし、そのような同意した覚えはないけれど……」


 一方、セレニアは半眼でデス子を睨みつけている。

 いやいや、たぶん、君は無意識に同意してしまったんだ。

 おそらく、二度目の合体を終えたあのあとに……。


「……っ!? つ、つまり、わたしの慕情を利用したということ!?」


 どうやらセレニアも察したらしい。

 というか、慕情って言われるとなんかものすごく照れくさいな……。


「そのとおりさァ! そのためにわざわざダーリンにゾッコンラブになるよう開発したんだからねェ!」


『さすが支配力S』

『アホだと思わせといてたまに異様な有能さを発揮するよな』

『人を取り込むことだけには全力を出す女』

『すべてを捨てでもゾンビをゲットするだけはある』

『結果的に大正解だもんな』

『騎士くんは間違いなくSSSR級』

『お姫ちゃんもSSR級はあるよ』

『いやセレちゃんはSSSSR級だから』

『ゲシュタルト崩壊するからやめて』


 ゲシュタルト崩壊ってなんだ……?


「いやァ、ダーリンとお姫ちゃんの立ち会い見てたら、この子、絶対に欲しい! ……ってなっちゃってさァ。でも、もう使徒にはできないし、だったらもうわたしなしじゃ生きられないようにしてやるしかないじゃん?」


 うわぁ、怖いこと言ってる。

 でも、実際にそれを成し遂げたわけだよな……コイツ、ヤベエやつだな。


「まァ、どっちかってェとダーリンなしではって感じだけどねェ! わたしも含めて!」

「くっ……否定はできないけれど……」


『つまりゾンビ最強か』

『でもけっきょくそのゾンビを捕まえたのはデス子だろ』

『デス子……恐ろしい女!』


「はっはァ! もっと誉めたまえよ!」


 おお、珍しくデス子がコメント欄で誉められておる……。

 でも、あんまり褒めると調子に乗りそうだからほどほどにしといてくれよな。


『運だけで生き残る女』

『死神のくせに幸運値高いとか設定無視もいい加減にしろ』

『まあゾンビくんゲットで運も使い果たした可能性ある』

『それでもお釣りがきそう』

『出涸らしのおまえにはコレで十分だ:100DP』

『ゾンビくんこれからもがんばって』


「なんでよォ!?」


 よかった。うちの視聴者は今日もいつもどおりだったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る