第2話 近接戦闘のできる治癒師
まるで夢のような奇跡により、かなりの実力を有するパーティーメンバーを得た僕は早速迷宮に潜ることにした。
「わあ……こんな抜け道があったなんて……お兄さんよくこんなの知ってましたね」
「まあ、僕に冒険者のイロハを教えてくれた人が凄い人達でね。その人に教えてもらったんだ」
そして現在僕達は迷宮の上層の中でも、最も下層に近い場所へとやってきていた。
通常はじめてのパーティー活動ならばもっと上の層から魔獣と戦うべきなんだろう。
何せここまで来れば、下層の魔獣ほどではないが、上層とは比にならない魔獣が現れることになるのだ。
けれども、欠陥治癒師である僕がとんでもない美少女を連れていることで、凄い注目を浴びることになってしまい、人の少ないこの層に僕達は来なければならなかった。
それに、僕にはこの層にいる敵ほど厄介でないとナルセーナの実力は測れないだろうという確信があった。
僕の中層に行こうという誘いに対しても全く躊躇せずに頷いたことを見る限り、ナルセーナ自身もこの層ならば問題なく立ち回れる自信があるのだろう。
そう判断した僕はナルセーナへと口を開く。
「じゃあ、危ないと思ったら僕も加勢するから、まずは一人で魔物と戦っている姿を見せてもらっていいかい?」
「うん、分かった!ちゃんと見ててね!」
その僕の言葉に大きく頷いたナルセーナは自信に満ちた笑みを浮かべていた。
◇◆◇
「はぁぁあ!」
「グギ、グガガ……」
「よし!これで5体目!」
それから始まったナルセーナの戦闘、それは本当に凄まじいものだった。
中層の悪魔、そう恐れられるオークをナルセーナは簡単に撃退していたのだから。
魔獣は人間よりも力が強く生命力に溢れている。
だが、人間はスキルを持っているので魔獣に対抗できる、と言われる。
けれども、人型の魔獣であるオークは人間よりも遥かに頑丈な身体を有しながらスキルを使うことができ、だからこそ下層の魔獣にも劣らない非常に厄介な魔獣だと言われている。
それがオークが中層の悪魔といわれる原因で。
……けれども、その悪魔をいとも簡単にナルセーナは倒していたのだ。
「お兄さん、このオーク達の魔石回収しておくね!肉は嵩張るし今回は二人だけしかいないから諦めるね」
「あ、ああ。僕も解体を手伝うよ」
何せ、五体連続のオークとの連戦の後すぐに解体に移れるほど余裕があるのだ。
そのナルセーナの姿をを見て僕は自分がナルセーナを過小評価していたことを悟る。
冒険者の扱えるスキルには大きく分けて二つの種類がある。
それは常に筋力や魔法を強化するスキルと、相手に攻撃するときなどに特殊効果を発する短期間に発生するスキルだ。
そしてナルセーナはそのどちらもの種類のスキルをも有していた。
2つのスキルを有する、それだけで冒険者としては才能があると言われる。
だがナルセーナはそれだけではなかった。
ナルセーナの2つのスキルはどちらも優秀なものだったのだ。
……それは僕なんて比にならない才能で、その才能を発揮していたナルセーナはとんでもなく強かった。
それに先程の動きを見る限り、ナルセーナの強さはスキルの強さだけではないのだろう。
いくら才能という基盤があったとはいえ、そのスキルをまだ若いナルセーナが使いこなすにはかなりの修練が必要だったはずだ。
だから僕はオークの解体を終えた後、とある決断を下すことにした。
「どう、凄いでしょ!お兄さん!私がお兄さんを守ってあげるから!」
僕に向かって褒めて欲しいと言わんばかりに駆け寄ってくるナルセーナ。
僕はそんなナルセーナに微笑んで、そして口を開いた。
「うん、君となら今すぐにでも下層に行っても大丈夫そうだ」
「うん!でしょでしょ………え?」
………けれども、その瞬間ナルセーナの顔色が大きく変わった。
◇◆◇
「……え?待って私とお兄さんだけで下層に行くの?」
「ああ」
「パーティーメンバーから追い出されたからって、やけになっちゃダメぇぇ!」
「えぇ!?」
今までどこか浮かれたような雰囲気を纏っていたナルセーナ。
しかし彼女は僕の下層に行くという宣言を聞いた瞬間、顔を真っ青にしながらヤケになるなという説得を始めた。
いや、僕はヤケになんかなってないんだけど。
というかそもそも、初対面のナルセーナが知るほど僕のパーティー追放は広まっていたのか……
……本当になんでナルセーナは僕なんかとパーティーを組んでくれたんだろう。
そんな疑問を抱きつつも、僕は決して自分の言葉がヤケでないことを証明するために口を開いた。
「いや、僕はかなり器用貧乏だから」
「器用貧乏だけじゃ下層になんかいけません!行くには沢山の職業を集めないといけないんだから!ほら、戦士とか罠を発見するための盗賊とか」
……だが、言葉が悪かったのかさらにナルセーナはヒートアップする。
そのナルセーナの態度に僕は言葉の選択を誤ったことを後悔しながら再度説得を試みようとする。
「いや、だから僕はタンクにもなれるし、罠も発見できる……」
「ギィァァァア!」
けれども、その僕の言葉は僕の背後にある壁から飛び出した何かの存在で遮られることになった。
「っ!お兄さんっ!」
ナルセーナの顔に焦燥が浮かび、そのナルセーナの存在で僕は壁から魔獣が現れたことを悟る。
おそらく、壁から現れたのはワームと呼ばれる魔獣だろう。
見た目は大きなミミズで、何時もは迷宮の壁や床に隠れていて、冒険者が戦闘後などでもっとも油断するタイミングで現れる。
その習性は厄介きわまりなく、オークと共に中層のなか冒険者に徹底的に嫌われる魔獸だ。
「はぁ……こっちは説得中だったんだけどな」
けれどもいくら魔物とはいえ、もう少し気を使って欲しかったと僕はワームに言っても意味のない思いを抱きながら腰に差していた短剣をワームに突きだし。
「ギィィッ!」
次の瞬間、突っ込んできたワームはその勢いのまま短剣に頭部までを貫かれ、断末魔と共に動かなくなった。
だが僕は動かなくなったワームに対しても未だ警戒心を解かず、すぐに死亡したかどうかを調べ始める。
魔獸の生命量は人間なら即死の傷でもつきることはないのだ。
特に僕のようなスキルのない攻撃の場合、よほど上手くやらなければ一撃で魔獣を倒すことなんて出来ない。
だが幸いにしてこのワームは即死だったらしく、僕はワームに対する警戒をとく。
「……え?お兄さん治癒師ですよね」
「え?」
そして、今まで呆然としていたナルセーナが口を開いたのはそのときだった。
そのナルセーナの言葉に僕は何を当然のことを、と聞き返そうとしてけれどもナルセーナの顔を見て、言葉に詰まってしまう。
何故なら、ナルセーナは僕に対して隠しきれない驚愕を向けていたのだから。
まあ、確かに近接戦闘をする治癒師は少ないから、それで驚いているのか?
しかし、その時僕はあることに気づいた。
そういえば、これは下層に行こうとナルセーナを説得することのできるチャンスなのではと。
「僕は近接戦闘も少しはできる治癒師だからね」
……けれどもその時、どや顔で決め台詞になるんだかならないんだか微妙な台詞を口にしていた僕は、ナルセーナの驚きの本当の意味を理解していなかった。
ーーー 近接関係のない後衛職の人間が魔獸を一撃で倒すことのその意味を。
「……あの、お兄さん。言いたいことは分かったけど、それあんまりカッコよくないよ」
「……うん、ごめん忘れて」
僕が過小評価していた自分の実力を理解するまでにはあとしばくの時間が必要だった……
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