第六章 ユストリアステーション
あれから三日ほどの時間が経った。
その間にいくつか分かったことがあった。
まず、普通に腹は減った。
といっても、生きていたときほどすぐに空腹を感じるわけではないようだ。
どうやら身体自体は魔力的なもので存在を維持されているらしく、いわゆる生命活動に必要なエネルギーというものは必要ないらしい。
ただ、活動に伴うエネルギーは人間として生きていたころと同様に必要らしく、要するに体を動かすと腹が減るのだ。
幸いにもDPメニューでカロリースティックなる携帯食料を獲得することができたので、ひとまず当面はそれで必要な栄養を確保することにした。
とはいえ、カロリースティックは5食分セットで50DP――今のところ一日一本でなんとかなっているが、決してコストパフォーマンスに優れているとは言い難い。
今後のことを考えると、このダンジョン内の敷地を使ってなんとか食料の確保を行なう必要がありそうだった。
「人間は不便だねェ……その点、わたしはダーリンの精力を分けてもらってるからか今日も元気ビンビン丸さァ!」
相変わらずデス子は隙あらばベタベタとくっついてくる。
というか、主におまえの相手をさせられているせいで腹が減っているのだが……。
「そうは言うけど、わたしたちの愛の営みによって日銭が稼げてるということも忘れないでくれたまえよ!」
むう、確かに、それはそうなのだ……。
あれからデス子に所望されたとおり、ひとまずダブルベッドを獲得した。
ただ、俺の体は食事こそ要求するものの睡眠は不要らしく、ベッドも主な用途は『愛の営み』を致すためのものになってしまった。
この三日でデス子もすっかり爛れてしまって、最近は黒いローブすら着ずに下着姿でほっつき回っている。
素っ裸でないだけまだマシと思うべきか……。
「わたしとしては、こんなセクシーな女子が積極的にスキンシップしているというのにぜんぜん相手にしてくれないダーリンのほうに問題があると思うけどねェ! 視聴者だってもっと熱いオトナの大相撲をご所望しているはずだよ!」
オオズモウ……? コイツはときどきよく分からん言葉を使うな……。
それはそれとして、他にもいくつか分かったことがある。
まず、俺たちが表示できる半透明のボードの正式な呼称はユストリアステーション・ナビゲートボード――通称ナビボードというらしい。
MPやDPといった基本的な情報の参照からDPメニューの他、自分たちの配信画面や他の配信者の動画視聴、さらにはユストリアステーション・ネットワークと呼ばれるものにアクセスして自分が興味のある情報を調べることもできるらしい。
「ユストリアステーションこと通称ユーステは、ユス局の親会社にあたる組織だよ! それにユーステネットは今や人魔問わず人々の生活には欠かせないインフラ的存在だっていうのに、ダーリンはそんなことも忘れてしまったのかい!?」
うーむ、どうやらそうらしいな。
あるいは、もともとユーステにあまり関わらない生活をしていたのかもしれない。
「まあ、生活環境によってはそういうこともあるのかな? ちなみに我々ダンマスや勇者じゃなくてもユーステが無料配布しているナビデバイスを使えばユス局の放送やユーステネットにはアクセスし放題なのさ!」
なるほど。つまり、俺たちの放送を見ている視聴者というのはそう言ったナビデバイスを使って動画視聴をしているということか。
――ん? じゃあ、なんで俺たちはそのデバイスなしでナビボードが出せるんだ?
「そりゃ、わたしたちは魔王さまの加護を受けてるからだよ! あったりめェだろ!」
当たり前……なのか?
まあ、逆説的に考えれば魔トックの仕様やDPメニューによる物資の召喚など、普通に考えればとんでもないことがいともたやすく行われているわけだから、魔王の加護という曖昧な概念で一括りにしてしまったほうがむしろ納得できるような気もするが……。
「まあ、細かいことは気にせず、今日も元気にダンジョン運営と配信業に勤しもうぜェ!」
そう言ってデス子が俺の体に寄りかかってきながら、おもむろに頬にキスをしてくる。
待て待て……今日はまだMPが残ってるから、まずはダンジョン拡張からだ。
「ちっ……どうにもダーリンは三大欲求が薄い気がするぜェ。ゾンビだからかなァ」
ぶつくさ言いながらデス子が唇を尖らせている。まあ、無視しよう。
MPは最大値が決まっており、俺たちの場合は20だ。
つまり3メートル四方くらいの空間を20回削り取ることができると考えればいい。
MPは大陸標準時間で0時になると最大まで回復するが、残った分はその五倍の数値がDPとして還元される。
つまり、穴を掘らなければ最大で一日100DPは何もしなくても手に入るわけだ。
ただ、今のところ『愛の営み』を配信すれば200DPから500DPくらいの投げ銭を貰えるので、敢えてMPを残しておく必要はない。
俺はナビボードを開き、現在の我がダンジョンのマップを表示させた。
ナビボードには自分たちの管理するダンジョンの全体図を見る機能も備わっている。
当面の俺の目標は、これまで適当に掘ってきた通路をベースにこのダンジョンを住みよい環境にしていこうというものだった。
DPメニューには意外にも様々なものが登録されていて、例えば田畑といった本来ならば勇者討伐に必要なさそうなものまであったりする。
「ほら、見たまえよ、ダーリン! 視聴者は愛の営みを所望しているよ!」
――と、急にデス子が自分のナビボードに配信画面を表示しながら俺に見せてきた。
現在の視聴者は10人程度だが、緩やかにコメントは流れ続けている。
『デス子ぜんぜん相手にされてないやん』
『ゾンビくんついに枯れる』
『そりゃあんだけ相手させられてりゃね』
『AVでも見ないレベル』
『むしろゾンビくんの弾数に敬服』
『できればもうちょっと前戯長めで』
『無理だろデス子すぐに合体したがるし』
『淫乱死神』
『キスだけは異様にエロいから評価する』
『わかりみ』
『チャンネル登録しました』
『ゾンビくんがんばれ』
これ、単に視聴者同士で馴れ合っているだけでは……?
あと、誰か分からんけど、いつも応援、ありがとな!
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