第十四章 システムの違い

『マジで3Pはじまってワロタ』

『勇者ちゃんもなかなかの性豪やな』

『ゾンビマジで枯れるんじゃね』

『スケルトン化不可避』

『このダンジョンにはスケベしかいません』

『そりゃゾンビも農作に逃げるわ』

『ゾンビくんがんばれ』


 俺はなんとか激戦を乗り越え、今はベッドで昇天している二人を放置して畑の様子を確認しにきていた。

 ここ数日で畑に植えられた種はしっかりと成長してくれていて、設置した四つの畑にはそれぞれに異なる作物を実らせつつある。

 このダンジョンが大陸のどの辺りに存在するのかは分からないが、どうやら今の季節は春に該当するらしく、生育の早い春カブなどは明日にも収穫することができそうだ。


 俺やデス子はそこまで食事を必要としないが、人間であるセレニアは一日二食か三食は食事を取りたいだろうし、やはり安定的な食材の供給は必須だろう。

 さすがにずっとカロリースティックを食べさせるのは忍びない。


 しかし、野菜だけというのもなかなか味気ないものがある。

 幸いにも今回の野菜の種セットの中には馬鈴薯の種が含まれたので、いったんはそれを穀物の代わりにすれば良い。

 ただ、やはり将来的には米か麦、あるいは豆類あたりがほしいところだ。

 今度、セレニアの故郷で主食が何か聞いてみようか。

 それによって今後の農作の方向性を考えてみてもいいかもしれない。


 それと、動物性タンパク質の入手法も確立したいところだ。

 水源を拡張すれば魚を棲まわせることもできるようだから、当面は生け簀のようなものを作って魚の養殖をしてみるのもいいかもしれない。

 もし実際にやるのであれば、ちまちまと拡張を進めていた農地エリアの一部を利用するのが手っ取り早いだろうか。

 最初は水田でも作ろうかと思っていたのだが、このあたりは状況を見て判断しよう。


『畑いじりしてるときのゾンビくんが一番幸せそう』

『カブは実ってもゾンビの大根は枯れてる』

『大根は冬野菜だしな』

『たし蟹』

『冬だけにか?』

『分かりづらいツッコミやめろや』

『馴れ合いチャンネルはここですか?』


 相変わらずうちの視聴者たちは仲が良いな。

 気づけば登録者数1万人を超えていた我がチャンネルだが、そこから爆発的に伸びているかと言えば意外とそうでもなかったりする。

 セレニアとの対決があったり彼女を手籠めにすることになったりとそれなりに見どころはあったと思うのだが、世の中そこまで甘くないというところだろう。


「騎士さま」


 ――と、不意にセレニアの声が聞こえてくる。


 見やると、農地エリアの入口に、いつぞやにも見たドレスかと見紛うような鎧を身につけたセレニアが立っていた。

 服を着ているだけでもうちのポンコツ死神と比べてだいぶ常識的だと言うのに、鎧まで身につけているなんて、なんとしっかりした娘さんなのだろう。


「あ、いえ、わたしたちは装備を選ぶだけですぐに着脱できますから……」


 照れたように指先で頬をかきながら、セレニアがこちらに歩み寄ってくる。

 何かちょっとよく分からないことを言っているな。

 装備を選ぶだけですぐに着脱できる……?

 勇者はみんな、いつぞやのデス子のような早着替えができるということだろうか。


「騎士さまはできないのですか? ナビボードからこうやって……」


 そう言いながらセレニアがナビボードを操作すると、次の瞬間には彼女の身につけている鎧が飾り気のない鋼の鎧に変貌した。

 まるでスライドショーでも見せられているかのような一瞬の出来事だった。

 な、なんだ今の現象は……?

 ひょっとして、ナビボード自体の仕様が違うのだろうか。


「そうなんでしょうか。ご覧になられますか?」


 セレニアが自分のナビボードをこちらに見せてくれた。

 そこに表示されていたのはイクイップメントメニューと呼ばれる画面で、体の各部位に身につける防具の他、主兵装や副兵装となる武器などを登録できるようになっているらしい。

 セレニアが『体』と記されているアイコンに触れるとリストのようなものが現れ、その中から『姫騎士の聖鎧』というものを選択すると、再び彼女の身につけている鎧が先ほどの可憐なデザインのものに変貌した。

 す、すげえ。めちゃくちゃ便利じゃねえか……。


「騎士さまのナビボードには、こういったものはないのですね」


 セレニアがこちらのナビボードを覗き込んでくる。

 こちらにある機能といえば、MPとDPを示す情報画面とダンジョンの全体マップ、あとはDPメニューくらいだろう。

 ――ん? そういえば、MPの最大値がいつの間にか30になっているな。

 そして、いつしか情報画面にダンジョンマスターランクという項目が増えており、その横にCと表記されている。

 ひょっとして、セレニアを支配下においたことでランクが上がったのだろうか。


『確かそもそもエリアが一定以上にならないとランク認定されないんじゃなかったっけ』

『ダンマスランクはDが最低やな』

『認定&ランクアップおめ』

『ご祝儀やるよ:100DP』


 ありがとう。できればもうちょっと盛大に祝ってくれ。


「なるほど。ダンジョンマスターと勇者でナビボードの仕様が大きく異なるんですね」


 セレニアが俺のボードと自分のボードを見比べながらふむふむと頷いてる。

 聞けば、勇者側のナビボードにはアイテム管理機能がついているらしく、普段は使わないアイテムをストレージと呼ばれる亜空間に一時的に保管することができるらしい。

 また、一部の魔物などは倒したときにその素材が自動的にストレージ内に格納され、それらを売却することでゴールドを稼ぎ、Gショップという俺たちでいうDPメニューのようなもので必要な物資の購入に当てることができるのだそうだ。


『まあでも勇者ちゃんはお布施があるから金稼ぎはいらんやろ』

『美人は得だな。デス子にもそれだけの器量があれば』

『見た目は別に悪くなくね』

『おっぱいもデカいよな』

『でもやっぱ非処女に大金は出せねぇわ』

『差別的発言ですよ!』

『じゃあおまえが出せよ』

『無理っす。出すなら俺に惚れてくれそうな汚れを知らない子がいい』

『分かるわ―』


 ゴミみたいな会話してんなコイツら……。


「じ、実を言うと、わたしのチャンネルの登録者もかなり減ってしまったんです……」


 羞恥心に顔を染めながら、モジモジとセレニアが言った。

 あー、今の会話は確かにセレニアにとってはかなり配慮にかける内容だったな。

 おまえら、ちょっと反省しろよ。


『正直スマンかった』

『俺は勇者ちゃん好きよ』

『これからもゾンビと甘々エッチしてほしい』

『3Pもオナシャス』


 あけすけすぎんのよ。もうちょっと言葉を選べ。


「い、いえ。なんだか逆に元気が出ます。騎士さまのチャンネルの視聴者さんは裏表がない感じが素敵だと思います」


 セレニアはそう言ってはにかむように笑った。

 まあ、おそらくこれまでの拷問の日々の中でも俺たちのチャンネルのコメント欄が自然と目に入っていたのだろう。

 確かにコイツらはチャンネル開設当初から一貫してキャラにブレがない気がする。


「わたしのチャンネル、登録者数も半分以下になってしまったのですが、とくに熱心にわたしを応援してくれていた人たちがみんないなくなってしまって……期待を裏切る形になってしまって申し訳く思っています」


 セレニアが俯きながらポツリと呟く。

 聞けば、当初は10万人を超えていたチャンネル登録者数も今は3万人ほどまで激減してしまったらしい。そんなに減るんだ……。


『あいつらは金でセレちゃんの気を引こうとしてたゴミだよ』

『セレ姫の幸せを願う俺たちこそ真の親衛隊だから』

『ゾンビくんと幸せになってほしい』

『あとできれば死神とも濃厚に絡んで欲しい』

『NTRと百合萌え勢に侵食されたチャンネルはここですか?』


 まあ、登録者数は激減したのかもしれないが、セレニアのチャンネルのコメント欄も今はそれなりに平穏そうだ。

 というか、計らずしもこれはコラボ配信的な感じなのではないだろうか。

 ダンジョンマスター側と勇者側のコラボ配信というのもかなり希少だと思うのだが。


「お姫ちゃんがウチらの陣営になったことはネットニュースにもなってたから、ひょっとしたらこれからプチバズくらいにはなるかもねェ」


 ――と、今度はデス子も農地エリアにやってきた。

 こっちは相変わらずスッポンポンだった。

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