第二章 ただいま配信中

 それから俺はひたすら魔トックで地下に向かって穴を掘っていった。


「とりあえずテキトーに掘れるだけ掘ってみよう!」


 デス子がそう言うので、ひとまずそれに倣ったわけだ。

 不思議なことに洞窟の闇の中でも俺の視界が閉ざされることはなかった。

 デス子の使徒になったことで夜目が効くようになったのかもしれない。

 空腹感や喉の渇きに悩まされることもないし、これはこれで便利かもしれないな。


 ——と、そのまま魔トックで適当に穴を掘り進めていると、あるときを境に急に掘れなくなってしまった。

 何度となく刃を壁に当てても、カンカンと弾かれてしまうのだ。


「おお、これが俗に言うMP切れというやつだね!」


 俺の後ろをフヨフヨと浮かびながらついてきていたデス子が、またよく分からないことを言っている。


「見たまえ! これがダンマスメニューだよ!」


 そう言うなり、今度はデス子の前に半透明の板のようなものが現れた。

 その板の上には何やら文字が記されていて、その中には確かにMPという表記がある。

 というか、MPってなんだ……?


「おそらく魔トックポイントのことだね!」


 あ、そういう感じ?


「うむ! 無制限に掘られまくっちゃこの大陸が穴だらけになってしまうからねェ! 単位時間内で使える魔トックの回数に制限が設けられてるんだよ!」


 なるほど、よく考えられてる……のか?


「それに、見たまえ! すでに我々のダンジョン作りを見守ってくれているキャメラマンもいるようだよ!」


 は? キャメラマン? なんだそれは。


「ほら、そこに浮かんでる発光体があるだろう?」


 デス子が指差すほうを見ると、確かにそこには小さな発光体が浮かんでいた。

 いつからいたのだろう。まったく気がつかなかった。


「神魔大戦の様子は常にあらゆるところで撮影されているからねェ。どうやらわたしたちの施工風景はライブ配信向けと判断されたようだよ!」


 ライブ配信向け……?

 よく分からんが、そういうことを判断する組織か何かがあるのだろうか。


「そんなの、ユストリア放送局に他あるまいよ!」


 ユストリア放送局? またわけの分からん単語が出てきたな。


「ユストリア放送局といえば、人魔の垣根を越えたエンターテイメント集団! 我らがダンマスの出資者でもある、ありがたァい組織だよ!」


 はあ。そんなふうに人魔の垣根を越えられるなら、なんで戦争なんてしてるんだ?


「それは大人の事情ってやつさァ。なんていうかなァ……兄弟? 夫婦? まあ、そういう関係でもさ、たまには喧嘩ってするだろォ?」


 まあ、喧嘩くらいはするかもしれんが……とりあえず、ここで言及しても仕方ない問題ではありそうだな。

 しかし、それはいいとして、それならなんで俺たちの施工風景がライブ配信されているんだ?


「そりゃ、こういったのどかな光景をお茶の間とかで見てホッコリしたいヒトたちがいるからだろうさァ!」


 のどかな光景? こんな地味な穴掘りが……?

 というか、こんなものを見てホッコリするってどんな層だ?


「見たまえ! さっそく我々のチャンネルが作られてライブ配信もされているよ! どうやらコメントも届いているみたいだねェ!」


 デス子が半透明のボードをくるっと反転させてこちらに見せてくれた。

 そこには発光体から見たらしい俺たちの映像と、それに対する視聴者のコメントとやらが映されている。


『コイツ死神のくせにいちいちテンション高すぎじゃね』

『人間と魔族が協力してんの?』

『この鎧着たやつ、ゾンビらしい』

『ああ、なる』

『アナル』

『うざ。モデレータさん、コイツです』

『まだモデレータとかいないでしょ』


 なんだコレは。


「ありがたいことに、いきなりそこそこの視聴者がついてくれてるみたいだねェ! やっぱり二人でやってるところが良いのかな? まあ、すでにダンマス同士や勇者同士のカップルチャンネルみたいなのもあるみたいだけどねェ」


 まあ、よく分からないが、世の中にはダンジョンマスターが他にもたくさんいて、こんな感じに世界中に恥を晒しているわけか。

 そういえば、ダンジョンマスターは金になるという話だったが、それはつまりこの配信と何か関係があるのか?


「そのとおりだよ! チャンネル登録者数が一定数を超えるとインセンティブがもらえるようになるのさァ! だからこそ、わたしたちは視聴者に媚を売りまくってチャンネル登録をしてもらわなければならないわけだねェ!」


 そうか。それならひとまず媚びを売りまくるとかいう露骨な発言は控えような。


『あけすけ過ぎワロタ』

『登録解除しました』

『そもそもまだ誰も登録してねえだろ』


 ほら、コメント欄が荒れてますよ。


「いいや、見たまえ! 登録者数がもう100人を超えているよ! これはなかなかの快挙と見たねェ!」


 むう、凄いのかどうかがいまいち分からん。

 せめて生前の記憶があればこの辺りの事情も少しは理解できたのだろうか。


「まあ、今やユス局は人魔問わずの一大エンターテイメントだからねェ。さすがに知らないということはないだろうけど、逆に何も知らない無垢な君だからこそ演者として最適なのかもしれないよ! さあ、ともにダンマスライバーとしての頂点を目指そう!」


 デス子がそう言ってガッツポーズをする。

 盛り上がってるところ申し訳ないが、今日はMP切れで何もできませんよ。


『ワロタ』

『ブラバしますね』

『夫婦漫才かな』


 ブラバってなんだ……?




      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




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