第1話 ラウストという治癒師
「パーティー募集しています!」
マルグルスからパーティーを追い出された翌日、僕は冒険者ギルドにパーティー募集の張り紙と共に訪れていた。
昨日僕はパーティーの共同住まいを後にするとき、せめてもの餞別として装備をおいてきた。
……そしてその結果、今の僕はほとんど一文無しと言って間違いない状況になっていた。
共同住まいを後にして泊まった宿屋が想像以上に高かったのだ。
普段僕はクエストを終えたあとに狩りに出て肉を得て、後は痛みかけで安く譲ってもらった野菜と共に自炊をしている。
けれども昨日僕はクエストで帰りが遅くなった上に突然追い出され、いつものように自炊できずその結果馬鹿高いお金を払って夕食をとることになった。
そしてそんなこんなで今の僕はほとんどお金がないのだ……
こんなことなら装備を置いてくるんじゃなかったなんて後悔が僕の胸に浮かぶ。
何せあの装備は数年かけてためたお金でようやく買うことのできたものなのだから。
売ればあと数日はゆっくり追放について考える時間が出来たはずなのだから。
まあ、今からそんなことを思っても後の祭りでしかない。
とにかく今僕は今日も無事に宿屋に泊まるお金が必要だ。
このギルド周辺の冒険者には稼ぎ場所が複数あり、その中で中級者から上級者向けとされるのが、迷宮だ。
ほかには、初級の冒険者向けの弱い魔獣が出る草原地帯、そして上級者は迷宮外に稀に現れる強力な魔獣退治などが主な冒険者の稼ぎ場だったりする。
迷宮外に現れる魔獣は魔力の多く溜まる場所に現れるため人里に現れることはほとんどないのだが、人里に降りてくる可能性があり性急な討伐が要求されるのだ。
そして、昨日稲妻の剣が討伐に行っていたヒュドラは迷宮外の魔獣だったりする。
まあ、そんな超高難易度な魔獣を一人で倒す自信なんて僕にはないし、草原地帯は魔獣が弱いだけありその素材の値段はお察しだ。
だから僕は迷宮に仲間を集って潜ることを決心して……
「やっぱり誰も来ない……」
……だが誰一人として僕の言葉に反応しようとする人間はいなかった。
普通、こうやってパーティーを募集していれば一パーティーくらいは立ち止まるのが普通だ。
冒険者達は少しでもいきる可能性を増やすため、また名を上げる機会を増やすためや、死んだ仲間の代わりを得るため臨時でパーティーを増やすということがよくあるのだ。
けれどもその場合、当たり前だが明らかに弱いとわかっている人間をパーティーに入れることはない。
……そして僕が欠陥ありの治癒師であることは周囲にしれわたっているのだ。
だから僕のような役立たずにためにわざわざ足を止める人間などいない。
「……はぁ」
その状況に僕は大きくため息をもらした。
今の状況は正直理解していたことではあるが、だからといってなにも感じないなんてことはない。
それに精神的なダメージを除いたとしてもお金がないという残酷な現実から僕は逃げられないのだ。
確かに一人でも僕は迷宮の下層に行くことはできる。
だがその場合僕程度には命の危険がついて回り、ただ考える時間を得るためにお金を稼ごうとしているだけなのにハイリスクすぎる。
かといって上層では一体どれ程魔獸を狩らねばならないか考えたくもない。
「他の稼ぎ場に行くのには馬車を借りる金もないと……はぁ……」
そこまで考え、僕は深々とため息をついた。
もうこれは諦めて上層で狩をするしか……
と、そう僕が覚悟をしようとしたその瞬間のことだった。
突然、人が項垂れる僕の前に近寄って来て。
「お兄さん!私をパーティーに入れてくれませんか?」
「…………え?」
ーーー ひどく可愛い少女の声が、至近距離から僕の耳に入ってきたのだ。
僕はその声に誘われるように呆然と顔をあげる。
「だからお兄さん!聞こえてますか!」
「え?」
そして次の瞬間、目の前にたって僕を見つめていた可憐な少女の姿に僕は言葉を失うことになった……
◇◆◇
目の前にたっていた少女、彼女は常人離れした美しさを有していた。
艶のあるサファイアのショートカットに吸い込まれるような大きく青い目。
少女はまるで物語のお姫様と言われても信じてしまいそうな美しさを持っていた。
「え?何で僕のような《ヒール》しかつかえない治癒師のパーティーに……」
……けれども残念なことに今の僕にはその少女の美しさを冷静に観察できるほどの余裕はなかった。
僕は未だに呆然としたまま、胸のうちの疑問を口から出してしまう。
「へぇ……お兄さんてそんな治癒師だったんだ?」
「あっ……」
しかし次の瞬間、少女から発せられた言葉に僕は失言に気づく。
そういわれてみれば、少女が僕のことを知らない可能性もあったのか。
「まあ、そういうことだから。別の人と組んだ方が……」
けれども僕は自分のことをごまかすつもりはなかった。
そんなことをしても後々無理が来るだけなのだから。
だから僕は苦笑を浮かべながら少女にそう告げようとして。
「ううん。失礼なことを言ってごめんね。お兄さんとパーティーを組みたいって言うのは本気だから!」
「え?……え?」
その僕の言葉を中断して少女から告げられた言葉に僕は言葉を失うことになった。
目の前の少女、武道家の衣装に身を包んだ彼女は美しいだけではなく恐らくかなりの腕を持っている。
それも迷宮の下層でも活躍できるような。
そんな彼女が仲間になってくれる、そのことを僕は信じきることができ無かった。
「私の名前はナルセーナ。見ての通り武道家だよ!よろしくねお兄さん」
けれどもそんな僕の様子を気に止めることなく少女、ナルセーナは僕へとてを伸ばしてくる。
「あ、ああ。僕は治癒師ラウストだ。欠陥だらけな治癒師だけどよろしく」
そしてそのナルセーナの挨拶に僕も焦りながら挨拶を返して、ナルセーナの手をつかみ握手を交わす。
ナルセーナのてはすべすべとしたさわり心地のいい手で、その感触に僕はようやくこれが現実であることを理解すし、胸に歓喜が溢れ出す。
「……ようやく、会えた」
そしてその興奮のなか、少し顔が赤いように見えるナルセーナの口が動いていたことに僕は気づいたが、その言葉が僕の耳に届くことはなかった……
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