幕間 稲妻の剣 Ⅲ
「アーミア、一体どこに行って………っ!」
混乱するリーダー達を連れ、私が向かったのは冒険者の中でも初心者が向かう場所にある、武具店だった。
そして、私が連れてきた場所がどこかを理解した瞬間、リーダー達の顔には隠しきれない屈辱の色が広がる。
「ふざけるな!何で俺たちが、こんな場所に……」
次の瞬間、リーダーは感情を露わにして私に向かって怒鳴る。
サーベリアさんも、リーダーと同じような表情を浮かべている。
初級者用の武具店を扱う、それがリーダー達にはなによりの屈辱だったらしい。
「私達は、稲妻の剣はもう一流パーティーでは無いんですよ」
「なっ!」
「っ!」
……けれども次の瞬間、私が発した言葉にリーダー達は押し黙った。
それは、誰かが指摘しなければならない現実だった。
でも、そう分かりながらも私は、リーダー達が浮かべる表情に罪悪感を覚える。
「……いえ、私達は一流でないどころかその辺の冒険者よりも貧しいと言わざるを得ません。今はプライドなどで武具屋を選り好みしている場合ではないんです」
けれども、その罪悪感を無視して私は言葉を重ねる。
財産の殆どを全て没収された私達は下手すれば初級冒険者にすら、負ける程度の資産しか有していない。
その状況は現実逃避したところで変わるものではないのだ。
……ただのプライドのため、ここで立ち止まってしまえば、私達は変わることが出来ないのだから。
「でも、私達はまだ終わってなんかいない」
次の瞬間、その言葉とともに私は腕をリーダー達の方へと突き出した。
「………は?」
「何で……」
私の突然の行動に対し、一瞬リーダー達は怪訝そうな表情を浮かべる。
けれども、私の手に握られていた何かを見た瞬間、今まで浮かべていたその表情を驚愕へと変えた。
私の手に握られたもの、それは初級者の防具を買うには充分な貨幣だった。
本来ならば、私がこんな貨幣を持っていられるわけがなかった。
何せ全ての財産を取られたわけではないが、防具を買えるほどの金額など私にはない。
それに、今の稲妻の剣に金を貸そうとする人間だっていない。
それを知っているからこそ、リーダー達は驚愕を隠せなくて。
「実はこのお金、ライラさん達から貰ったんです。パーティーに来ないか、て誘われた時に」
「………………え、」
そんなリーダー達へと、私はそう告げた。
その私の言葉にリーダーとサーベリアさんの顔には絶望が浮かぶ。
このお金で、自分はパーティーを抜けたいと、私が言うとでも思ったのか。
けれども、そんなリーダー達に私は笑顔を浮かべ、首を横に振った。
「でも、断っちゃいました」
そう、私はライラさんのパーティーに入ることはなかった。
別にライラさんのパーティーが弱かったとか、そんな理由ではない。
それどころか、ライラさんのパーティーは迷宮都市どころか、王都でも有数の実力を有しているだろう。
それに、私はライラさんに対して尊敬していたし、親しみも感じていた。
でも、私が初めに憧れたのはリーダー達だったのだ。
初めて稲妻の剣でパーティーに入り、迷宮を攻略した時の光景は私の頭に残っている。
その時リーダーとサーベリアさんの戦い方に私は魅せられたのだ。
今考えれば、それはただ私が弱かっただけだろう。
決してリーダー達は、規格外の実力を持っているわけではないのだから。
─── それでも私は、仲間であるリーダー達を捨てるつもりなかった。
「私は、リーダー達と一緒にこれからも迷宮に潜るつもりでしたから」
私はその言葉と共にリーダー達へと笑う。
パーティー参加を断った相手からお金を借りる、その行為は決して褒められるものではないだろう。
それは酷く情けないことであるくらい私は理解していた。
それでも、リーダー達の為ならと私は恥を呑んでライラさんに頼み込んだ。
「でも、これがあれば私達はやり直すことができる」
私の言葉に、リーダー達の視線は私の手にする貨幣へと集中する。
「確かに私達はやってはいけないことをしてしまったかもしれない。でも、まだ償うこともやり直すこともできま」
そこで言葉を切って、私は笑った。
「このお金で装備を整えたところで、決してすぐに沢山の稼ぎを得ることはできないと思います。でも、少しづつでいいからラウストさんにお金を返していきましょう。今まで私達が不当に奪ってきた分を」
「っ!」
その私の言葉に、リーダー達は俯いて肩を震わせる。
それが、まるで今まで自分がしてきたことを後悔しているように。
「ライラさんにも、もう少し貯蓄に余裕が溜まってくれば、お金を返して謝礼をしましょう。この状況で、お金を貸してくれたことに対する謝礼を」
そう言葉を重ねる私の頭には、これからの想像が浮かんでいた。
このお金で買える装備では、思うように稼ぐことができなきないかもしれない。
それでも、日々迷惑をかけた人に謝って、助けてくれた人に感謝して、そして必死に頑張っていれば最後にはまた一流パーティーになれるかもしれない。
そしてそうなれば、少しは私も自分をましに評価出来るようになるかもしれない。
そう考えて私は笑う。
「…………え?」
………しかし次の瞬間、頭を上げたリーダー達の顔に浮かんでいた表情に、私は言葉を失うことになった。
リーダー達が浮かべていたのは、隠そうともしない怒気だった。
それに私は一瞬思考が止まって。
「ふざけるな!俺たちは被害者だろうがっ!」
「っ!」
……それは致命的な隙だった。
次の瞬間、頭部に衝撃を受けて私は地面に倒れこむ。
ぬらぬらと顔を血が伝っていき、意識がどんどん薄くなるのが分かる。
「俺たちは、今も一流冒険者だ!」
……そしてヒステリックなリーダーの叫びを最後に、私の意識は途切れた。
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