ダンジョンの奥でのんびり暮らしたいだけなのに、気づいたら勝手にハーレム化してる ~神と魔王が争う世界でポンコツ死神と最強ゾンビがちょっとエッチなダンジョン配信はじめました~
邑樹政典
第一章 デス子ちゃんとゾンビくん
……ここは何処だろう。
目を開けると、そこは薄暗く冷たい場所だった。
ゴツゴツとした床の上に寝かされているようで、背中が痛い。
ゆっくりと体を起こして周りを見やると、何やら岩に穿たれた洞穴の中に寝かされていたらしい。
頭がぼんやりとする。
状況を思い出そうとしても、不思議と何も思い出せない。
もしや、記憶喪失——?
そんな不安に駆られていると、急に目の前に女性の顔が現れた。
「おはよう、マイブラザァ! お目覚めはいかがかな?」
美しくはあるがどうにも不気味な気配をしたその女性は、地面から生えていた。
下半身が地面の中に埋まっているので、そう形容するより他にない。
歳の頃は二十歳くらいだろうか。
透けるように白い顔に闇を落としたような漆黒の髪、幸の薄そうなクマの目立つ瞳だけ血のように紅く、そこだけが光を持っているかのようにほんのりと明るい。
薄暗い洞穴の中でも一際暗く見える闇色の外套を纏い、その手には大鎌を持っている。
幽霊――いや、死神とでもいうのだろうか。そんな印象の女性だった。
「そんなにマジマジと見ないでくれたまえよ! わたしのような陰キャにうら若きオノコの視線は眩しすぎるっ!」
何故か女性はそんなことを言って、赤面しながら地面の中に引っ込んでしまった。
いきなりキャラが濃いな。
「いやしかし、ブラザァにはさっそく一仕事してもらわなければならないからねェ! 体は動くかい?」
また生えてきた。
ニュッと地面から頭だけ出して、さらに手に持っていた鎌もこちらに差し出してきた。
というか、俺、この状況すらよく分かっていないんですが……。
「そうだろう、そうだろう! でも、まずはこの鎌を受けってくれたまえよ!」
女性がずずいっと大鎌を差し出してくる。
逡巡していても仕方ないので、俺は渋々と大鎌を受け取ることにした。
——と、それまで軽木かと思うほど軽そうに見えていた大鎌が、俺が触れた途端にズッシリとした重量を伴って手の中に沈み込んでくる。
実体化した……とでも言うのか?
「おお! ぃやったー! 成功だァー!」
女性が諸手を挙げながら声を上げ、そのまま弾けたように地面を飛び出して空中を旋回しはじめる。
——って、今度は飛んでる!? マジで死神なの!?
「あいや、自己紹介が遅れたね! わたしは死神のディスターニア! 可愛くデス子ちゃんと呼んでおくれ!」
ぷかぷかと宙に浮いたまま、女性——デス子はドンッと自分の胸を叩いた。
わりとおっぱいデカいな。
「あっ! ちょ、そういう性的な目で見るのはやめたまえ! わたしはこう見えてまだ処女なんだよォ!」
慌てたように自分の胸許を隠しながらデス子が言う。
自分からカミングアウトしていくスタイルなのね……。
いやまあ、そんなことはどうでもいいんだ。
そろそろこの状況についてちゃんと説明してほしいところなんだが……。
「うむ! わたしが処女であることにはもう少し驚いてほしかったけど、今は流しておいてあげるよ! 実はね、君はとある騎士の亡骸なのさァ!」
——なんだと? 亡骸って、もうすでに死んでるってことか……!?
俺は思わず自分の体を見下ろした。
どうやら傷だらけの鎧を身につけているらしいということだけは分かるが……。
「大丈夫! 傷はもう治っているからねェ! できたてホヤホヤのゾンビマンさァ!」
おいおい、マジかよ。
実は鎧の下はすでに腐ってるとかないよな……?
「安心したまえ! 幸いにも腐る前にわたしの眷属にすることができたから、君の体は未来永劫キレイなままさァ!」
眷属……? そうか、デス子は死神なのだから、その使徒になったということか。
――って、マジかよ。俺が死神の眷属だと?
というか、そうなった経緯がぜんぜん思い出せないんだが……。
「まあ、わりと悲惨な死にかたをしてるから思い出さなくて良いと思うよ! それより、その鎌を手に取ったからにはやることは一つさァ!」
俺の焦燥など気にした様子もなく、デス子はふんすふんすとテンション高めに鼻を鳴らしながら洞穴の壁を指差した。
「さあ、さあ! その鎌でこの壁を掘りたまえ! 今すぐ! ジャストナウ!」
は? 穴を掘る? 鎌で? 正気か? ジャストナウの使いかた合ってる?
「掘れるとも! それはもう君が持った時点でただの鎌ではないのだよ! そう、マトック! いや、魔トックだよ! さあ、何も考えずに掘りたまえ!」
テンション高いな。
まあいいか。とりあえず、やるだけやってみよう。
俺は立ち上がり、大鎌を引きずりながら壁のほうへと歩み寄った。
そして、おもむろに壁に向かって大鎌を振り下ろす。
瞬間、ゴソッ――と、壁が抉れた。
それこそ3メートル四方くらいの空間がゴッソリと消失した。
な、なんだコレは……!?
「ヒャッホー! やった! やりました! これで君が無事にダンジョンマスターとして認可されていることが証明されました!」
デス子が大喜びで俺の体の周りをぐるぐると飛び回っている。
やべえ、マジで何がなんだか分からんぞ。
誰かこの状況を俺に説明してくれる親切な人はいないのか。
「ああ、いやいや、ゴメンよォ。まずはどうしても先にこの通過儀礼を済ませたくてねェ! ちゃんと説明するよ!」
飛び回るのをやめたデス子が俺の前にフワリと舞い降りながら言った。
そういえば飛び回っていたときにチラッと見えたが、パンツは意外にもピンクの縞模様だった。
この際限のないテンションの高さといい、見た目は大人っぽいけど、中身は意外と幼かったりするのかな……。
「こ、コラッ! なんてことを言うだい! 下着の趣味は人それぞれだよ! 失礼しちゃうなァ!」
まあ、確かにそれはそうだ。すまんすまん。
「……っていうか、さりげなくパンツ見られたってこと!? こ、このエッチ! スケベ!」
分かった、分かった。俺が悪かったから話を先に進めてくれ。
「むう、まあいいとしよう。実はこのほど神魔戦争がはじまるってェことで、魔将軍さまからダンジョンマスターの募集があったのだよ!」
おお、のっけから意味がわからん。
「まあ、聞きたまえよ! とにかくダンジョンマスターの募集があったので喜び勇んで応募したのだけど、実体のない死神では適任でないと言われてしまってねェ……」
そうなのか? まあ、実体がないと不便そうなことはなんとなく分かるが……。
「それでもなんとかダンマスになりたかったわたしは、魔将軍さまに直談判したわけよ! そしたら、使徒を作って実務作業を任せる形なら可能だとお達しいただいたのさァ!」
はーん……? それで、俺が使徒にされたと?
「そのとおり! たまたますぐにわたし好みのイケメンな死体が見つかって良かったぜェ!」
そいつは良かったですね。
どうやら俺のほうはかなりの貧乏くじを引かされたようだが……。
いや、死してなおこうして存在を保っていられているのだから、むしろラッキーなのか?
まあ、この際だから流れに身を任せるか。
「さあ、さあ! とにかく今の君は魔王さまの加護を受けたダンジョンマスターなわけだよ! つまり、親方! そして、わたしは現場監督、いわゆる施工管理者というやつだねェ! セコカンだよ、セコカン! ブラックな響きが死神のわたしに相応しいとは思わないかい!?」
知らん知らん。
そもそも俺は騎士だったころの記憶すらないんだぞ。
「そうだったねェ! まあ、そんなことは些末な問題だよ! さあ、立派なダンジョンを作って勇者を退治してガッポガッポとお金を稼ごうじゃないか!」
よく分からんが、俗物っぽい死神だな。
まあ、何したら良いかも分からんし、ひとまずは言われたとおりにダンジョン作りとやらをするか。
そんなわけで、右も左も分からぬまま、あまりにも唐突にダンジョンマスターとしての新たな俺の生がはじまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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