第4話 思わぬ再会
「……突然であるのは分かっている。だが、頼む」
まさかの出来事に呆然とする僕たちの様子に、断られるとでも思ったのかジークさんはそう僕たちへと頼み込む。
だが、そのジークさんの心配は杞憂でしかなかった。
「いえ、大丈夫です!こちらからお願いしたいくらいでしたから」
次の瞬間僕は、ジークさんに対しその言葉と共に笑ってみせる。
先程はまさかジークさんから、フェニックスの討伐に誘われるとは思わず、一瞬硬直してしまった。
だが、驚いただけでジークさんの頼みに反発を覚えたわけでは無かった。
それどころか、その申し出は今の僕たちにとって願ってもいないものだった。
正直なところ、僕とナルセーナではフェニックスとの相性がかなり悪い。
……何せフェニックスは、遠距離の攻撃を主とする上に、炎の鎧という前衛の冒険者に対しては悪夢のような性質を有しているのだから。
短剣や拳という超近距離で戦う僕とナルセーナには、やりづらい相手だ。
「私とお兄さんは、一か八かの勝負を挑もうかと考えていたところなで、ジークさんのような方が入ってくれるのは、本当にありがたいです!」
だからこそナルセーナのいう通り、ジークさん程の実力者が入ってくれるなら、これほど心強いことはなかった。
ジークさんも前衛の人間ではあるが、背負っている大剣を見る限り、リーチが長い。
ジークさんを攻撃の主とし、フェニックスと戦えばかなり勝率が上がる。
そう希望を抱き、僕は笑みを浮かべる。
「そうか、君達もあのフェニックスがどれだけ危険か気づいて。……いや、あのヒュドラを倒した君達が危険性に気づかない訳が無かったな」
その僕の笑みを見たジークさんはその言葉と共に笑みを浮かべる。
そして、その言葉にジークさんが自分達と同じ懸念を抱いていることに僕は気づくこととなった。
「もしかしてジークさんも気づいていたんですか……」
恐る恐るといった様子でそう尋ねた僕はジークさんは無言でうなずく。
それは、ジークさんが僕達と同じ懸念を抱いているという何よりの証拠だった。
僕とナルセーナがフェニックスに対して抱いていた懸念、それはフェニックスが変異する可能性だった。
超高難易度魔獣が変異するには、普通であればかなりの時間がかかり、傷を追い魔力を吸収しやすくなった状態でも数ヵ月はかかる。
そう考えれば、未だ出現して数日程度のフェニックスが変異するまでには期間がある。
……だが、1ヶ月未満で変異したヒュドラという例外を知っている僕は安心することなど出来るわけもなかった。
もしかしたら、あのヒュドラが例外なだけでかもしれないが、だからといってフェニックスを放置出来るわけがなかった。
そのもしもがおきて変異したフェニックスが地上に現れたとき、どれだけの被害をもたらすか分からないのだ。
僕とナルセーナは、変異したヒュドラと戦ったからこそその危険性を知っている。
……ヒュドラに勝てたのは奇跡が起きたからにすぎず、その奇跡は普通ならばもう二度と起きない類いのものであることを。
だかこそ僕とナルセーナは不利であることを承知に、それでもフェニックスと戦うことえお決心したのだ。
どれだけフェニックスが脅威でも、変異する前に討伐しなければどうしようもなくなるのだから。
そうして決心を決めていたからこそ、ジークさんとの共闘が決まったことに僕は想像以上の心強さを感じていた。
そのことを、僕の雰囲気から察したのかジークさんも笑みを浮かべる。
「……すこし、言っておきたいことがある」
しかし、次の瞬間ジークさんは曇った表情で口を開いた。
何か伝えづらいことを言おうとするように。
「実はおれのパーティーの魔法使いの調子が良くなくてだな、動けるのは俺と……」
「ジークさん!ようやく見つけましたよ」
……だが、ジークさんの言葉は途中で響いてきた少女のものらしき声に中断されることになった。
その声に僕は一瞬、呆気に取られることになる。
聞き覚えがあることに気づいて、声の方へと目を向ける。
「……え?」
……そして、どの場にたっていた元稲妻の剣の魔法使い、アーミアの姿に僕は驚愕の声を上げていた。
◇◆◇
「私は大丈夫だと言ったじゃないですか!フェニックスの討伐には私も参加させていただきます!」
ジークさんに対し、そう声を張り上げるアーミアは、僕達の存在に全く気づいていなかった。
「魔法使いが居なかったら、フェニックス討伐の難易度がどれだけ高くなると思っているんですか!」
ジークさんに対し、感情的に叫んでいるアーミアは周囲の状況が全く理解できていないらしい。
だが、そんなアーミアの態度に僕が不快感を覚えることはなかった。
……そんなことが些事にしか思えないような動揺を、僕はアーミアの様子に覚えていたのだから。
感情的にジークさんへと言葉を重ねるアーミア。
彼女は、自分の記憶にあるものから変わり果てた姿となっていた。
稲妻の剣にいたところのアーミアは、かなり身なりに気を遣っていた。
服もかなりの種類を有し、化粧だってつけていた。
その時はまだ子供と言えるアーミアが、そこまですることに僕は違和感を感じていたのを覚えている。
だが僕は、今の状態のアーミアに対して、稲妻の剣の時に感じていたものなど比にならない違和感を覚えていた。
現在アーミアは、髪はぼさぼさ、身なりは皺だらけの安い服という、およそ以前からは考えられない格好をしていた。
……さらに、僕が一番衝撃を受けたのは、アーミアのその目だった。
アーミアの目は、ジークさんへと感情的に食ってかかりながらも、ずっと空虚なままだった。
感情的な態度でいるにも関わらず、別の場所にあるかのように冷ややかな目。
その行動と感情の別離は、アーミアに対してどこかちぐはぐなイメージを抱くのに十分なものだった。
「っ!」
そんなアーミアの状態に対し、無関心でいることなど僕には出来なかった。
正直僕はアーミアに対してあまり良い感情は抱いていない。
アーミアは、マルグルス達に比べれば、僕に対する態度はかなりマシだったかもしれない。
だがそれでも、アーミアのマルグルス達に対する盲目的な態度に、僕は嫌悪感を覚えていた。
決して嫌いだとは言わない。
だが、僕はアーミアに対して苦手意識を感じざるを得なかった。
……だが、そんな僕でさえ今のアーミアの状態に対しては、痛々しさを感じずにはいられなかった。
何故アーミアが今の状態になったのか、大体の予想がついてしまうからこそ、尚更。
元一流稲妻の剣の末路、それは今や迷宮都市中に知れ渡っている。
稲妻の剣が、パーティーメンバーを売り払おうとし、鉱山奴隷となったことも全て。
そして、それだけの情報があれば、大体の事情を僕は理解することができた。
おそらく、マルグルス達はアーミアを売り払おうとしていたのだろう。
そのことを理解して、僕は思わず顔を歪める。
……稲妻の剣に対する興味など、僕には一切無かったが、アーミアはあまりにも悲惨すぎた。
「いくらジークさんが強くても…………え?」
そして、そんな僕にナルセーナが気づいたのは、次の瞬間のことだった。
どこか困ったような表情を浮かべるジークさんに対し、さらに言い募ろうとしていたアーミアは、その言葉の途中でようやく僕達の存在に気づいたのだ。
その瞬間、アーミアは僕を見つめて硬直した。
「………え?」
そのアーミアの想像もしなかった反応に、僕は間抜けな声を漏らしてしまう。
「─────っ!」
……その僕の声に、我に帰ったアーミアの顔からは血の気が引き、蒼白となる。
その目には、隠すことのできない動揺が浮かんでいた。
「……邪魔をしてしまって、申し訳ありませんでした」
次の瞬間、アーミアはその言葉を最後にこの場から身を翻し、走り出した。
アーミアが逃げ去る後ろ姿を呆然と見つめる僕は、何が起きたのか全く理解できていなかった。
「……何が」
そして次の瞬間、僕が呆然と呟いた言葉に、答えが返ってくることはなかった……
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