第28話 エルフ族の金庫⑩ ここじゃないどこかへ

 闇魔術で錬成された金庫の中身は――《闇》しか入っていなかった。

 


「っこ、これは」



 足元にあった魔法陣が闇に触れてしまう。


 木っ端微塵に魔方陣が割れたことで、足元が崩れて「ぅわア!」と真っ逆さまに落ちてしまった。

 


「ふふふ。全く、人間のくせに無茶をしおって」

「ぁりがとう」

「うむ」



 女神が抱き抱えて、地面に着地をしたところで「容易く開けられたとか、地味にショックなんだが?」とジョイが低い口調で吐き捨てる。


 オレの足が地面を踏み締めた。

 

 貴方がショックなんかどうでもいいんですよ。エッカの顔を見ることが出来ないじゃないか。

 

 

「ショータ鍵師、闇には気をつけよ」



 ブブルブがオレの傍に来て、金庫だったものに杖を差し向けた。

 

 

「もっと早く、闇のことを忠告してくださいよ!」



 しれっというブブルブにオレも言い返してしまった。


 口を閉ざしてブブルブは杖を振るうと、苔と芽が生えさせて完全に腐敗させたことが分かる。


 金庫を捕縛していた鎖からロロが手を離すと消えたのが見えた。


 そのことに驚いたが、彼もゆっくりと立ち上がったことで、オレも顔を見上げる首も痛くなる。


 首がジンジン、と痛くなって指先で擦っていると、あの二人が話し合いを始めた。



「ぅんンん! 座り疲れたァ!」

「お疲れ様。よく頑張ったな、報酬で美味いもん食わせてやるよ」

「やったァ!」

 


 にこやかな兄弟のやり取りだが「勝手に帰られると思うなよ」とブブルブが強い言葉で杖を差し向けた。


 今にも攻撃をしそうな構えだぞ。でも、ジョイの奴はお構いなしだ。



「ミッシェルさん、報酬を下さいよ」

 

「! そうだな」

 


 全てがすぐに終えたことで、ミッシェルが呆然自失になっていた。


 ジョイからの言葉に、ミッシェルが傍へ駆け寄る。


 ミッシェルの行為に、ブブルブの眉間に深いしわが寄り、長い耳も怒りで上下に動いているのが見えた。


 受け渡された布の袋。その膨らみの中身をジョイも確認をする。

 

 

「はい。毎度ありっしたぁ~~」

 


 胸ポケットの中に仕舞い込む様子を見て「生きて、この森から出て行けると思っているのか?」とブブルブが改めて聞く。


 怒りの表情を浮かべている彼に、無邪気なロロが長い身体を前に曲げて、上目遣いで聞き返した。なんてあざとい表情をするんだ。


「頭がお花畑のようだな」


 しかし、流石はブブルブ。エルフの森を統治する王の気持ちは揺るがないみたいだな。

 

「妖精王である俺とジョニイ。ダ・カポネ兄弟を黙らせられるだけの魔力があるのかな?」

「試してみるか?」

「まさか。ご冗談だろう?」


 ジョイが笑顔を浮かべる。どう逃げるかは知ったことじゃないが――



「オレが逃がすと思うのか」



「は?」


 オレの言葉に反応したが、それは遅いというものだよ。


 ジョイ、そして妖精王ロロ。貴方たちは駕籠の中の鳥だ。



 いや、蓑虫だな。



 ◆



「人間の鍵師っ! 貴様っ、ふざけるな!」

 

「ジョニイぃ~~助けてよぉう~~」



 逃げ足が速そうだったからな、オレは【束縛の神】に頼んで二人を糸でぐるぐる巻きにしてもらい、天井から吊るして貰った。


 もちろん、足から吊るしているから、頭は真っ逆さまで真っ赤だ。


 命乞いや反省なんかも言わないとは、根性の据わった奴なのか、それとも何か救援のツテがあるのか。

 

 

「師匠はなんでも出来るんですね。さすがですよ」

「! ァ、ああ。経験だよ。けいけん……」

「羨ましいなぁ、いいなぁ。わたしも、そうなりたかったですー」



 エッカの元気が嘘のようになくなる。そして、顔色も暗くなり足元しか見ていない。



「師匠のせいで、仕事も、……エルフの森にも居場所がなくなってしまったじゃ、ないですかぁ」



「まぁ、ある程度の責任は感じていますよ」



 どこからどこまでオレの罪になるのか。



「小娘が悪いのであって、ショータに非があるはずもないと私は思うがね」

「でも、……カップ=ヌゥダール!」

「なんだ、名前を覚えたのか。じゃあ、



 不敵にオレに睨んでほくそ笑むと、頬に口づけをされた。



「あっちで待っている。処理これからの準備をしようじゃないか」



 ふぉん、と彼女が帰った。どういう意味なのか、オレには理解が出来ない。



「父。あの女神、いいヤツじゃないか」

 

「ええ。原因が、彼女であったとしても、ここまで付き合うのは愛ですよ」



 子どもたちが言うが、なんの話しなのかが分からないぞ。


 

「エルフ族は神に願い乞いた結果。素晴らしい鍵を貰い、この地に導かれたのだ」



 ブブルブの鍵を貰ったという言葉にオレも、びっくりして「鍵をもらったんですか?」と聞き返してしまう。



「それで提案なのだが。儂に協力してはくれぬかな」

「……エッカさんのために、ですか」

「そうだな。どうだ?」



 彼女の心を折ったのはオレだ。


 そして、エルフの森に居られなくしたのも――オレに原因がある。



「んなのさぁーあとにして、私たちを解いてくんなぁ~~い?」


「助けてよぉ~~う! ジョニイ~~!」



 ダ・カポネ兄弟の叫びは無視だ。貴方たちは反省をしていて下さい。


 今は、それどころなんかじゃないからね。



「エッカさんは、……ここじゃないどこかに一人で行っても構いませんか」


「もう、仕方ないじゃないですか」


 彼女の透けて見える覚悟に「そうですね」とオレはブブルブを見据えた。


 オレの視線とかち合った瞳が、大きく見開かれる。



「異世界追放を執り行う!」



 耳を疑う言葉だった。

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