第55話 伸時ちゃんの「鈍感さ」
俺たちは、中学生になってからは、俺の部屋で四人が集まってでゲームをプレイすることはなくなっていた。
しかし、四人でカラオケに時々行くことによって親睦をはかっていた。
歌うのは全員が大好きなアニソン。
伸時ちゃんが一番ノリノリだが、きぬなちゃんも負けてはいない。
俺はそこまでではないが、好きな歌は熱を込めて歌っていた。
紗淑乃ちゃんはあまり歌うことはなかったものの、歌う時はその美しい声で俺たちを魅了する。
そして、いつも微笑みながら、俺たちの歌を聞いてくれていた。
時々ではあるものの、こうした楽しい時間を過ごすことで四人の関係を維持することができていた。
高校生になっても、時々でいいので、四人でカラオケをしたいと思っていた。
ただ……。
俺としては、俺と二人だけの時にも微笑んでほしいということを、どうしても思ってしまうところはあった。
また、二人だけでカラオケをしたいという気持ちも湧き上がってくる。
二人でデュエットできたらどれだけいいだろうと思うこともあった。
しかし、それを実現する為には、俺たちが恋人どうしになるしかない。
そこまで到達するには、まだまだ時間がかかりそうだ。
でも、いつかは二人だけでカラオケに行って、一緒にデュエットしたいなあと思うのだった。
伸時ちゃんは、きぬなちゃんの制服姿を見て、きぬなちゃんに、
「きぬなちゃんのことは、もともと美しいと思っていたけど、最近はより一層美しくなってきたと思っていたんだ。そして、今日の制服姿はもっと美しいと思うよ。きぬなちゃん。俺は親友としてうれしい」
と言っていた。
それに対し、きぬなちゃんは、
「伸時ちゃん、冗談だとしても褒めるのがうまいんだから……」
と顔を赤らめ、うつむきながら応えた。
伸時ちゃんも顔を赤くしながら、
「いや、これは冗談ではなく、本心から思っていることなんだ」
と応えていたので、伸時ちゃんもきぬなちゃんの美しさに少しずつ心を動かされているのだろう。
伸時ちゃんはきぬなちゃんに対して、まだまだ親友という意識が強いようだが、俺はこれを機に、伸時ちゃんの心がきぬなちゃんに傾くことを願っていた。
しかし……。
高校入学後も、伸時ちゃんときぬなちゃんの関係は依然として進まない。
俺と紗淑乃ちゃんのクラスは別々になり、この二人ともそれぞれ別々のクラスになった。
それに対して、この二人の方は一緒のクラスになり、関係を進めていくチャンスのはずだったのだが、それを生かすことができきていない。
伸時ちゃんは相変わらずサッカー第一主義。
中学生の時と同様、サッカー部に入部すると、すぐにレギュラーに抜擢された。
普通であれば、中学生の時よりもさらに同学年英や先輩に妬まれる可能性が高くなるところだった。
しかし、伸時ちゃんはここでも持前の明るさと爽やかさを発揮して、愛されるようになっていった。
きぬなちゃんのことは、大切にはしているが、それは幼馴染としてであって、恋の対象としてではなかった。
ただ、伸時ちゃんは、入学式もそうだったのだが、きぬなちゃんがより一層美しくなってきていることは認識していて、その点では心が傾き始めていると言えるのではないかと思う。
しかし、その心の傾きが恋にまで発展しそうな様子は、今のところ全くと言っていいほどないのだ。
きぬなちゃんは、進め方によっては、幼馴染の関係まで壊れてしまうことをより一層懸念するようになっていて、アプローチは慎重になっていた。
それでも伸時ちゃんへの恋する心は十分伝わると思えるアプローチだ。
それなのに、伸時ちゃんは「鈍感さ」を発揮して、その想いに全く気がつかないまま。
中学校三年生の時、さすがに俺は、この状況を打開しようと思って、きぬなちゃんに、
「俺の方から、きぬなちゃんの想いを伝えてあげようか?」
と申し出たことがある。
でも、きぬなちゃんは、顔を赤くしながら、
「そう言ってくれるのはありがたいわ。でも、これは自分で伝え続けなければならないことだと思っているわ。これからもめげずに一生懸命努力していくことによって、伸時ちゃんと相思相愛になっていきたいと思っているの」
と言った。
俺はその時、改めてきぬなちゃんは、芯の強い女の子だと思ったのだった。
それ以降は、この二人のことを見守り続けていた。
ただ、これからの高校生活では、周囲がこの二人のことを放っていくことはないように思う。
既に小学生の頃から人気のあった伸時ちゃん。
これからますます人気者になっていくことになると思っている。
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