第5話 もう一人の主人公

こちらに歩み寄ってくるレヴィンを俺はじろじろと見つめた。


第三王子、レヴィン。リヒトの記憶にはなかった。まあ、リヒトがこの街の外のことをほとんど知らないだけで、王子というからには有名人なのだろう。


彼は案外若く、少年のように見える。言動こそ大人びているが、せいぜい16歳くらいだろう。


立派な装備が不釣り合いな童顔に、短めに整えられた茶髪、そして正義感に溢れた瞳は、彼の高い身分を感じさせる。


…そして、何より気になるのは、勇者にあったはずのオーラが彼にも見えることだ。


光のもやは、勇者の物と比べると幾分か薄く、弱々しかったが、前世で主人公だった彼にもあった、「主人公の証」に間違いないだろう。


主人公が2人…そういうこともあるのか?


「…ええと、君は…」


…完全に目の前のレヴィンのことを無視していた。

レヴィンは不躾に自分を見回す俺に戸惑いを隠せない様子だ。


「…助けていただき、ありがとうございます」


彼が本物の主人公ならばいいな、と考える。勇者よりオーラは薄いが、レヴィンには前の世界の主人公のような正義感を感じたのだ。


こいつが主人公なら媚を売ってやってもいいぞ、と微笑んでいると、レヴィンの姿が急に視界から消えた。


「!?…あっ…」


完全に忘れていたが俺の前には先程勇者を転ばせた油が引かれていたのだった。


お前も転ぶのかよ…呆れながら手を差し伸べようとすると焦ったレヴィンに肘を掴まれた。


俺の細腕が重装の男の重みに耐えられるはずもなく、すぐに下方に体ごと引き摺り込まれる。


「うわっ…ちょっ…」


レヴィンに覆い被さるように倒れる。

すぐに立ちあがろうとするが、油で滑って失敗した。


「…すみません」


レヴィンに謝ると、なぜか彼は真っ赤な顔でこちらを見つめていた。


「おっ…女!?というか胸っ…」


「…!?」


顔が一気に熱くなる。


「おい…!」


レヴィンを睨みつけると、彼の鼻からポタリと赤いものが落ちた。


前言撤回する。こんなロリコンが、主人公なわけがない!

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