第2話 転校生
三人が行方不明についての噂話をした、翌日。天気は曇りまではいかないが、昨日のような清々しいと思えるほどの晴天ではなく、少し雲の多い晴れの日。
友華たちが通っている学校はまだ生徒たちが疎らに登校しているそんな時間帯だった。
この日の2-Bには、昨日までとは違う、一寸した変化が見受けられた。
友華たち三人が座っている一番窓際の列。その、右隣りの列は、昨日の放課後までは7席で構成されていた列のはずだったのだが、今朝確認すると、最後尾だったはずの7番目の席の後ろに、一つ、8番目の席が、追加され、【8席で構成された列】になっていたのだ。
ちなみに、【一番窓際の列】とは黒板を正面に見たときに左手には窓、右手に隣の列と言った本当に端に位置する列である。
これに、噂話をしていた三人。友華、櫻子、梓の中で最初に気づいたのは、登校して教室につく時間が一番早い友華だ。
そして、この時。
付け加えると、友華大好き♡櫻子も、もちろん友華と一緒に登校しているのだが、櫻子は、友華以外に興味が持てない。特殊な人間なのだ。
それ故に、【隣の列に席が一つ増えた】という事象は、櫻子にとっては、緑生い茂る生気あふれる樹木から、小さな木の葉が一枚、風に揺らされそっと地面に舞い落ちるくらいの、まったくと言っていいほど変わり映えのしないそんな変化であるが為に、気付く訳がなかった。
まぁ、櫻子にとってはそんな、無変化状態の教室だったとしても、物事に対して、適度に好奇心が働く友華にとっては、大きな変化だったらしく、教室に入ってすぐに昨日とは違う違和感に気づき、櫻子と共に席に着いてすぐに、【増えた席】についての考察を述べようと櫻子へと声を掛けた。
「なぁ、櫻子」
「何ですかぁ?友華ちゃん♡」
櫻子にとって、友華との会話は、人生の中で最上の喜びである。
その為、櫻子は後ろを振り返り友華を見つめた後、頬を名前の様に桜色に染め和かに微笑み、返事を返した。
恋する乙女の様な表情の櫻子は、対友華用のデフォルト仕様であり、幼い頃より慣れている表情故に、友華は平然と気にする素ぶりも無く、右隣列の最後尾、【8番目の机】を、体は前を向いた状態で少し右側へ腰を捻り、首を右に向け視界の端に少し見える程度に捉え、右手で拳を作り肩ぐらいまでの位置に上げるため肘を曲げ親指で、増えた席を指しながら、
「あれ、なんか隣、席増えてるじゃねぇか?うちのクラスに転校生が来るみたいだぜ?どんな奴だろうな?」
と、言葉を発し問いかけた。それを受け櫻子も表情を恍惚とした微笑みからキョトンとした表情に変え、増えた席に視線を向けて、
「あら、本当。席が増えてますねぇ」
と、今気づいたであろう声色で返した。
「はぁっ!?気づいてなかったのかよ…」
驚き、視線を増えた席から櫻子へ移すと同時に手も下げた友華。
「えぇ、たった今、友華ちゃんに言われて増えた事に気が付きました」
友華からの視線を受けすぐさま、増えた席から視線をはずし、友華に微笑みを向ける櫻子。
そして、二人の会話は続いていく。
「あぁ"…、おめぇ櫻子。机が増えるとか、あんなに分かりやすい変化だったろうが、あたしは教室入ってすぐ気づいぜ。お前だってあたしと一緒に教室に入って来たろうが、
「はい、
「………、確かに、お前の常識だとあたし以外は基本その辺の石ころみたいなもんだったなぁ;;」
「そうですよぉ友華ちゃん♡常識です♡」
「ははっ;;」
櫻子の非常識な常識に、やはり櫻子は櫻子だなと、友華は思い、乾いた笑い声を発した。
「まっまぁ;;、お前の常識は、一旦横に置いとくとして。話戻すけど、櫻子は転校生どんな奴だと思う?」
「ふむ、はっきり申し上げますと友華ちゃんで無い時点で1
「あっ…、やっぱし?」
「えぇ、男性だろうが、女性だろうが、お
「お、おぅ;;」
「ですが、せっかくの友華ちゃんとのお喋りで、そんな無粋な回答をしては、九条櫻子の名折れ。ここは、もてない興味を持ち合わせた、全くもって、私にとっての非常識な回答をしようと思います」
「??」
「友華ちゃんが話していた転校生、私、知っています」
「!!!
「
友華は唖然としていた。
櫻子に自分が知らない知り合いがいた事に。
櫻子は、先ほど友華が話していたように、『友華以外は石ころ』と、かなり変わった常識を持っている。
その為なのか、櫻子が仲良くなる友人枠に分類される名前を憶えている知人は、すべて友華を経由する知人であり、あの、櫻子も認める美しい少女、梓でさえ、友華でない時点で、本来なら櫻子の食指はピクリとも動かない対象なのだ。
だから、友華の知らない櫻子の知人は、ほぼいないと言っていい。
その櫻子が、転校生を知っているという。
これに、驚かずに居られようか。
そして、友華は驚きと同時に、自身の胸の内側にモヤモヤとした、形容しがたい何かが沸き上がってくるのを感じていた。
その何かとは、人間が誰しも大小抱えている嫉妬や独占欲と言われる感情。所謂『負の感情』と呼ばれる感情。
友華は、産まれてこのかたその様な、とは無縁の生活を、送っていたのだ。
その最大の理由は、櫻子からのとてつもない重い大きな愛が基礎となっている為である。
故に、友華は、無意識に『櫻子は自分だけのもの』と思っており、他者と櫻子の関係については、上部の認識は、櫻子の友人は櫻子の友人という認識だとしても、深い意識の奥では自分のものを他人に貸しているという認識をしている。だから、自分の知らない櫻子を知っている人物が居ることに、ショックを受けた為に嫉妬したのだ。
だが、あくまでこれは、友華の意識外の事である為に、どうしてモヤモヤとするのか友華は自身の感情をまだ理解していないのである。
(友華ちゃん、なんだか、追い詰められた野兎みたいな驚き方をしていますが大丈夫でしょうか??まぁ、それはそれとして、怯えながら驚いているお顔もPRETTYでCUTEです♡流石は、友華ちゃん♡)
等と、考えながら友華の表情をニコニコと笑みを浮かべ、堪能している櫻子は、笑顔を保ったまま『とは、』と言葉を紡ぎ始める。
「とは、言いつつも、本当にただ、知っているだけで知人と言う訳じゃありませんから、詳しく、根掘り葉掘り、転校生について聞かれると物凄く、返答に困りますので、質問は、無しの方向でお願いしますね友華ちゃん。昨日、偶然、たまたま、運悪く、出会ってしまい、一寸だけ言葉を交わしただけの顔が分かる程度の赤の他人ですので…。昨日お話しした時も、お互いに自己紹介はせずに世間話を軽くしかしませんでしたから、お名前なんて聞かれても、私は、知りませんよ?」
この、台詞が耳に届いた瞬間、友華は、
「へっ?」
という、間の抜けた鳴き声の様な短い言葉と共に唖然とした表情から、力の抜けた表情に変化していた。
「櫻子……、お前の知り合いじゃねぇのか?その、知ってる?転校生」
力の抜けた顔と声のまま、質問する友華。
「?、私に友華ちゃんを通さない知人がいるはずないじゃないですか?それに、私は『知り合いです』何て言ってないですよ?ただ、『知っています』と言っただけです」
質問に対して、キョトンとした顔で、返事をした
「……、言われてみりゃぁ?確かに?」
確かに、櫻子は『知っています』とは、言っていたが『知り合いです』とは、言っていない。
友華は、櫻子の『知っています』と言う言葉で、知り合いだと勘違いしていたのだ。
「そ、そうかよ……」
完全に、櫻子の台詞で、ほっと安心してしまい、力の抜けた友華。その、心中には、もう、モヤモヤとした、負の感情は見られなかった。
そんな、友華の変化を櫻子が見逃すはずがなく、
「大丈夫ですか?友華ちゃん?何だかさっきから、変ですよ?」
「そっ、そうかぁ?」
「そうですよ、さっきまで、追い詰められた野兎みたいな雰囲気だったのに、今は、温泉に浸かるカピバラみたいな雰囲気ですよ?」
「何だ、その例え方…、というか、独特な違いは;;」
「ふふっ可愛い友華ちゃんにぴったりな可愛い例え方でしょ♡」
「か、可愛いかそれ…?」
「むー可愛いじゃないですかぁ。…で、なんで、この短時間でそんな雰囲気の違いが出るんですか?変ですよ?何が原因なんですか?大丈夫なんですか?私、とーっても心配ですっ!!」
「…はぁ、櫻子が気にする様なこたぁ何もねぇよ、あたしも変じゃねぇし大丈夫、大丈夫っ!!」
「でもっ」
「心配すんな!!あたしはいつも通り元気だよっ!!」
「…、そうですか」
「そうですよっ!!」
「……友華ちゃんがそう言うなら」
櫻子は『あなたがそう言うなら、とーても不満ですけど、我慢して納得したフリしてあげます』と顔に書いてある様な、少しどころではない不満そうな顔をしていた。
対する友華は、胸のつっかえが取れたのでとっても晴れやかな笑顔であった。
そんな、二人に鈴を鳴らしたような可愛らしい声で元気の良い朝の挨拶が聞こえてきた。
「おはよっ友華!櫻子!」
二人は、笑顔と不満げな表情のままで声のした方に、顔を向け返事をした。
「おぉ!!はよっ!!!梓っ」
「……、おはようございます、梓さん」
「なっ何?この、雰囲気?」
友華は、機嫌よく。櫻子は、不機嫌に。梓に挨拶を返してきた為、その対照的な雰囲気の二人を梓は疑問に思って声を漏らした。
そして、この疑問の真相究明の足掛かりにすべく、ご機嫌で声が掛けやすそうな友華へと、声を掛けた。
「ねぇ、友華」
「んっ?何だ?」
「櫻子と何の話してたの?なんか、櫻子、不機嫌そうだけど?」
「あぁ、転校生の話だよ」
「転校生?転校生が来るの?」
「そうだよ。ほらっ」
そう言いながら、増えた席を指差す友華。
友華の指に釣られながら、増えた席を見る梓。
「あっ本当だ、増えてるね」
「あ“っ!?お前も気付いてなかったのかよ!?」
「気付いてなかったと言うよりも、私が教室に入ってきた時に一番に気になったのは友華たち二人の雰囲気だったから、周り見てなかったんだもん。仕方ないでしょ?」
「えっそうなのか…、なんかごめんな;」
「いいよ。で、なんで転校生の話で櫻子が不機嫌になるの?」
「さぁ?」
「……、友華ちゃんが誤魔化すからです」
「櫻子…」
「誤魔化す?」
「そうですっ!!聞いてください梓さんっ!!」
「は、はいっ!!」
「友華ちゃん、明らかに、野兎からカピバラに変わっていたのに、それを認めようとしないんですっ!!」
「の、野兎?カピバラ??…櫻子、いったい何、言ってるの??友華はどう見ても人間ですけど????えっ友華って人間だよね????私、認識間違ってた??本当は、野兎でカピバラだった?えっ??えっ???」
「こら、櫻子。梓、混乱しちまってるじゃねぇか、省いて説明すんじゃねぇよ。それに、その話は、あたしが大丈夫っつてんだから大丈夫なんだよっ!もう、この話は終わりだ、終わり!!梓もごめんな?櫻子の言ってる事、気にしなくていいからよっ!」
「むぅー」
「????」
結局、梓の疑問は解答を得られずに謎のまま、放置状態にされた上に、さらなる疑問も追加され、梓の謎は迷宮入りとなった。
梓は
「えっと、櫻子の事は、友華の言う通り気にしない事にするとして、二人がさっき話してた転校生って何の事?席が増えてるから、転校生がうちのクラスに来る事は分かってるんだけど、他に何か知ってるの?」
この疑問に、返事をしたのは友華だった。
「あぁ、櫻子が転校生のこと知ってるらしくてよ」
「えっ櫻子、転校生と知り合いだったの?」
梓も友華と同じく、櫻子が転校生と知り合いという勘違いをしているらしく、そう櫻子に問いかけた。
櫻子は、『なぜ、二人ともそんな勘違いをするのだろう』と疑問には思ったが、口に出さず。勘違いを正そうと、友華に話した、内容を簡潔的にもう一度。今度は、梓に対して話していた。
「違いますよ。知り合いではなく知っているだけです。昨日、会ったばかりですし。縁あって一寸だけ世間話しただけで、容姿くらいならわかりますが、それ以外は名前も何も知りませんよ」
このような内容を聞けば、さすがの梓でも、櫻子と転校生は知り合いではない事がよく分かった。
ただ、今度は転校生をどうして、知ることが出来たのか、そのきっかけが気になり始めた梓は、己の好奇心が抑えきれずに櫻子に質問していた。
「じゃあさ、櫻子」
「何ですか?梓さん」
「櫻子はどうして、転校生とお喋りしたの?」
「えっ」
「ほら、櫻子って、自分から積極的に他人に話し掛けたりしないでしょ?
もし、掛けるとしても、何かその人に用事があるか、もしくは連絡事項を伝えなきゃいけないときぐらいで、必要があるから話しかける感じ、じゃない?」
「まぁ、そうですね」
「そんな櫻子が何のきっかけもなく転校生と話す訳なんて、ある訳なくない?」
「えぇまぁ」
「だから、そのきっかけって、何なのかな?って気になってさ。…で、何でなの?」
「そんなに、気になりますか?」
「気になるようっ!!」
目をキラキラと輝かせながら、好奇心の赴くままに、言葉が出てくる梓。
梓の光り輝く瞳を受けて眩しそうにする櫻子。
櫻子は、転校生との出会いを回想し、言葉にする事をめんどくさいと内心思い始めていた為、どうにか、こうにか、梓の興味を逸らそうと転校生から別の話題への切り替えの為、口を開きかけた時、
「あたしも気になる」
と、友華から梓への援護射撃の様な台詞を受けて、思考が180度回転し、
「…はぁ、分かりました。そこまで、おっしゃるのなら、お話ししますよ。転校生との出会いを、」
「やったー!」
「おぉ、ありがとよ」
「ですが、そんな、聞いて楽しい事でもないですよ?」
「それでもいいのっ!」
「聞きたいだけだしなぁ」
「じゃぁ、話しますよ」
なんて、回想する決意を固めた。
それから、櫻子は、『ほら昨日、』という出だしで、回想を始めた。
*****
ほら昨日、5時限目の授業を終えて、教室に帰る途中、視聴覚室に忘れ物をした事に気づいて、一人で急いで取りに戻った時があったじゃないですか?
えぇ、言いませんよ。そんな余計な事
いや、その時じゃなくて、視聴覚室から忘れ物を取って教室へ帰ってる時に彼女と出会ったというよりかはぶつかったが、正しいですかね
えっ、言ってませんでしたけ?転校生は女性の方でしたよ?
なんでって、そりゃあ急いで戻ってましたから、廊下を走っていて、周囲を疎かにしてましたので、ほら、あの曲り角。丁度、死角になりますでしょ?そこで、彼女とぶつかったんです
それで、私、お恥ずかしい事に持っていた物をぶつかった拍子にばらまいて、さらには、衝撃に耐えきれず尻餅をついてしまったんです。
ご心配には及びませんよ。そんなに、痛くなかったですし
ふふっありがとうございます。で。そんな感じで尻餅をついていたところ、頭上から、謝罪と心配する声が聞こえてきて、手を差し伸べられたんです
えっと、どんな感じの物言いだったかですか?…、確か、『ごめんなさい、窓の外に気を取られていて、前を見ていませんでしたの、お怪我はございませんか?』だった気がします。多分?
そんなことありませんよ。私も、その手を有難く取ってから、立ち上がり、『こちらこそ、急いでいたので周囲を疎かにしてしまい、申し訳ありませんでした』何て、言ってきちんと謝罪しましたから。
えぇ、親切な方だとは思いますよ
だって、私が散らばった物を集めようと屈んだ時に、目の前の彼女も一緒に屈んで、拾ってくださったんです、そういった心遣いが出来る方は大体、親切な方なんでしょう?
んっ?『どうして、彼女が転校生で、しかも、私のクラスだと分かったのか』ですか?あぁ、だって彼女、うちのブレザーの制服じゃなくて、セーラー服を着ていましたし、それに、彼女本人が、拾って下さった教科書を見てから、『あなた、2ーBの生徒さん?私も明日から同じクラスですの。よろしくお願い致しますわ』なんて、言ってきたんですから、お猿さんでも分かりそうなものですよ。
一応、私も礼儀と言うか、お世辞と言うか、そういうものも言えますので、『そうなんですか?では、明日からクラスメイトとして、こちらこそよろしくお願いしますね』くらいは、返しましたよ?
えぇ、そうですよ。それだけです。次の授業の時間も迫ってきてましたから。それくらいしか話してませんよ?
えっ彼女の容姿ですか?うーん。まぁ、私が可愛らしい思って、愛しているのは友華ちゃんだけで、それ以外は、基本的に美醜なんかどうでもいいですし、興味ありませんけど。そうですねぇ…
まぁ、そんな私から見ても、
*****
「奇麗な方だと思いますよ。彼女は」
回想の最後は転校生の容姿を美しいと、褒め締めくくった櫻子。
これは、異様なことだった。
再度、確認の為に語るが。
櫻子は、愛する友華以外の人間すべて、皆一様に石ころと見なしており、上下も左右ない、すべて同じに見える、特殊人物である。
今でこそ、美少女と櫻子が認識している梓だが。
最初、梓を友華から紹介された櫻子は、梓の事も他の有象無象と一緒でその辺の石ころと認識していた。
梓が櫻子の中で、美少女にカテゴライズされたのは、友華が、『梓は本物の美少女だよなっ!!』と笑顔で櫻子に語った事が大きく、『友華ちゃんが言うなら美少女なんですね』と納得していたからである。
それから、梓との交友を続けるうちに、梓も又、友華には劣るけど美少女なのだなと本心で思えるようになったという、長い経過がある。
故に、その櫻子が会話しただけの他人の美醜を語ることは異様で奇怪なことなのだ。
この、この言葉を受けた友華と梓は、言葉なくそれぞれ驚いてはいたが、驚きの理由は違っていた。
友華は、無意識の混乱で。
梓は、期待の喜びで。
そして、友華の些細な変化を櫻子が、見逃すはずがなく。
櫻子の言うところのカピバラで、いた友華が、再び野兎に戻ったことで、再度心配になった櫻子は、友華に声をかけようと口を開く前に、友華による質問を受けた。
「お、お前は、その、転校生のこと気に入ったのか?」
答えを聞くのが恐ろしかったのだろう質問をした声は震えていた。
肯定されたらと思うと、自分の信じていた世界が崩壊していくような錯覚に陥り、今自分が何処にいるのかさえも曖昧になっていくそんな恐怖、不安が一気に襲ってくるといった感じなのだろう。
しかし、その感覚は、質問した瞬間。
コンマ0,1も満たない間で払拭される事となる。
「いいえ、全く、全然。なんで、友華ちゃん以外に興味なんて持たないといけないんですか?新手の拷問ですか?それ?」
「おっおう…;」
こうして、友華は温泉に浸かるカピバラになったのだ。
そんな二人の会話が秒で終わったのを見計らい、今度は梓が、櫻子に質問していた。
「そんなに、櫻子が言うんなら超絶な美女だよね!転校生ってさ!!期待しちゃうなっ!!!仲良くなれると思う?」
「嬉しそうでなのによりですが、仲良く、ですか?」
「うんっ!」
「…?どうしたんだよ櫻子、言いにくそうにして、何かあんのかよ?」
「櫻子?なんか、私変な事聞いた?」
「い、いえっ大丈夫です。仲良くですかまぁ親切な方だったので、梓さんなら仲良くなれると思いますよ?」
「本当っ!!嬉しいっ!!来たら、いの一番に話かけて友達になろうっと!!あー、早く来ないかなっ」
「…、」
「どんな事はなそうかなぁ~」
嬉しそうに笑みを浮かべ、転校生が来てからのシミュレーションを想像する梓。
妄想する梓を尻目に、小声で梓に聞こえないように声音を調節し櫻子に、問い掛ける友華は、真剣な表情をしていた。
「なぁ、さっきのあれ、どういう意味だよ?」
「…、やっぱり気づきました?」
「当たり前だろ?何年お前と一緒だと思ってんだ」
「友華ちゃんっ」
「はいはい、今はいいから、で、どういう意味だよ?」
「…、そのままの意味ですよ」
「?」
「そのまま、梓さんなら彼女と仲良くなれると思います」
「…じゃぁ、あたしは?」
「……。して欲しくありません」
「して欲しくない?」
「そうです。して欲しくないんです」
「なんでまた…」
「…、彼女は本当に綺麗な方でした、ですが、」
「…」
「ですが、それ以上に恐ろしい方だとも思いました」
「恐ろしい?」
「えぇ、彼女と対峙した時、何か得体のしれないものを相手取っているような…、そんな、感覚がしたのです」
「…」
「だから、友華ちゃんには近づいてほしくないんです」
「…」
「梓さん経由で、知り合うかもしれませんが、なるべく、なるべくっ!!彼女の事は避けてください。お願いします」
「……、分かった。櫻子がそこまで言うんだ、言いつけは守る」
「っ!!ありがとうございます」
切実な櫻子の願いを聞き、約束する友華。そんな、友華に安堵する櫻子。
二人の内緒話が終わる頃には、教室は生徒で満たされ、朝のホームルームを告げる鐘が定時に鳴り響いた。
そして、2-Bクラス担任教師、水谷が、教室に入室すると当時に、本日の日直へと号令をするように促し、号令が終わり生徒が不足なく出席をしている事を確認すると、一呼吸おいてから話始めた。
「気づいている奴もいるとは思うが、今日このクラスの新しい一員として転校生がやって来たっ!!」
そう、水谷先生が発した後にざわつく、2-Bの生徒たち。
そのざわつきには、色々な期待や不安が込められていた。
【女子かな?男子かな?】【イケメン男子こいっ】【可愛いのだろうか?】【美人一択でしょうがっ!!】【巨乳がええなぁ】【仲良くなれるかな?】【優しい人だといいな】etc.
様々な思いの中、水谷先生の「入ってこい」という合図と共に満を持して登場したのは、
透き通りそうな程の白い肌は、決して病弱でか弱い印象を与えない絶妙な成り立ちである。
濡れ羽色の艶やかな髪は膝裏まであろうかという長さを保ち、重力に逆らわずに真っ直ぐと下に延びている。
前髪は目の高さで、横髪は耳の半分が隠れる程で、度切り揃えられている。後髪は結ったり等はせずに流している。
学校指定の制服が間に合わなかったのだろう、襟の部分に白いラインが三本入っている黒のセーラー服を着用している肢体は、服の上からでも良く分かるバランスの良い豊満な肉体美をしており、豊かな胸元を彩るスカーフは光を受けて真紅の輝きを放っている。
胴よりも長く美しい脚には、黒のタイツ。それは、60デニールほどの程よい透け感で、彼女の美しい脚をより引き立てている。
足元は他の学生と同じような上履きなのだが、彼女が履いていると高級なブランドの靴を履いている様な錯覚に陥る。
そして、
その、
貌は、
唇は、桜色に艶めきもぎたての果実のように瑞々しい潤いを保ち。
眉は、細く綺麗な曲線で理想的なアーチを描き。
鼻は、鼻筋が通っている程よい高さの大小過不足のない理想的な大きさのが付いている。
瞳の形は少し伏目がちな垂れ目をしていて、瞳の色は常闇の様な深い色をしてずっと覗き込んでいると吸い込まれそうな感覚になる。
しかし、光のあたり具合でアメジスト様な妖艶な雰囲気を纏う不思議な瞳をしていた。
左の目元にチョンとついている泣きぼくろが彼女のチャームポイントなのかもしれない。
以上の特徴が貌に黄金比率で配置されている。
まるで、美の女神が丹精込めて創造しましたと言わんばかりの非の打ち所がない、100人中1500人は認め、見惚れ、身を崩す、そんな魔性の美貌をしている
独特な雰囲気を持つ美女だった。
教室にいた一般生徒たちは、皆一様に口を閉ざし、彼女の美貌に見惚れていた。
彼女は、水谷先生の左側に立つと、
「今日から、このクラスの一員となる
彼女の…、渚の声は、その美貌に似つかしく、美しい旋律を奏でながら教室に木霊した。
DOLL 究極の丸 @watasi3
★で称える
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