第27話 エルフ族の金庫⑨ 鍵穴の行方と最高の協力者

 洞窟の奥で鎖に捕縛された金庫の前に立った。


 オレとエッカの表情は真逆で、入れ替わり立ち代わりする。

 


「師匠のばか、師匠のバカ、師匠の――……腕前を魅せて下さいよね!」


「貴女から金庫を奪うんですから、当然でしょう」



 巨人の子どもくらいの大きさか。よくも、この洞窟に連れ込んだ上、捕縛をしたもんだ。


 流石、闇商売をやっている兄弟の手際の良さというべきか。


 

「妖精王ロロさん、まだ、捕縛の力は残ってますか?」


「まだ、平気だよ」

 


 険しい表情がオレに向かって笑みを浮かべた。鍵師の全能力を使って働けるんだからな。


 背中を預けても大丈夫な相手だという、絶対的な安心感に感謝しなきゃいけない。


 

「人間の鍵師。あンたならエルフの鍵師が見つけられなかった鍵穴は見つかるのかな」



 ロロの言葉に「見つけなきゃいけないんだよ」とオレは言い返した。

 


「こう見えて、……オレはエッカさんの師匠だからね」


 

 まずは移動式の金庫を見定めよう。異形の頭に手足と尻尾。そして、同体である金庫。大きさは巨人の子ども程度。


 構造はどうだ。核は、何から錬成されているんだ。寿命はどれくらいなんだ。


 制作者側からの情報提示が全くないから、何が何やらだな。本当に手探りでやらなきゃいけない。


 人間風情では不可能だ。だが、悪いんですけどね。オレは普通なんかじゃない。

 


 ここはエルフの森だ。湖畔の最果ての洞窟内部だとしても――精霊や自然物に溢れた、あの女神おんなが居る場所に最も近い。

 


「《カッ○○○ドルに命ず!》」

 


 彼女の召喚もしやすいだろう。確信はないが、オレは彼女の名前を呼んだ。


 すると、頭上から「毎回、毎回。都合のいいことだなぁ」と低い口調を漏らした、あの女神の声が聞こえる。


 大きく背伸びをしているのか、骨が鳴る音も聞こえた。


 

「まぁ。私を頼ってくれただけ嬉しいがな」



 彼女の尻が肩の上、小鳥のように乗った感触が分かる。

 


「さて、金庫の鍵穴がどこだという話しだったかな」

「はい。教えてもらえればなと呼びました」

「瞳を大きく見開いて金庫を見据えるのだ」



 彼女の言葉に「見ても、分からないから呼んだんですよ」とオレの言葉も詰まってしまう。


「所詮はオレも、人間風情なんですからね」

「ああ、分かっているよ」

「貴女は金庫の存在自体、許せますか。貴女という存在を凌駕した、人間が身勝手に錬成した作品ですよ」


 オレの態度に何を想ったのか彼女が横に浮かび立つ。


 片手を宙に置くと、束縛された金庫の周り全体に、魔法陣が何重に浮かび上がった。



「まさか! 許せるはずがなかろう!」



 怒り口調で吐き捨てて言う。まぁ、面白くないだろうってのは分かるよ。



「人間風情がっ、神である私に盾つく真似など!」

 


 怒りの表情と言葉を吐く彼女は放っておいた。


 オレの目に金庫で見つけたかったものが浮かび上がる。


 言葉が誰かに教える訳じゃないのに、自分の声とは思えないくらいに――大きな言葉で飛び出る始末だ。

 


「蝋燭の頭にっ、鍵穴!」

 

 

 頭の蝋燭に鍵穴が見えたこともあって勢いよく走れば、オレの足の下に魔法陣があって運んでくれた。


 彼女のおかげだな。そこばかりは感謝しようじゃないか。

 

 おかげで、オレの身体が蝋燭に辿り着くことが出来て「鍵穴だ」とオレもほぅ、とため息を漏らす。


 オレはジョイに「鍵穴に入れたら、金庫は止まりますか!」と確認した。


 オレにだって、何かとんでもないものが出て来るんじゃないのかって、心配もあるんだよ。

 


「ああ。そりゃあ、そうだろうな」



 オレはジョイにしつこいように、顔を見て確認して言葉を吐いた。

 

 

「嘘吐いたら、ただじゃおかないですからね!」


「いいから、とっとと開けちゃいなよ。人間の鍵師さんよぉう」


 売り言葉に買い言葉。ジョイがオレへの挑発に「元々は、貴方たちの失敗でしょうが!」と苛立ちに言葉も震えた。


 もういい、一刻も早く開けて終わらせようじゃないか!

 


「《開っっっっ錠!》」



 鍵を回した瞬間――周りの空気が一変した。

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