第七章 ダンジョン農家はじめました
現在、俺たちが拠点としているのは、ダンジョンの最奥に作った小部屋である。
ここにダブルベッドを置き、雑多な道具をしまう棚や衣装棚なども設置している。
これら生活用品も勇者撃退には基本的に不要なものであるためか、必要なDPはそこまで高くなかった。
ダンジョンには全体の内装によって危険度というものが判定されるらしく、危険度の高いダンジョンを攻略するほど人族側には大きなポイントが入るとのことだ。
また、お宝レベルというものもあって、これは攻略完了時にもらえるポイントには影響しないが、ダンジョン攻略中に有益なものが手に入る確率を示すものらしい。
つまり、勇者たちはこの危険度とお宝レベルから攻略するダンジョンを選定していくという仕組みになっているようだ。
ちなみに現在の我がダンジョンは危険度もお宝レベルも最低値である。
当然といえば当然で、このダンジョンには勇者にとって危険なものもなければ、お宝になるようなものも未だ何もなかった。
「まあ、このまま愛の営みを配信しつつ、細く長く生きるのもありだぜェ」
俺の背中にしがみついてそんなことをのたまうデス子を引きずりながら、俺は魔トックで拠点としている部屋の横に新たな小部屋を作っていた。
一日20回しか使用できないと言うのは実はけっこう不便で、例えば12メートル四方の小部屋を作るとなるとそれだけで必要な使用回数は16回となる。
つまり、ちょっと広めの部屋を作ったらあとは通路をちょいちょいと作るだけでその日に掘れる分は終わってしまうのだ。
今回は畑を作るための小部屋にするつもりだったので、畑の設置するためのフロアと水源のためのスペースを確保するだけで使用回数が尽きてしまった。
「ほら、見たまえよ。視聴者たちの嘆きが聞こえてくるぜェ」
デス子が背後からぐいっと腕を回してきながら、俺の前に配信画面を表示させる。
『農業はじまた』
『自然とともに生きよう』
『ついに吸いつくされて悟りを開いたか』
『完全に枯れとる』
『むしろこれから育むんだろ』
『あっちは枯れてもこっちは枯らすな』
『野菜もがんばれ』
別に嘆かれてるようにも見えんが……むしろ、うちの視聴者はみんな優しい。
「あれェ? おかしいなァ。みんなもっとわたしたちのラブラブチュッチュな動画を期待してると思ったんだけどなァ……」
ラブラブではないかもしれんが、そういう致しちゃってる系の動画は他にもたくさんあるだろうし、もう俺たちには期待されてないんだろうよ。
「そんなことはなァい!」
デス子が声を上げながら、宙に浮かぶキャメラマンこと発光体に向き直る。
そして、おもむろにブラジャーを脱ぎ捨てながらセクシーなポーズを取り始めた。
「みんなもわたしとダーリンの愛の営みをもっと見たいよねェ?」
こいつ、もうすっかり羞恥心がなくなっておるな。
『おっぱいデカいッスね』
『今日はもういいわ』
『賢者タイムワロタ』
『つーかおまえらついさっきヤってたよな?』
『デス子性豪すぎるだろ』
『最近まで処女だったらしいぞ』
『性の悦びに目覚めやがって……』
『ゾンビくんうつして』
ほら、ちょっと飽きられてるじゃねえか。
「ちっがァーう! 飽きられてるんじゃなくて、あまりに濃厚だったからみんな賢者タイムになっちゃってるだけ! そのうちまた求めてくるはずだからァ!」
分かったからブラジャーをつけろ。
デス子のほうは無視して、俺はDPメニューから畑を選択すると、小部屋の中に四箇所に分けて配置した。だいたい1エリア2m四方ほどのようだ。
この畑は魔術的な加護を持った畑で、とくに肥料などを与えなくても土質が悪くなることはないし、植えた野菜の生育も通常より遥かに早いらしい。
ただし、通常の畑と違って保水性が低いため、最低でも一日一回以上のこまめな水やりが必要になるとのことだ。
そこで、今度は空きスペースに水源を作る。
これは本来であればダンジョンの中を区切ったり水棲の魔物たちのためといった用途で使われるものらしいのだが、俺はこれを畑の水やりのに使うつもりだ。
さらに水源を作ったあとの水路の拡張は魔トックでできるようだった。
魔トックには壁を掘るための拡張モードの他に作業モードとよばれる状態があり、今回のように水源から水路を伸ばしたりダンジョン内の壁の形状を替えたりできるようだ。
その他にも坂道を階段状にしたり天井を鍾乳石風にしたりと、ちょっとしたダンジョンの外観変更に使うこともできるらしい。
次に俺はDPメニューから野菜の種セットというものを獲得した。
これは季節の野菜の種がセットになったもので、何が生えてくるかはお楽しみらしい。
さすがに畑関連についてはダンジョン運営の中でもおまけ的な要素なのか、野菜の種類を指定して購入することはできないようだ。
ただ、それでも畑1エリア分の種が5DPで買えることを考えると、カロリースティックと比べてもかなりコスパに優れていると言えるだろう。
俺は魔トックを作業モードにして水源から畑のそばまで水路を伸ばし、そのまま魔トックを使って畑に畝を作った。
さすがに種蒔きと水やりは自分でやる必要があるようなので、俺は渋るデス子に無理やり種袋を渡して畝に野菜の種を植えていった。
「こんな種よりダーリンの種がほしいなァ!」
言ってることがもはや酔っ払いのオッサンレベルなんだが、大丈夫か……?
『半裸で農作業という貴重すぎるシーン』
『セクシーではある』
『けっきょくブラジャーつけてねえ』
『カメラさんもうちょっと局部うつしてほしい』
『意外と尻もエロいね』
『泥にまみれた絡みも見たい』
『デス子ゾンビくん襲うなら今だぞ』
「よォーし! 視聴者もノッてきたみたいだねェー!」
やべえ、種を植える仕草が一部の視聴者の琴線に触れたらしい。
――ええい、コレでもくらうがいい!
俺はDPで獲得したバケツで水路の水を組み上げると、両手をワキワキさせながらこちらに迫ってくるデス子に向けて思いっきりブッかけてやった。
「わぷっ!? い、いきなりズルいぞっ!」
『おお、濡れたせいで余計にセクシー』
『パンツ透けてるやん』
『これはエッチ』
『ちょっとこっちも準備するから待って』
『早くしろ! 間に合わなくなってもしらんぞ!』
『ゾンビくんがんばれ』
しまった! 視聴者がさらにノリノリになってしまった!
「ほゥら、これは視聴者が望むことなのだよ……ダーリン、覚悟を決めたまえ!」
いよいよデス子も本気になったのか、いつぞやのように謎の力で俺の四肢が拘束された。
くそ、もうダメか……こうなったらせめて投げ銭があることを期待しよう。
俺はデス子に押し倒され、強引に唇を奪われながら、せめて種を撒いた畑を巻き込まないようにだけは気をつけようと心に誓うのだった。
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