第四章 初体験ライブ
果たして、それはどちらに対する『マッサージ』だったのだろうか。
蓋を開けてみれば、最終的に『気持ち良くなった』のはデス子のほうではないかと思う。
そういう意味では、DPメニューがダンジョンマスターに対する『報酬』リストであるという概念はある意味では保たれていたといえるだろう。
「正直、めっちゃ良かった……相性がよかったのかなァ?」
俺に聞かないでほしい。
こっちは男としての尊厳を奪われた気がしてちょっとヘコんでいるのだ。
聞くところによると『デス子のマッサージ』はもともとイケメンな使徒を使役できたときにエッチな雰囲気になったら面白いなぁという思いつきだけで設定したものらしい。
コイツ、自分で処女とか言ってたよな……?
あるいは処女を拗らせるとこういう発想をするようになるのか……?
――いや、そうやって主語を大きくするのはいかんな。
こいつが特別にスケベで変態な死神だったということにしておこう。
「なんかさァ、こんな形ではじまる恋って良くないのかもしれないケド、ちょっと好きになっちゃったかも……ねえ、これからはダーリンって呼んでも良い?」
服を着ようとしている俺にしなだれかかりながら、甘い声でデス子が言う。
さっそく色ボケしておる。とりあえず、先に服を着ろ。
「はーぁ、つれない男だなァ……でも、そこもまたラブリィだゼッ!」
とくにヘコんだ様子はなく、すっぽんぽんのまま仁王立ちでサムズアップを決めている。
綺麗な乳首をしてやがるぜ。
「ちょ、そういう言いかたはダメっ! エッチ!」
急に胸許を隠しはじめた。さっさと服を着ろ。
もうそちらは無視することにして、俺はサクッと着替えを済ませると再びメニューボードを表示させた。
MPは少しずつ回復しているようだが、まだ大がかりな穴掘りができるほどではない。
それよりも気になったのはDPのほうだ。
先ほどの『デス子のマッサージ』で使い切ったはずだったのに、いつの間にかまた200まで増えていたのだ。
「おーぅ、これはひょっとすると、投げ銭があったのかもしれないねェ」
ローブを着たデス子が横からボードを覗き込んできた。
というか、別に自分でもメニューボードは出せるんだから、わざわざこっちを見なくてもよくないか?
「分かってないなァ! こうやって少しでも密着したいという乙女ゴコロを察したまえよ!」
ぐっ……そういうこと言われると照れくさいからやめろ。
「はっはァ! 君もウブなところがあるじゃないか! こっちのほうは立派だったのにねェ!」
やめろ、そこを触るな。
というか、投げ銭ってなんだ?
「これを見たまえよ!」
そう言って、俺に寄りかかったままデス子が自分のメニューボードを出して配信画面を表示する。
そこにあるコメント欄の一番上に、金貨袋のようなマークのついた『200DP』という文字列があった。
その横には『最高かよ。また次も生配信オナシャス』というコメントが添えられていた。
そ、そういえば、俺たちの様子ってライブ配信されてるんだよな……?
「おーっ! す、すごいよ! 登録者数が一気に1000人を超えてるじゃないか! 初日でこれは上々なんじゃないかねェ!」
デス子は何やら喜んでいるようだが……コメント欄、見たか?
「コメント? ……っ!? あ、あわわわわ……!」
どうやらデス子も俺たちの置かれている状況に気付いたようだ。
そうだ。俺たちの粗相もしっかり生配信されていたのだ。
さすがにコメント欄も大いに盛り上がっていたようだった。
『え、コレ、マジではじまっちゃう感じ?」
『キタコレ』
『BAN確定ワロタ』
『ダンマス公式配信は本番おkよ』
『これはセウト』
『愛ある合体とか珍しい』
『これって愛あるの?』
『カメラワーク絶対AV意識してんだろコレ』
『これはアンアンビデオです』
『オンナ喘ぎすぎやろ』
『完全なる逆レ』
『オトコ逃げてるやん』
『あ、捕まった』
『ゾンビでもちゃんと出るんかな?』
『とりあえずタツことだけは確定的に明らか』
『また逃げてる』
『はい、捕まりました』
『ゾンビよえー』
ぐぬぬぬ、俺が弱いんじゃない。この女がヤバいんだ。
「は、初体験を生ライブしちゃうなんて……もう生きていけないよォ!」
デス子がそのまま走り去っていき、壁に激突してすっ転んでいる。
実体化してしまったことを完全に失念しておるな。
「イデデデ……ううう、実体を持った死神はいったい何になるんだろう……」
何やら哲学的なことを言っている。
メニュー画面にはダンジョンマスターとして必要なことしか表示されていないから、俺たちの今の状態まで教えてくれるわけではない。
そもそも、それが分かるなら俺だって自分の素性についてもう少し憶測もできよう。
『痴女と性奴隷だろ』
『間違いない』
『性豪』
『種族:痴女 職業:性豪』
『強そう』
『ていうか強いじゃん』
『ゾンビくんがんばれ』
『痴女があれだけ喘いでたんだからモノは立派なんだろ』
『ちょっと早いかな』
『早撃ちゾンビか』
『弾数は多そう』
『マシンガンゾンビやな』
『ゾンビくんがんばれ』
くそ……好き放題に書き込みやがって……。
というか、そもそものライブ配信についての知識というか記憶がないから詳しいことは分からないが、こういった内容のものを配信することについて何か問題があったりはしないのか?
「ノープロブレムさァ! 普段のユス局ライブだと規約違反でBAN確定だし、そもそもここまで露骨じゃなくてもインセンティブの停止があったりするけど、わたしたちのダンマス配信というか、公式の戦時配信はわりとなんでもオッケーだよ!」
デス子が赤くなった鼻を擦りながら反対の手でサムズアップをしている。忙しいやつだ。
そういえば、投げ銭とやらをくれたコメ主は『次回も生ライブオナシャス』と書き込んでいたな……。
「つまり、エッチな生ライブで投げ銭ゲット作戦……ってコト!?」
デス子が両手で顔を覆い隠しながらとんでもないことを言っている。
その顔は羞恥に紅潮しているが、一方でこちらを見るその目は何かを期待しているようにも見える。
『さすが痴女』
『最短でその発想にいたるところがもう完全にスケベ』
『落とし物です つ「羞恥心」』
『24時間耐久合体配信してほしい』
『チャンネル登録しました』
『ゾンビくんがんばれ』
コメント、賑わってんなぁ……。
いやでも、さすがにそれで登録者や投げ銭を稼ぐというのは無理がないか。
もしそんなことが大金を稼ぐことができたなら、わざわざ危険のあるダンジョン運営や攻略なんてやめて、みんなそっち系の配信ばかりやれば良いということになってしまう。
いやまあ、それならそれで平和的ではあるから別に問題はないのか……?
——と、俺がそんなことを考えていると、その安易な発想に対する答えを示すように、視聴者からとある配信チャンネルに誘導するコメントが書き込まれた。
試しに開いてみると、ボードの表示が切り替わり、俺たちの配信画面とよく似た別の配信映像が流れはじめる。
『それじゃ投げ銭投票の結果を発表しまーす!』
それは人族側のライブ配信の映像のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます