昼は探索者 夜は吸血鬼狩り

   

第1話 最弱探索者 配信に映る

「なかなか見当たらないな………」


ダンジョン内で俺は立ち止まりながら周りを見渡していた。


だが、どれだけ移動してみても俺の目当ては出てこなかった。多分、俺がいるダンジョンのこの階層よりももっと奥の階層に隠れているのだろう。


ダンジョン、今から数十年前に突如地上に現れたモノだが、この中にはモンスターや貴重な鉱石などが取れるということで同時期に人に発現し始めた特殊な力、スキルを持つ人達がこぞってダンジョン内を探索し始めた。


それから数年経って探索する人達のことを探索者と言うようになり、技術が進展した今となってはダンジョン内を配信する人も現れたりして割とメジャーな職業としても知られるようになった。


そんな探索者になった俺だが、俺にとっての本題はそのモンスターや貴重な鉱石などではない。そう言ったら、探索者になる必要なんてないじゃないかと誰もが思うだろうが、あくまで探索者は自分がダンジョンの中に入るための口実のようなものである。


「もっと奥に行きたいけど、この階層よりも強いモンスターしかいないだろうからなぁ………」


俺は目の前にいるスライムを見ながらそう言った。スライム、別名『最弱のモンスター』らしい。


しかし、俺はそんなスライムですらまともに倒すことができなかった。


「オラッ!当たれ!」


俺は銀色に光り輝くナイフを何回かそのスライム目掛けて振り落としたが、スライムは機敏に俺の攻撃を避け続け、俺の攻撃は一度としてそのスライムにダメージを与えることがなかった。


「クソッ!」


俺は悪態をつきながら引き続きスライムに何度も斬撃を浴びせようとした。探索者になってから早一年ほど、俺はこのスライムに一番苦戦していた。丸く小さいフォルムに上にすばしっこいモンスターなこともあって攻撃を当てることができないのだ。


何度も途中で匙を投げ、スライムを無視して進もうとしたが、ずっと俺に付き纏い逆に攻撃をして来たり、群れを呼んで一斉に襲いかかってくることもある。


それに、どうやら奥の階層に行くためにはモンスターを倒してポイントを貯めて探索者としてのランクを上げないといけないらしい。いつからそんなゲーム的な要素ができたのか分からないが、新人の安全面を考えた結果なのだろうか。


とりあえず、そんな理由もあってなるべく多くモンスターを倒したいのだが、いまだに俺の攻撃は当たらなかった。


「当たらねぇ!」


「…………あの、何をしてるんですか?」


「え?」


俺が一人でスライムにイラついて叫んでところに声が聞こえたので振り返るとそこには茶色の長い髪をした俺と同じ高校生ぐらいの年代の少女が立っていた。


少女はどこかで見たような端正な顔立ちをしていて、その少し後ろには小さいレンズを携えたカメラが浮いて少女ごとゲームの三人称視点のような感じで撮られていた。この少女も探索者なのだろう。それも、配信などをするタイプの有名な。

つまり、俺もこのカメラに映っている。


スライム相手に苦戦してるのを………見られた!


「あ、ああ。いや、その…………」


「スライム………ですよね。」


俺がなんとか誤魔化せないかと考えている途中、少女は怪訝な顔をしたまま俺の周りで飛び跳ねているスライムを見つめていた。


「「………………」」


なんて微妙な空気なのだろう。同年代の男子がスライム相手に何度もナイフを振り上げながら叫んでいるのはそんなに変に思われてしまったのだろうか。しょうがないじゃない、当たらないんだもの。


「えっと………探索者になってあまり経ってないんですか?」


「い、いや…………一年、やってます。」


「へ、へえ〜。そうなんですね………」


「「………………………………」」


二度目の気まずい雰囲気、もはや何も話すことなんてできない。少女が頑張って振ってくれた話題にもこの有り様である。探索者は普通、一年経っていたら今俺が居る階層よりも遥か奥へと進めるはずである。


つまり、スライムも倒せないほどの俺は軽く見積もっても探索者一週間目ぐらいの実力である。それを聞いて少女もあまりの才能の無さに絶句してるのだろうか。もう一言も発してくれないで固まっている。


しかし、俺にとってはそれもそのはずで、ダンジョンが発現した時と同時期に人間に現れた特殊な力、スキルというものが俺には何故か一つも発現することがなかった。


手からなんか炎とか出したり目にも見えぬ速さで動いたり、そんな超次元なことが探索者にはできる人もいるらしいが、そんな特別な力は俺には無かった。


探索者になる人は大体、自分の持つこれらスキルによって探索者になるかどうか決めてるらしいが、俺はダンジョンに入れればいいので関係無かった。


「………それじゃあ、頑張って下さいね!」


「あ、はい。ありがとうございます……」


少女はしばらく絶句した後、何事も無かったかのようにダンジョンの奥へと歩き出した。俺は何か惨めさと申し訳なさと、あの地獄のような会話が撮られていたことを思い出して今すぐに消えたくなった。


「まだ3時か。」


俺はふと左腕に付けているデジタル時計を見た。時計には15:23と表示されていた。


「早く夜になってくれないかなぁ。そうすればここに居なくても済むのになぁ。早く来ないかな、『吸血鬼』」


俺は一人呟いた。









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