第五章 それぞれの方向性
映像の中では、薄汚れた鎧を身にまとった戦士風の男が映ってた。
だが、男は映像の中に出たり入ったりしており、その中心にいるのは木の棒のようなものに手足を縛られた肌の色の悪い小人のような生き物だ。
これは魔物――確か、ゴブリンではなかった。
幸いにも、こういった知識的な記憶については失われていないようだ。
しかし、この状況、おそらく人間側の配信なのだとは思うが、いったい何が行われようとしているんだ……?
『えー、それじゃ三位から! 三位は12,300ゴールドで、串刺しでした! 残念!』
男が映像の中に顔だけ出して視聴者に対して謝るようにペコペコとしている。
『マジかよ。キグナスの串刺し最高なのに、わかってねーよ』
『やっぱマタサキっしょ』
『俺も串刺し見たかったわー』
『あーあ、投げ銭返せよ』
『串刺し勢乙』
『もう帰っていいよ』
コメント欄は大いに賑わっているようだ。
ボードの隅に表示されているチャンネル登録者数はゆうに10万を超えており、映像に表示されている同時視聴者数の数も500人近くになっている。
『はい、それじゃ二位いきまーす! 二位は26,700ゴールドで、マタサキでした! こっちも投票してくれた人、ゴメンねー!』
マタサキ――もしや、股裂きか?
もしや、この男、投げ銭の額でゴブリンの殺しかたを決めようとしているのか……!?
『はい、股裂き勢逝ったー』
『おいおい……ってことはアレが一位かよ』
『待ってました!』
『ほんとオマエら好きだよな……』
『やっぱじっくりネットリが良いわけよ』
『へんたーい』
『このチャンネルは変態によって支えられています』
『股裂きに入れた投げ銭返して』
またコメントがズラズラっと流れていく。
『さーて、お待ちかねの一位は……51,200ゴールドで、蹴りたぐりでしたー! みんな好きだねー! 今日もじっくりねっとり時間をかけて始末するからね!』
男が再び画面の中に入ってきて、身動きのできないゴブリンの腹を爪先で蹴り上げる。
ゴブリンが口から血と胃の内容物の混じった吐瀉物を吐き出し、ビクンビクンとその体を震わせていた。
その瞬間、コメント欄に金貨袋のマークと数字の記載されたコメントが次々と書き込まれていく。
俺たちの配信と違ってG表記ということは、人間側の陣営の配信だと文字どおり投げ銭になるということだろうか。
ということは、つまり、今この瞬間にお金を投じた人間がいるということだ。
抵抗できなくしたゴブリンに対して惨たらしい行いをしているこの動画に、金を投じる意味があると判断した人間がいる――と、そういうことだ。
「人間は陰湿だねェ。ま、こういうスナッフな映像を楽しめるのも戦時中ならではってことなのかなァ」
俺の背後からのしかかるようにして映像を覗き込みながら、デス子が言った。
彼女自身はとくにこの映像に対して思うことはないようだ。
ということは、俺が知らなかった――あるいは忘れていただけで、こういったことは少なくとも今このときにおいては別に珍しいことでもないということだろうか。
「そうだねェ。ちなみに、人間とよく似た見た目の魔物やダンマスを凌辱することをメインにしたチャンネルもあるんだよ。ま、逆に勇者を惨たらしく殺したり人族の女をひたすら凌辱するチャンネルもあるから、あっちばっかりを悪者にもできないけどねェ」
デス子がため息まじりに言う。
ポイント制と聞いて平和的な戦争を勝手に思い描いていたが、やはり何処までいっても戦争は陰惨なものだということか。
そして、このチャンネルの登録者数の多さ、投げ銭の多さから察するに、少なくとも人族側にはこういった嗜虐的な内容を喜ぶ視聴者が多数存在するのだろう。
魔族側だって大して変わらないかもしれない。あるいは俺が知らないだけで、魔族側のほうがもっとこういうものを好む傾向にあるという可能性だってある。
俺は無意識に重い溜息をつきながら、ボードを自分の配信画面に戻した。
「ま、その点においてわたしとダーリンの間には愛があるからね! 陰惨な戦時放送ばかりのユス局公式配信におけるオアシス的な存在! それがわたしたちデス子ちゃん&ゾンビくんのほのぼのチャンネルなわけよォ!」
デス子が背後からギュッと俺の体を抱きしめつつ、無理やり頬にキスをしてきた。
愛なんてあったかな……。
というか、ゾンビくんって名前、そのまま定着していきそうでなんか嫌なんだが。
「さあ、さあ! それじゃ、わたしたちはわたしたちのダンジョン運営をはじめようじゃないか! まずはDPでダブルベッドとジャグジーを買って快適な環境を整えよう!」
それ、本当に生活環境を快適にするために用意するんだよな……?
『速報:耐久配信の環境、早くも揃う』
『これで汗をかいても一安心』
『むしろ汗を流しながらの結合』
『そして結合しながら就寝』
『羨ま死刑』
『コイツらもともと死んでね?』
『たし蟹』
『恋する死神ちゃん尊い』
『ただの痴女やぞ』
『ブラバしますね』
『ゾンビくんがんばれ』
謎に俺のことを応援してくれる視聴者がいるな。
あと、けっきょくブラバってなんなんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます