第20話 エルフ族の金庫② 訳あり天然石状の金庫の中身の正体

 嫌な予感が当たってしまう。


「あれ? あれれ~~」


 ガチャガチャ、とエッカが首を傾げて、まずは鍵穴どこなの? と始まって、鍵穴を見つけてからは鍵を差し込み――


(魔法で変えられる系統の鍵なら、鍵穴に差し込めば、すぐに開錠が出来そうなんだがなぁ)


 天然石状の金庫と格闘をし始めた。


 その様子を遠巻きに、来客用で出された飲み物の美味しさに舌鼓をしながら、オレは見守っていた。


「あの鍵師の嬢ちゃん、本当に、……大丈夫なのかね?」

「あのぅ、すいませんが、ちょっと、お話しの方をいいでしょうか?」

「はぁ? ああ、なんだい」


 オレはラドルに金庫の中身を確認をする。一体、何に使っていた金庫なのかと、気になったからだ。


(天然石状の金庫だ。中身はとても大事なものだろう)


 ラドルも「何よ、人間の鍵師」とオレに聞き返した。


 オレとのやり取りをメアリー・アンだけが見ている。タイラーの視線の先は、エッカと金庫の格闘場面に釘付けだ。


 椅子に腰かける身体も、そわそわと尻尾も宙をうろついて足を貧乏ゆすりをさせている始末。今にもエッカの格闘中に割り込んで、鍵を開けに行きそうだぞ。

 

「金庫の中身は、何なんですか?」

 

「何って、……貴重品よ。売り上げのお金も入ってるわよ」


 貴重品に、そして、売り上げ金。


「ひょっとして。金庫には遺骨が?」

「よくわかったわね。そうよ、やり方は教えられないけどね、遺骨と魂を入れているのよ」

「そりゃあ、美しいはずだ」


 天然石状の金庫。正体は先祖や家族の骨と魂から錬成されたもの。


「金庫の守護神は――手ごわいだろうな」


 ガリ、ギリギリとエッカの方向から慣らされる金庫からの音に、正体を知ってしまったオレは一気に血の気が引いたよ。


 金庫にも削られた粉末がキラキラと舞散っていくのが分かる。


「エッカさん!」


 立ち上がって行こうとするオレより先に「父、僕が行くよ」とタイラーが立ち上がった。


 大きく壁である息子を見上げて「成長を見せて貰おうじゃないか」と椅子に座り直して、背中を押してやる。


 息子の鍵師の腕前を見るのは久しぶりだな。


「あっれぇーンんん! っかしなぁー」


「エッカ。選手交代だ」


 タイラーはエッカの背中を手で触れた。


「はぁ? これはわたしの依頼なんですけどぉー」

「師匠の兄弟子の腕を見てやがれ」

「はぁ? ……じゃあ、王族直属の鍵師のわたしが見ていてあげるわよ!」


 エッカがタイラーの後ろに下がって、腕を組んだ。


 ドヤ顔から見て分かる内心は、わたしが開けられないものを貴方なんかが、簡単に開けられるはずないじゃない、と表情からも駄々洩れで聞いてもいないのに、分かってしまうな。


「金庫の~金庫の~かーみーさーまぁ~」とライナーが歌い始めて、両手の指の隙間から鍵が爪のように突き立てられている。


 天然石状の金庫を前にきちんとお辞儀をして、守護神へのご機嫌も伺う礼儀は、あっぱれだよ! いいじゃないか!


「何してるのよぉうー意味、わかんないんなぁー」


 エッカが指先で髪を弄って軽口を叩いて、タイラーを煽るように吐き捨てる。


 オレは聞かなかったことにしたが、ブブルブが立ち上がって、袖口から杖を取り出すと、彼女に向けた。すると、床の木が駕籠のように覆う。


 さらに手を引くと、ゴロンとオレたちの方に転がって向かって来た。


 中にいるエッカの身体は回っていない。不機嫌顔でタイラーを睨んでいて「とっとと、開けなさいよっ」と吐き捨て、険しい表情になっていく。


「言われなくたって。僕も鍵師だ。完遂させるさ」


 タイラーの挑発的な視線の先はメアリー・アンだ。


「馬鹿兄貴の分際でっ」


 娘が兄に煽られて着火した。場外乱闘する場所は弁えろよ、お前たち。

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