第61話 実の父親の攻勢
俺は応接室に入った。
すると、そこには……。
少し歳をとった男性が席に座って待っていた。
「久しぶりだな、定陸。お父さんだ」
俺の実の父親。
別れてからもう五年が経っていた。
当時は、イケメンという容姿だったと俺は思っていた。
しかし、月日が経過したことによって、イケメンだったところがだんだん失われてきているように思えた。
また、少し疲れているところがあるようにも見える。
ただ、それは気のせいかもしれない。
いずれにしても、俺はこの人とはもう何の関係もない。
ただの他人にすぎない。
久しぶりに会ったとは言っても、何の懐かしさも感じることはなかった。
俺は、
「この会社の社長、倉春定陸と申します」
と言って頭を下げた後、実の父親と向かい合わせの席に座った。
「立派になったな。会えてうれしいよ」
気持ち悪いくらいに微笑む実の父親。
俺は別に何もうれしくない。
さっさと話を終えたい。
そう思った俺は、
「一体、何のご用件で来られたのしょう?」
と実の父親に聞いた。
すると、実の父親は、
「まあ、そんなに急ぐな。お前だって、わたしと再会できてうれしいだろう? もう何年も会っていなかったのだから、親子水いらず、まずは再会したことの喜びにお互い浸ろうではないか」
と言ってきた。
聞いている内に少し腹が立ってくる。
俺のことを捨てておいて。よくそういうことを恥ずかしげもな言えるものだ。
「わたしは忙しいので、ご用件だけ伺わせてもらいます」
俺は怒りを抑えつつ、極力冷たい口調でそう言った。
「せっかく久しぶりに会ったというのに冷たいやつだ。まあいい。お前がそう言うのなら、すぐに用件に入らせてもらおう」
実の父親はそう言った後、言葉を一回切った。
そして、
「単刀直入に言う、わたしは今、お金が必要なんだ。わたしが必要な分だけお金を寄越せ」
と堂々とした態度で言った。
お金の無心に来たこと自体は想像できていた。
しかし、少しは申し訳なさそうな態度を取るものだと思っていた。
堂々とした態度で要請してくるとは、さすがに想像することは難しかった。
そうした態度を取ることにより、俺を威圧して要請を受け入れさせようとするのだろう。
俺も残念ながら少し威圧されてしまったところがあった。
しかし、すぐに心を切り替える。
俺は、
「一体何の目的でお金が必要なのですか? それをまず話していただくべきだと思います」
と怒りを抑えつつ聞いた。
すると、実の父親は、
「わたしはお前の父親だ。子供というのは。本来は何も聞かず、父親の命令に従うものだ。それなのに、お前は理由を聞いてくる。生意気なやつだ。でもまあいい。教えてやる。わたしは、今の結婚相手との子供ができないまま離婚をすることになった。そして、その相手に対して。慰謝料を払わなければならなくなった。口惜しいことにな。わたしとしては。その費用を払いたくはないが、払わなければならなくなった。そこでその費用の援助をしてもらう為、ここにきたというわけだ。お前はこの会社の社長だから、報酬はたくさんもらっているんだろう? わたしはお前の父親だ。その報酬の一部を、今困っているわたしに援助するのは、子供として当然の義務だとお前も思ってくれるだろう。さあ、わたしの苦境を救う為に、お前はわたしを援助するのだ!」
と言ってきた。
それに対し、俺は、
「離婚することになった原因は何ですか? それをまず教えてください」
と聞いた。
自分勝手なことを言い続けているので、話を聞くのがだんだんつらくなってきたのだが、離婚をすることになった原因だけは聞いておきたかった。
実の父親の浮気が原因だろうとは思っていたのだが……。
(あとがき)
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