第58話 前世の寝取られた記憶
俺が紗淑乃ちゃんとゲームの話をした数日後の日曜日、その機会は訪れることになった。
紗淑乃ちゃんは、薄い水色のジャケットと白色のブラウス、そして、薄い水色のスカートをはいて、俺の部屋にやってきた。
高校に入っても俺に対しては、ほどんどの場合無表情で、今日もそれは変わらない。
しかし、俺は紗淑乃ちゃんに対して、ここ数日、それまで以上に異性として意識をするようになっていた。
俺は紗淑乃ちゃんの美しさ自体は幼い頃から認識していて、心を動かされていた。
でも、高校の入学式で制服姿の紗淑乃ちゃんを見た時、その美しさによって、今までにないくらい心を動かされたし、そして、今日、私服姿の紗淑乃ちゃんを見て、入学式の時と同じように、その美しさに心を動かされていた。
そして、俺の心は沸き立っていき、紗淑乃ちゃんを抱きしめてキスがしたくなってきた。
心が沸き立つこと自体は多くなっていたのだが、今日は今までにないほどの沸き立ち方。
いつも一旦は心が沸き立っていくのだが、その後、現状を認識し、心を抑えていくのがいつもの俺だったというのに……。
心のコントロールがなかなかできない。
紗淑乃ちゃんを抱きしめたい!
紗淑乃ちゃんとキスしたい!
俺の心には紗淑乃ちゃんへの想いを恋にまで発展させたいという強い想いはあり、それが、
「ここで一気にいかなければ、恋への到達がまた遅れてしまう……」
というあせりを生んでいた。
しかし……。
俺の心を時々苦しめていた前世の寝取られた記憶が、ここで一気に湧き出してきた。
なぜこんな時に……。
そう思うのだが、この記憶が湧き出してきた為、俺は心が苦しくなってしまった。
今までも紗淑乃ちゃんと一緒にいる時、時々こういう苦しみを味わうことがあったが、数分ほどのもので、それほど酷いものではなかった。
それがこの日は。いつも以上に苦しいものになった。
この日も数分ほどでおさまったものの、それ以降は、紗淑乃ちゃんに対して、抱きしめたいと思うことや、キスをしたいと思うことだけではなく、普通に関係を深めていこうとする気力もなくなってしまった。
この日だけでなく、日曜日に紗淑乃ちゃんと会うと、こうした苦しみに襲われるようになり、その度に紗淑乃ちゃんに対して、普通に関係を深めていこうとする気力さえもなくなっていくのだった。
紗淑乃ちゃんは俺が苦しんでいるのを見て、心配してくれる。
ありがたいことだ。
しかし、前世で寝取られたと言う記憶が湧き出してきて、それで苦しんでいることを言うわけにはいかない。
紗淑乃ちゃんは、前世というものがあること自体、ほとんどの人たちと同じように認識していない可能性が高いと思うからだ。
俺は、この苦しみの為、紗淑乃ちゃんとの関係を普通に進めることも難しくなっていた。
無念というしかない。
それでも俺はめげることはなかった。
前世で寝取られたことによる心の傷は深く、今世になっても治りきらないままだ。
しかし、俺は前世ではなく、今世を生きているのだし、紗淑乃ちゃんは前世の喜緒乃ちゃんではないということをもう一度認識するべきだ。
俺はそう思い、前世で寝取られたことを乗り越えることを決意した。
そして、俺は何とか夏休みまでに紗淑乃ちゃんとの関係を深めていきたいと思っていた。
幼馴染から恋人どうしへ。
そして、抱きしめ合い。キスをして、二人だけの世界に入っていく……。
そこまで進んだ後で、高校一年生の夏休みを迎えたかった。
今までと違って、恋人どうしになるなのだから、ずっと一緒にラブラブで過ごしたい。
今までのようにゲーム三昧というのも、もちろんいい。
でも、外でのデートをするのもいいと思っていた。
テーマパーク、海水浴、花火大会……。
一緒に行って楽しむことができたのなら、一生の思い出になるだろう。
俺はそう思い、希望を持っていくのだった。
(あとがき)
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