第4話 新たなスキル
勇者に剣を向けた俺は、徐々に間合いを詰める。
「ここに法はない。さっきお前が言ったことだろう。それとも12のガキに尻餅をつかされたと吹聴して周る気か?」
勇者は凄まじい剣幕でこちらを睨みつけた。
「二度とこの街に手を出すな。簡単なことだろう。」
「……モブはモブらしく、勇者に従っていれば良いものを。勇者の俺がお前を突き出せば、俺の証言によりお前は死罪だ!」
モブはモブらしく…なかなか的を射た言葉だ。
確かにこいつはこの世界の主人公かもしれない。しかし、俺にとっての主人公ではない。
モブの俺がここまで目立ってしまえば、確かに死に近づくかもしれない。
たとえそうだとしても、こんな奴が主人公の世界で、コイツのためのモブ人生を送るなんてごめんだ。
俺は笑って勇者に答える。
「モブにも主人公を選ぶ権利くらいはある」
「っ!貴様ぁ…」
「そこまでだ!」
表通りの方から青年の声が聞こえた。
「…誰だ貴様は。」
勇者が怪訝そうな顔を向ける。
身分の高そうな格好をした青年が裏路地に向かって歩いてくる。スラム街のゴミやホームレスばかりの路地で、青年はひどく浮いてみえた。
「俺はこの国の第三王子、レヴィン・マイヤーだ。通報を受けてきた。証言があるため君がこの子を死罪にすることはできない。」
「は?第三王子?…あぁ、王に会った時に端っこにいたやつか。思い出した」
勇者は酷く馬鹿にしたように笑った。
「王に信頼されている俺を第三王子ごときが咎める、なんてことはできない。せいぜいこいつの減刑を嘆願するくらいだろう」
「…わかっているならここを立ち去れ。俺にもお前の適当な証言を却下するくらいの権力はある。」
勇者と、第三王子レヴィンは数秒睨み合い、その後に勇者がまた嘲笑を浮かべ後ろを向いた。
「第三王子は武力しか誇れるものがなかったのに、伝説の剣を抜くこともできなかったから勇者である俺を妬んでいるらしい。」
取り巻きの女達にそう話しかけると、長らく固まっていた女達もまたヘラヘラと笑い始めた。
勇者が第三王子を一瞥する。完全にこちらへの興味は無くなったようだ。
「せいぜいまた鍛錬に励むと良い」
捨て台詞を吐き、勇者は去っていった。
レヴィンは勇者のいなくなった方を何秒か睨んでいたが、彼が見えなくなると、ふっと我に返ったようにこちらを向いて、深々と頭を下げた。
「皆様、勇者の蛮行、謹んでお詫び申し上げる。壊したものについては、私が弁償しよう。」
そういうと、ポカンとしている民たちを横目に、倒れたものを片付け始めた。
「…!い、いえ…。ありがとうございます。」
「あなた様のおかげで助かりました。」
パン屋のおばさんや、赤ん坊を抱いた母が慌てて礼を言う。
「リヒト!あんたも助けてくれたのは嬉しいけど、危ないことはやめて!」
「そうよ!大怪我するところだったじゃない」
母代わりのような街の人々に次々と叱られ、きまりが悪くなって後ろを向くと、レヴィンと目が合った。
「…少年、自分の街を守る勇敢な行動を讃えよう。見事な身のこなし方だった。」
…今更性別を訂正する気にはなれない。
そんなことよりも、勇者に見えた、光のような「主人公」のオーラがレヴィンにも見えたことに俺は驚いた。
その時、俺のステータスに、スキル「モブ」が追加されたことに気づくのは、もう少し経ってからである。
【スキル】「モブ」レベル1
自身が認めた対象を「主人公」状態にし、筋力、体力、運を含む全てのステータスに、少量のプラス補正を付与する。
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