第12話 蛮行の報い
【カッコー】のギャング集団の頭を助けること。犯人を引き渡すこと。以上、この二点の条件で――守護神は金庫を開けてくれた。
「《トムを助けて、犯人を渡すということを金庫の守護神に、約束したんです》」
オレの言葉に女神は押し黙る。
何か言ってくれたっていいんじゃないか。異世界で名前を知らない絶対的な存在にして、名前を聞けば跪いて触れ伏すほどの存在じゃないですか。
肩から降り立って横に膝をついた。それから、トムを見据えてオレの耳に女神が顔を寄せ、息を吹きかけて囁いた。
『その男に救う価値があるというのか? あるというのなら――』
「《どんな悪党でも、殺されていいはずがないじゃないですかっ!》」
沸きだった頭が一気に冷えて、全身に鳥肌が立ってしまう。でも、今――こいつは何を言った?
「《エルフの魔法を、使えですか》」
『自然魔法というのは命の源だ。生命力に溢れた魔法の中にいる、今が、最大のチャンスだ! さぁ、唱えろ! 私の名前をっ! 愛しい人っ♡』
ちゅ、っとオレの頬に口づけをして女神は消えた。一か八か。やるしかない。
「《カッ○○○ドルの名において命ず!》」
オレは何もない目の前で、鍵を差し向けて大きく回した。
「え! 何をしているのよぉうう!」
エッカが状況を飲み込めずに、目を瞬きさせ見つめている。エッカが口にしようとしたときだ。
『生命よ、繋がれ』
か細い声が祈りを治癒の神が唱えて、トムを癒しているのが分かった。
あまりに膨大な力が放出されていたのか、防御魔法が内部の神業に耐え切れず破裂をしてしまう。
「う、お!」
「っきゃ!」
中にいたオレたち、倉庫内のミジルとギャング集団たちも風圧によって、身体が吹っ飛んでしまう。
床に大きく頭をぶつけたのか視界が大きく揺らいだが、トムはどうなったのかと、上半身を持ち上げて辺りを見渡した。
全員が床に倒れ込んでいて、至る場所から呻き声を上げているじゃないか。ああ、エッカも同じだ。
オレは確認のために勢いよく立ち上がったこともあって、ぐわぁんと眩暈が起こってしまう。
耳鳴りもしたが、そんなことよりも、目的の人物はどこにいるのかと見渡す。
(とむ、はどうなった、んだ?)
遺骸が在った場所には見つからない。ダメだったのかと俯いたオレの耳に、低い口調が倉庫に響き渡った。
「ミジルちゃあぁアんンん」
倉庫内の空気が変わる。若手たちの表情は喜びの色を浮かべ、泣いて抱き合うが、真逆に表情が強張る人物もいた。
「僕を殺すなんて、どういうつもりだってんだよぉう」
「ぉ、おやじぃ」
襟首を引っ張って金庫の中からひっくり返った男。その彼が、笑みを浮かべて金庫の上に立っていた。倉庫内の全視線がトムに向けられる。
細身で低い身長、頬のこけた小さな顔にかかった長い白髪を、指先で頭に掻きあげる仕種をする。
二重で勝ち気なオレンジ色の目が真っ直ぐ、ミジルを見てほくそ笑み、レンズがひび割れた眼鏡を、手品のように取り出してかけた。
彼が身動きする度に、ミジルの身体が小刻みに震えて、顔面蒼白で信じられない、という表情になっている。
「今まで、世話をしてやったってのによぉう、あんまりなんじゃねぇのかなぁ?」
「お、俺は悪くないぞ、親父が悪いじゃないか!」
トムとミジルが言い合う様子に「大丈夫かい? エッカさん」と目を回している彼女に駆け寄った。
ギャング集団間の抗争は敵対勢力同士で解決をしてくれと思うが――無理だろう。
声に反応した彼女も顔を振る、ゆっくりと上半身を持ち上げてオレを見た。
「ど、どうなったんですかぁ」
「貴女のおかげで、トムは生き返りましたよ。今、ミジルとバチっている状態です」
ひょい、とエッカが二人を見る。周りの若手たちが二の足を踏んでいることも分かった。
どっちについて手を貸せばいいのか、判断できないことが分かる。
一触即発な空気の重さに逃げ出したいが、オレにはしなければいけないことが――残っている。
(あーりゃりゃ、こーりゃりゃだな)
明らかになった真犯人を、守護神に差し出すことだ。
(悪者だから殺していいということにはならない、って言ったのはオレだ)
差し出すという行為、悪者は死んでもしょうがない、を肯定している。犯人が守護神に殺されることを承知しているんだ。
(偽善者だな、どうにも)
このままエッカと一緒に逃げることは可能だろうが、そうは問屋が卸さない。
エッカが巻き添えを喰らってしまうかもしれない。回避するためには約束を守らなければならない。
(
だが、誓いを立てたのは――オレだ。
「僕を殺したのは若頭のミジルなんだっぜェえ!」
トムがミジルを指差した瞬間、若手たちが一斉にミジルを睨みつけた。
「そのクズ野郎について行く奴はいるのかなぁア!」
標的になったミジルの口が大きく吊り上がり、銃をトムに向けたことで若手たちの武器も差し向けられ、銃撃戦が起こった。
オレも咄嗟に立ち上がり鍵を強く握り、また何もない前に向けて差し込んで回した。
「《施っっっっ錠っ!》」
総ての武器を閉めた。どんなにトリガーを引いても無駄だ。高性能な武器が子供用の玩具でしかない。
全員がオレを恐怖と怒りの顔色で見つめてこられたって、もう遅いんだ。
「クボヤ鍵師ぃイイイ!」
オレの地面に溜まっていた黒い涙が大きく盛り上がると倉庫内が闇に覆われる。
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