第51話 寝取られについて
俺は夜、家に帰り、シャワーを浴びた後、俺はベッドに横たわった。
心身とも疲れ果てたと言っていい。
平日の朝と夜はいつも自炊。
昼は会社の近くでいつも食べている。
ただ、今日の夜は自炊をする気力がなく、食欲もそれほどはなかったので、一個だけ買ってきたおにぎりを食べた。
そして、すぐにも寝たいと思っていたのだが、今日、前世のことをさらに思い出したので、俺としては、その経験も考慮に入れて、これからのことを考えざるをえなかった。
紗淑乃ちゃん。
俺は彼女とこれからどういう関係を築いていけばいいのだろう?
紗淑乃ちゃんと前世の喜緒乃ちゃんは別人だ。
そのことはお母様からの話で認識することができている。
紗淑乃ちゃんは、前世の喜緒乃ちゃんのような「イケメン第一主義」ではないので、もし俺と恋人どうしになったとしても、イケメンに心を動かされることはないと思っているので、寝取られることもないと思っている。
いや、そう思いたい。
それが、俺にとっては希望なのだ。
ただ、紗淑乃ちゃんと前世の喜緒乃ちゃんには、俺の幼馴染という共通点がある。
幼馴染というのは。幼い頃からの思い出を共有できるという、他人からするととてもうらやましいところがある、
俺も、前世の喜緒乃ちゃんと恋人どうしになった時は、そうした思い出と喜緒乃ちゃんへの愛情が合わさって、幸せな気分になったものだ。
そして、そのまま結婚することができれば、より一層幸せになれるだろうと思っていたのだ。
しかし、俺は一方で、「新鮮さ」に欠けるということを認識せざるをえなかった。
俺自身はそれがそこまで重要なことだと感じることはなかったのだが、後々考えていくと、喜緒乃ちゃんの方は、この「新鮮さ」が欠けていることに不満を持っていたようなのだ。
要するに、長年俺と一緒にいるので、恋人どうしにはなったものの、少しずつ飽き始めていたということだ。
今日思い出した記憶の中でも、前世の喜緒乃ちゃんは、
「もう忠陸ちゃんには飽き始めていたのよ」
と言っていた。
それが、イケメン糸敷の攻勢を受け入れる大きな要因の一つになってしまったのだと思う。
喜緒乃ちゃんも、その内、付き合っても付き合わなくても、俺に飽きてしまうのではないか?
そうなれば、前世の喜緒乃ちゃんほどは「イケメン第一主義」ではない紗淑乃ちゃんでも、イケメンが告白してくれば、あっさり心を奪われてしまうことになる。
その時、俺が紗淑乃ちゃんと付き合っていなければ、幼馴染が取られてしまうというつらさがあるとは言っても、それほどの心の打撃を受けることはないかもしれない。
しかし、紗淑乃ちゃんと付き合っていて、そのようなことになれば、寝取られたことになるので、前世と同じ、いや、二度目ということになるので、それ以上の心の打撃を受けることになるだろう。
そうなれば、また、心と体を壊してしまい、前世のように短い生涯で終わることになる。
前世と違い、俺は会社の社長になっているので、お父様やお母様、井頭さん、そして、社員たちの為にも、これから生きなければならないので、それは避けたいと思っているところだ。
そうなると、紗淑乃ちゃんとは、幼馴染の関係のままにするのが一番いい選択肢のような気がしてくる。
紗淑乃ちゃんも、長年一緒にいる俺よりは、「新鮮な」男子と付き合った方が、より幸せになれるよう気がする。
俺の心は、その方向に傾き始めていた。
しかし、その一方で、せっかく俺に対して「好き」だと言い続けている紗淑乃ちゃんとの関係を進めなくていいのだろうか、という気持ちも湧いてくる。
俺としても、恋までは到達していないとはいうものの、紗淑乃ちゃんの素敵な容姿を見ると、心が動かされるし、「好き」だと思っているのは間違いないと言っていい。
そうなると、これから関係を進めていくことにより、恋人どうしになっていくべきでは……。
俺の心の中では、紗淑乃ちゃんと幼馴染の関係のままでいくべきだという勢力と、これから関係を進めることにより、恋人どうしになっていくべきだという勢力の、二つの勢力が争い始めていた。
どちらの方針で今後進むべきだろうか?
この日の俺は、その決着をつけることはできずに、眠ってしまった。
しかし、俺の心の中におけるこの二つの勢力の争いは、翌日以降も続くことになる。
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